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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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ニリヤのなでなで



竜樹はお昼ご飯を食べる前に、早速一筆アルジャンの奥さんに宛ててカードを書いた。そして、クラージュ印のメッセンジャーに託す。

アルジャンの家は、平民街でも広くて有名なようで、タカラにも調べて貰ってあったのだが、メッセンジャーの子も、ああ、あの家!と知っていた。



『初めまして、アルジャンさんの奥様。畠中竜樹と申します。


今日は突然、子供達と大勢でお邪魔する事になりまして、申し訳ありません。奥様には、ご準備等ご迷惑おかけします。


おやつは、いつも用意しているものが、今日の分も既にありますので、持参します。採ったルージュの実も、食べられたら嬉しいです。


夏は過ぎましたが、今日は晴れだし、子供達は大人に比べてお水を頻繁に飲ませたいので、お水はいただけると助かります。コップは、子供達が乱暴に扱ってもいいよう、寮のものを持参します。


お庭の広い所があれば、布を持って行くので、敷いてそこで休憩できたらな、と思っています。お家の中には、お邪魔しなくても大丈夫なので、ご用意で大変な思いをされませんよう。


おトイレだけは貸して下さい。

きれいに使うよう、子供達には教えてありますが、粗相をしたらごめんなさい。その時は、私たちでお掃除させて下さいね。


本日午後、2の鐘が鳴って少し経った頃、最近の時刻表記では、2時30分頃、お伺いする予定です。

人数は、子供16名くらい、大人9名くらいです。後は、マルサ王弟殿下を含む護衛さんが何名か。

王子達3人と、ワイルドウルフのアルディ王子も含みます。貴族の子達もいます。王子達も、貴族の子も、特別扱いを好む子達ではないので、どうか普通にされて下さい。


それでも、もし、何かご用意されたい、お気にされる、という事でしたら、何かお水の代わりに、飲み物をお願いしたいです。


大人の中に、1人妊婦さんがいます。8ヵ月で、繊細な時期は過ぎており、母子共に健康な方です。

敷物は用意するのですが、冷えたらいけないので、妊婦さんの分だけクッションをお借りできたら嬉しいです。


子供達のお世話人も一緒に行きますし、奥様もお子さんを育てられた方という事で、無理なくですが、もし子供達と一緒に楽しめるようなら、嬉しいです。

皆、ルージュの実を採るのを、楽しみにしています。


では、突然のご訪問、お許しください。

諸々お手数かけますが、どうかよろしくお願いします。』



慌てて準備、何しよう!と、お昼ご飯も食べずに、茶器を出して確認したりテーブルクロスを新しく出したり、おやつは、はわわ!と右往左往していたアルジャンの妻、グラースは。

この竜樹からのカードを、メッセンジャーから受け取って、うおおう、竜樹様、この人は主婦の気持ちを分かっている!!と叫んだ。


「過剰なおもてなしはいらないと明記。そして、何もさせないじゃなくて、ちゃんとやる事も指示してくれる。お家が突然で準備出来ていない事も分かってる。貴方も、これくらい気を遣ってくれたら!!」

「ごめんよ、グラース。でも、ルージュの実が落ちちゃうから、早くしないと。それに家は、いつも君が綺麗にしてくれてるから、良いかなぁと思って。」

怒られてしょんぼりなアルジャンは、何だか哀愁で。そんな夫を、グラースは嫌いじゃないのだ。


はぁ。仕方ないわねぇ。


そうだ。いつだって、アルジャンが仕事で詰まった時に、転換点に、グラースは相談に乗って、料理を作り、関係した人をおもてなししてきた。今回も、仕事が関係してくるかもしれないのだ。

それがなくても!

王子達も含め、子供達がせっかく楽しみに来てくれるのだから、頑張ろう!


「まずは軽く、お昼を食べておきましょう。作り置きで良いわね?そうしたら、沢山お茶を作るわ。子供でもごくごく飲める、軽いものをね。麦茶っていうのを、買ったばかりだから、良かったわ。ーーー何かで頂いた、水差しが幾つかあったのじゃないかしら?探しておかなければね。お茶を冷やす魔道具は、いつも通り貴方にお願いするわよ。えーと、それから、ご飯が出来上がるまで、貴方は、ルージュの実を採るのに子供達が使うザルや、持って帰られる袋を見ておいてちょうだい。確か、息子が小さい時に、親戚中でルージュの実採りをした時のものが、物置にあったから。」

