閑話 花の兄6
まず竜樹は、ニリヤの平民の方のじいちゃま、クレールじいちゃんと繋ぎを取った。
T字カミソリと、ケーキ屋さん•••アレルギー対応専用ケーキ屋と、普通のケーキ屋2つ•••について、打診をするためである。
T字カミソリは、現物のイメージをスマホで見せられるのが竜樹しかいない。ふむ、ふむ!とクレールじいちゃんは頷き、これなら自分でヒゲを剃る時にやりやすいだろう、女性も脱毛しやすかろうし、と大変興味を持った。
早速、刃物職人さんを呼んで、ああでもないこうでもない。
日本にあるような、ヘッドが滑らかに動いて薄い2枚刃3枚刃で、というヒゲ剃り専用のお高めのは、竜樹の誕生会までには無理だろう、という結論に達した。
ならば、固定されているが、形はシンプル、簡易にT字で、刃は研げば長く使えて切れ味良く、万が一にも肌が切れないよう、魔法で制限をかけた品ではどうか、となり。
サンプルを見るに、刃と一体型の銀に光るそれは、何とも渋くてデザインがカッコよくて、男心にも唆る品が出来そうだ。
完成品はお楽しみに!となり、王子達にもサンプルを見せるべく、満々と満足のクレールじいちゃんである。
ケーキ屋は、エルフのフランとナップを呼んで、まずはケーキ屋を、それぞれやってみないか、と打診する所から。
もし受けてくれなくても、誕生会のケーキは一緒に作ってくれませんか?貴方達のお菓子作りの腕と、アレルギーに対応できそうな植物材料を知っている、そのエルフの知識を見込んで!と頭を下げて頼んだ結果。
素朴で繊細な菓子を作る、フラン姉エルフは。
「私らが、本当にケーキ屋を?ジュヴールに痛めつけられてしょぼくれちまって、行き場を無くしてた私らを、助けてくれた、パシフィストの人やギフトの御方様の言う事なら、何でも助けてやりたい、って気持ちもあるけどさ。それに加えて、アレルギーで困ってる、悲しんでる子を喜ばせる事ができる、私らのお菓子で!それって、すごく、やる気が出るんだけど!」
と鼻息も荒く前のめり。
大胆な計算されたお菓子を作る、ナップ弟エルフは。
「ケーキ•••デザートの王様!すごく興味あります!姉が言うように、アレルギー対応の材料、私たちの知識で何とかなるかも、それも興味深いし!長らくエルフの子供達や皆の為に、森ではお菓子を作ってたんだ。喜ばれて嬉しかった。お店をやっていた訳じゃないけど、残りの半生、ケーキ屋、やってみたい!良いじゃないですか!その話、もっと聞かせてください!」
と大変な乗り気に。
アレルギーの材料は、少しでも混入するとまずいから、普通のケーキと作業場、店舗を分けたい。そして使った材料を一つ一つの商品に提示、添付したり。
全てのアレルギーに対応すると、材料が狭まり過ぎる事もあるし、食べたい味が食べられない、なんて事にもなるから、主にナッツとかだが、それを扱うのに事故が起きないようにするには、とクレールじいちゃんも交えて話し合った。
浄化の魔法はここでも使えるらしく、徹底して魔法チェックを入れながら、ナッツは作業場の専用の区切られた場所で扱い、材料もそこに置き。使った際には作業場全体の浄化を行い、売り場も分けて置く事に。
フランとナップは協力しつつも、フラン姉が米粉を扱うルリの店とも提携した、アレルギー対応の店、ケーキを。
弟ナップが、普通のケーキ屋をやる事にして。
店はあっという間にーーー作業場が必要であった為ーーー突貫で作られた。売り場はまだまだだが、作業場はバッチリ、クレールじいちゃんの実力と人柄をもって、仲の良い工務店が請け負ってくれ、丁寧だが急ぎの仕事をしてくれて、さて。
ここからが、試作である。
何せ、実物を食べた事があるのは、竜樹だけ。材料の調達は、クレールじいちゃんや、タカラが骨を折ってくれ、何とかなった。試作、試作、試作。
王道のスポンジデコレーションケーキに、チーズケーキ、レアにベイクド、合間にチョコレートケーキを•••健康ドリンクとして地方に流通していた、ドロドロの飲み物を発見して、エウレカ!と叫んだ何ヶ月か前の竜樹であったが、それを最近チョコレートとして流通させるのに成功したばかり。ケーキに応用するのも、間に合った、と感嘆しきりの竜樹に、ヘェ〜!と珍しい食材を試すのに楽しそうなフランとナップ。
乳製品の代わりの植物は、エルフの森に生えていて、茎を切るとジュワァとそこから乳白色の液が出るのを使う。卵の代わりは、胡桃の、木になってる時のような青い丸い実が、白身の実。同じ木に、茶色い実があるが、それが黄身の実である。青い実が成熟すると茶色くなる訳ではなくて、最初から別々なのだと。
ナッツも、これならどうかなあ、とムカゴのような粒々で蔦に生える実を提示されて、試す事になった。香ばしくて、ピーナッツとアーモンドの中間みたいな味である。もし使えたら、嬉しい。
クラージュ商会で、葉っぱの鑑定をするお兄さん、リールが、効能とアレルギーの有無を調べる為にいてくれたのだが、何とかしてエルフの森で植物の鑑定をさせて下さい!と頼み込む事態に。
リールは、竜樹が渡した役にたつ植物図鑑、みたいなものを作るのが、夢になったのだそうで、とても熱心に頼み込んでいた。一般にはまだ売っていない商業用のカメラで写真も集めているそうだ。
悪い人が入ってくるとなー、と人を拒んでいたエルフの森なので、すぐには迎えてあげられないが、エルフ達と仲良くなって、信用できたら良いかもよ。と言われて、リールはエルフの救護所通いを始めた。そこでとある傷ついた、可憐な女性のエルフと出会い、恋をする事になるのだがーーそれは、また、別のお話。
アレルギーについては、パッチテストも行った。アレルギーの教会孤児院の子、小麦粉アレルギーのスリーズ、卵アレルギーのフィスキオ、乳製品アレルギーのヴィーノ、その他アレルギー持ちの子達である。
エルフの食材は優秀で、パッチテストをことごとく良い成績で終えて。使えるぞ!となった!
