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みんなの王子様

「あのテーブルはね、ニリヤ王子の大切な、母様へのお祈り場所なんです。リュビ様のハンカチ、洗濯しなくていいですから、返して下さいね。」

「皆さん、知らなかったかな。もう洗濯に回しちゃっているのかな?」


竜樹は穏やかに、犯人の侍女に聞いていく。

「は、はい、もう洗濯に!すぐ、すぐお持ちしますから!」

あたふたと取り繕う侍女だが、周りには一歩二歩と避けられ、王に命じられた兵士が2人、すっと近づいていた。


「リュビ様の残したドレスなんかも、洗濯している所なんですかねー。何だか、ニリヤ王子とリュビ様のお部屋にも、衣裳部屋にも、幾つもあったドレスやニリヤ王子の服や装飾品が、ないようなんですよね。」


竜樹は、問い詰めないようにして。が、ゆっくり、関わった人達にわかるように、膠着していた状態を紐解いていく。


「側妃様のドレスやニリヤ王子の服、装飾品は、購入記録があると思います。それと、廃棄や下げ渡し、売却の記録を突き合わせたら、今、衣装部屋なんかになくて、洗濯している分がわかると思います。処分する命は出していない、仮に誰がいいと言っても、許可しないと王様もおっしゃってますしね。」


グルリと人々を見回して。

「記録はこちらにあります。まだ整理してないですが、不明なものがあったら、皆さんに聞いていくことになります。」


「どんなに時間がかかっても、明らかにしていきたいと思っています。リュビ妃のものは、ニリヤ王子の大切な思い出でもありますし、そもそも国のお金で買ったものが、曖昧になってるの、良くありませんよね。皆さんーーー。」


すう、と息を吸い。

「王宮は、皆さんがいないと一時もまわりません。兵士さん達が守る、鍵のない貴人の部屋に、皆さんは、入ってお仕事をしています。」


「それは、あなたたちを、信用しているという事です。人がやる事だから、間違いはあるでしょう。ですが、どんな小さな仕事でも、信じて任されている。この国を運営していく、大切な方々を、貴方達のする仕事が支えている。誰がやってもいい、適当でいいと思う事もできるし、自分がお支えするんだ、と誇りに思い大切に仕事する事もできる。」


「『神の目』は、見たままを明らかにします。」


「どこか、誰にも見られていない、取るに足りない仕事だと思ってはいませんでしたか?本当はそんな事なかったはずです。お仕えする主人それぞれが見ていて、近く関わってきたんですもんね。」

一息、溜める。


「それに加えて、『神の目』が見ています。」


「これまで、個々の主人の意向に合わせようとして、ぶつかり合う事がなかったですか?それらが、複数の人の目の前で、公にされるということです。そして公平な目で、裁かれますーーー。」


キッ と眉を上げて。

「皆さんの行動は、いつでも見られています。どうか良心に則った行動を。誇りある仕事をお願いします。」


「そして、最後にお願いです。」

ぺこりと頭を下げる。


「母親を慕うニリヤ王子の事を、皆さんで盛り立ててやって下さい。ニリヤ王子にとって、王宮は家です。家に、信じられない人がいるって、最低じゃないですか?安心できないでしょ。俺もそんな家、いやです。」


竜樹は、ドレスや装飾品を取っていったのが、キャナリ側妃の命かどうかは、問わない。


それをしていいのは今じゃない。


もし今みんなの前でそれをしたら、側妃が王様に不興を買い、その上で益々ニリヤが敵視される事になる。

ぶち当たる事が必要なことはあるが、まだまだ竜樹の力がどこまで通じるかも分かっていないし、不揃いな家族の車輪なら、それぞれ適度な距離感で回れば。

諍い合うなら、遠くで暮らせばいいのだ。


「キャナリ側妃様、ニリヤ王子の為に、俺に協力していただけませんか?」


不意に話しかけられて、側妃は、ぱちぱち不思議そうに瞬いていた目をニリヤに留める。

「何故わたくしが、平民王子の為などに協力しなければなりませんの?」


「キャナリ側妃様に、それだけの力があるからです。それに、王は思うでしょうね。母を慕うニリヤ王子の為に、協力できる側妃様は、優しい方だと。王は、男というものは、諍い合う妻達を、疎ましく思うものですよ。そして、優しさを尊ぶものです。」


簡単な事ですよ。

「ただ、側妃様の侍女達にも、洗濯中のドレスの行方を聞く機会を頂きたく。誰しも間違いはありますから、間違って売ってしまったりした事もあるかもしれません。それらを取り戻したいと思うだけなのです。」

実際には、お金の行方も責任もハッキリさせられるだろうが。


「それくらいなら、よろしくてよ。まあ、間違って処分してしまった者がいたとしても、あまり責めないでいただきたいわ。わたくしが使う品と違って、大して碌な品でもないでしょうし。」

「それにしても、こんな事で呼び立てられるなんて、面倒ですわ。」


興味なさげに側妃は言うが、側妃の侍女達は、揃って顔色を白くした。


それから、ニリヤの母様のハンカチは、2人の兵士に挟まれた侍女が連れて行かれた私室から見つかり、すぐに返された。


キャナリ側妃の侍女達は、問い詰められる前に、売り払ったドレスや装飾品を買い戻そうと、焦って出入りの商人に連絡をとった所を押さえられた。


王妃は嬉々としてその侍女達を処分した。着服していたドレスや装飾品の売却金を取り返し、それをもって買い戻せるものは買い戻した。品物の4割が戻り、残り6割の代金は、ニリヤ王子の養育の為、何かあった時の、余剰費用となった。


キャナリ側妃は、侍女達の処分に、特に興味は示さなかった。

侍女のある者は『キャナリ側妃に命じられた』と言うし、ある者は『金の為に自分でやった。』またある者は『キャナリ側妃に気に入られたくてやった』と言う。

そのどれもが正解なのだろう。


『ニリヤ王子とリュビ側妃のものなら、大丈夫だろうと思った、みんながやっていたし、』と何人かは口にした。


過去は映らないのだが、そういう説明はしなかったので、神の目で明らかにされるのを恐れて、皆自分からどんどん罪を喋った。ギフトの御方様には逆らえない、と。




竜樹は、取り戻したハンカチを抱きしめて、泣き疲れて眠るニリヤの側、ベッドに座る。


「俺がニリヤを、みんなの王子様にしてやるからな。」


ぽん、竜樹の肩に手をかけるマルサ。寝支度をしている。朝鍛錬をするので、夜が早いのだ。


「俺も手伝うよ。」


「私も勿論、手伝います。」


ミランは撮影でくったり疲れて、スツールに座り、カメラをテーブルに置いていた。

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