「うん!分かった!!」

用を言いつけられて、嬉しそうなアルジャンに、グラースも、やるぞ!と力が湧いてくるのを感じた。




「私も行って良いんですか?」

寮ではコクリコが、遠慮しいしい竜樹に。


「良いよ!時には気晴らしも必要でしょ。それに、妊婦さんも、時期によるけど、あんまり運動しないの良くないからね。一緒に行って、楽しんで来よう!」

ニッコリ竜樹に、コクリコはジワリと胸が、温かくなる。


こんな人が旦那様だったら、幸せだろうな。


思うけれど、コクリコは、別に竜樹に恋している訳じゃない。ほんわりと、物凄く一緒にいると安心するけれど、トキメキはしないのだ。

むしろ、ラフィネ母さんに時々、ドギマギしている竜樹が可愛い。大人の男性だけれど、ラフィネと一緒だと、可愛いと思ってしまうのだ。子供達とも、わやわやセットで好ましい。

そんな風に思う自分が、嫌いじゃないし、そう思わせてくれるこの寮の皆が、コクリコは気に入っている。


ミントグリーンのマタニティウェアを揺らして、そのお腹の下に、温かいものが触れた。

ん? と目を下に向けると、ニリヤ王子殿下が、下腹にくっ付いて、上目遣いでコクリコを見ている。


するり。なで〜なで。

ムフン。

ポフポフ。


ニリヤはこんな風に、コクリコの側を通る時、ふ〜と、やさしくお腹を撫でて、ポムポム、ニコニコッとしていく。それも、何度も何度も。

余程、コクリコが子供を産む事になったのが嬉しいらしい。

喜ばれて最初は複雑だったけれど、今は何だか、慣れて嬉しいような気もしてきている。


ニコニコ。

笑いかけられて。つぶらな瞳とは、こういうのを言うのだよなぁ、とニリヤ王子を見て思う。


ニコリ。

コクリコも笑い返すと、えへへ、と満足したように離れていくニリヤなのだった。


トコトコトットコ、ご飯の用意をするために手を洗いに行くニリヤ王子の、小さな後ろ頭、跳ねた頸の毛をジッと見ていると、竜樹も同じニリヤの後ろ姿を見ていた。

ほんわり、ニッコリ、小さなショボショボの、愛おしいなという目をして。


ああ。

私の子、赤ちゃんも、こんな目で見られる子であって欲しい。


強烈な欲求は突然で、ふる!と頭を振れば、次の瞬間には竜樹は、はーい手を洗ったら、竜樹父さんもご飯をよそいまーす。配る担当の人は、三角巾をしてねー。と声をあげて、さあさあと子供達を纏め始めていた。



お昼寝も済んで、ルージュの実、採りに行こう!と、まだムニムニしている小っちゃい子達も連れて、諸々の準備をして出掛ける。

テレビ電話で繋がっている他の教会孤児院には、スケッチブックに大きく、『ルージュの実を採ってきます!沢山採れたら、皆で食べようね!行ってきま〜す!』と書いて置いておいた。

地方と王都の教会孤児院の子達は、また何か、竜樹とーさが面白い事やってるぞ?と期待して、皆が帰るのを遊びながら、勉強したりもしながら、待つのだった。


新聞販売所では、アルジャンと、アルジャンの家の下働きの少年が、もう待っていた。一角馬車の中、スマホの時刻を確認したら、ただいま2時20分くらい。早くもなく遅過ぎもしない、程よい時間にアルジャンの家に着くだろう、と竜樹はホッとした。

アルジャンと下働きの少年にも、一角馬車に乗ってもらい、細かく道案内してもらいながらケートゥ邸へ向かう。


「竜樹様、カードのお心遣い、ありがとうございます。妻が、主婦の気持ちを分かってる!って叫んでました。カードが無かったら、妻も私も、おもてなしに取り憑かれて、てんやわんやだった所です。」

ハハハ、とアルジャンは快活に笑う。

ご主人•••と残念な顔で、下働きの少年、シェールはそれを見上げている。

ご主人は良い人なんだけど、奥様の家事とかおもてなしとか、細かい所が、あんまり分かってないんだよなあ。手伝いもしない訳じゃないし、横暴でもないんだけど、今一つ理解してない。急に、人を招ぶとか、こういうとこ。