クレールじいちゃんと、身体の事なのでアルディ王子に付いている魔法療法師のルルーがいてくれたのだが、パッチテストに食いついた。
結局、フランのアレルギー対応のケーキ屋に隣接して、パッチテストと癒しーーーアレルギーにも癒しの魔法は効いたのだーーー魔法をしてくれる、アレルギー専門医療の小さな診療所も開設する事になった。
ケーキの試作をしながら、ご馳走ハンバーガーとフライドポテト2種類、茶碗蒸し、グラタンでも王宮の料理長と相談である。クレールじいちゃんは、このお誕生会のレシピ本を出そう、と帯同している。商機を逃さないじいちゃんである。
だがしかし、それをする事で、他の事業者、時には同業の商人達にでさえ、適する!と思えば仕事を振るじいちゃんなので、竜樹御用達でも、ずるい!とか言われず、皆に好意的に受け入れられているじいちゃんなのである。
料理長は、ケーキ、面白いところをエルフにとられちまったな、あはは!と笑っていたが、普段から竜樹には新しいレシピをもらっていたので、余裕の表情。
試作も、何回かハンバーグとソースとパンのバランス、フライドポテトのハーブの調合などで重ねたが、概ね美味しい、満足する出来になった。茶碗蒸しは、竜樹直々に伝授した。かまぼこは、やはり、おさかなのおにく、として地方に存在していたので取り寄せて。グラタンはマカロニ作りにちょっと手間がかかったが、ちょうどパスタも作っちまえ!とやりきったし、ほくほくとろーり美味しく出来た。
他に、この国の料理、お野菜を小さく切って入れた澄んだ味のスープや、豪快なお肉のロースト、カシオン風のサラダ2種類なども良い具合である。
ろうそくも、細い小さいものと、こちらの数字を模したものが出来上がってきた。ケーキのデザインと合わせて、調整、というか幾つかデザインを足して作った。フランの店にも置きたいからである。ろうそく職人が、誕生会のお菓子に使ってもらえるなんて、そんな大事なお菓子に!と大変感激したそうである。
子供達は、飾り付けの準備も余念がない。竜樹に頼んでコウキ達と連絡を密に取り合い、準備の進捗を話す中で、飾り付けの事を知ったからである。
風船はなかったから、大きな紙にみんなで、お誕生月、おめでとう!と一言ずつ寄せ書きしたり。お花やフラッグを紙で作ったりして、楽しんでいる。
生花も飾ろう、と決めて、エルフの花屋さんに発注をした。
エルフの花屋さんは、え、竜樹様のお誕生会!?とびっくりし、そして素晴らしい花々を揃えて、良い仕事をしたが。
(テレビでも放送されるんだもんね。これは、お花を竜樹様にあげたい人が、増えるんじゃない?)
と商機を感じ、エルフの生花育成農家部隊に、急遽、大量追加発注をかけた。
それが間に合わないほどになるとは、この時はまだ、エルフも竜樹も、誰も知らない。
コウキやサチ達も、テストやレポートをせっせとこなしながらも、材料を買い集め、飾り付けの小物の用意を文さんと千沙ちゃんがし、着々と準備が整う。ケーキはお店のだが、ちゃんと美味しい地元のケーキ屋に頼んで、竜樹兄33歳おめでとう、と書いてもらうつもりである。
柊尚とぽん太君は、家族に近くお誕生会に招待されて、涙ぐむほど喜んだ。主にぽん太君はご馳走に感激なのだが。
そして、そして!
さあ、お部屋を飾り付けよう、誕生会当日である!
招待する人に、アルディ王子を足しました!
閑話 花の兄4にちょこっと。
アルディ、忘れてごめんよ。