外に働きに出ている男とは、そんなものなのかもしれないなあ、とシェールは、丁寧なカードをくれた竜樹をジッと見た。

それに比べてこの人、ギフトの御方様は、何でこんなに家の事が、分かってるんだろう。

今も、小さな花束と、籠に焼き菓子らしき、きっとお土産をタカラに持たせて、心遣いがある。


竜樹はシェールの視線に気づいて、手を伸ばし、頭をクリクリ、と撫でてきた。

「こんにちは〜。」

「こ、こんちは!」


お孫さんですか?とアルジャンに聞く竜樹は、いえいえ近所の子で、妻の手助けに下働きに来て貰ってるんですよ、との応えに、ヘェ〜、とシェールと目線を合わせる。

「アルジャンさんは、優しくして下さるかい?」


いや、本人を目の前にして、冷たいですとは言えないけれども。でも本当に、ケートゥ家の旦那様と奥様はお優しいから。

「はい!しごとは大変じゃないし、時間がある時に、旦那様がおれにも読み書き教えてくれます!それに、奥様はお菓子作りがじょうずで、よく分けてくださいます!」

ハキハキと答える。

「うんうん、良いねえ。そうなんだ。お名前は?」

「シェール。」


「うちの子達も頑張ってるけど、シェール君も頑張ってる良い子だねえ。」

良い子良い子。

なでくり、とされて、シェールは胸がポッポッ、くすぐったい気持ちがした。

ギフトの御方様が、子供達の味方だって、本当だな。帰ったら父ちゃんと母ちゃんに教えてやらなきゃ、とシェールは頬もポッとして、気持ちよく目を瞑って撫でられた。

アルジャンはそれを見て、嬉しそうにしていた。



「あらあら、まあまあ、初めまして!良くいらして下さいました。ギフトの御方様、王子様方、それに皆さん!」

グラースは久しぶりのお客様に、高揚した気持ちで、門を入ってしばらくの家の前で待ち構え、早速ご挨拶した。

「本日は突然すみません!ギフトの畠中竜樹と申します。初めまして、奥様!」

「いえ、いえ、我が家にいらして下さり光栄です!私、アルジャンの妻の、グラースと申します。」


グラースさん。

復唱した竜樹は、説明しながら、花束と焼き菓子をタカラから貰い、お土産として差し出す。

「ルージュの実を、アルジャンさんが新聞売りのウチの子に下さって、ご縁ができまして。本来ならもっと時間を置いて招んでいただく所、自然の収穫物の手前、図々しく訪問してしまいました。これ、お近づきの印に。焼き菓子は王宮で焼いて貰ったものだから、美味しいと思います。グラースさんもお菓子作りが上手なんですって?」


あらあら、まあまあ、ありがとうございます。

グラースの機嫌はまた一つ上がった。なかなか、夫の連れてくるお客様は、研究者などが多くて、悪い人ではないが他の雑事には疎かったりもして。こんな気の利いたお土産をいただく事は、あまりないのである。


「グラース夫人。今日は色々とお世話になる。お招きいただき、ありがとう。第一王子、オランネージュだ。」

「ルージュの実、楽しみにして来たよ!第二王子、ネクターです。」

「おまねき、ありがちょう。第三王子、ニリヤです。」

口がちょっと、回らなかったね、ニリヤ。

「ワイルドウルフの第二王子、アルディです。ルージュの実、ワイルドウルフでも私、見た事ないから、今日はたのしみです!」


「まあまあ!王子殿下達、お迎え出来て嬉しゅうございます。収穫の準備は出来ておりますから、いつでも始められますよ!」

ざっくばらんに、始められるよー、と庭に促して。


わぁわぁ!と嬉しそうな子供達、歩行車のエフォールや、視力の弱い組、アミューズ、ピティエ、プレイヤードと手を繋いで、ゆっくり。小ちゃい子は小走りにトットコと、お庭に案内される一行。


家の裏手に回れば、広い広いお庭、一面に、赤い実が生った低い木が。もう落ちんばかりに熟した実を重く茂らせて。


「うわぁああ!いっぱいあるね!」

「すごぉい!」


キャキャ!と喜び、ザルを個々に渡されて、採りゴロの実の色を教えてもらった子供達はもう、ルージュの実に夢中。むしり、むしりと、さくらんぼ程の大きさの、真っ赤な実を採り、時には口にして、甘い!なんて声をあげている。


その後ろ、付いてきたコクリコは、何だか高い空、たなびく雲の下、空気が気持ち良いな、と。心なしかお腹の赤ちゃんに押されて、小さくなった胸の中に、いや物理的にはサイズが増した胸だったが、すうっと息をいっぱいに入れた。


グラースは、あ、このお嬢さんが妊婦さんなのね。大分若い方だけれど、ご結婚されているのね、とニコニコ自分の妊娠した時を思い出して、話しかけた。

「こんにちは。初めまして。お嬢さん、私はグラースと言います。妊娠されて、おめでとう!良かったわね。生まれるのが楽しみねえ。今日は楽しんで行ってね!」


好意100%のこれに、コクリコは何と返事をしたら良いのか、分からなかった。


でもーーー。

父や、兄みたいに、コクリコに会いに来る度、悲しい顔で。

チラチラとお腹を見られるより。

よっぽど清々しいような気がしたのだ。


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