結婚式をやっちゃわない?
「お二人、結婚だよねぇ〜。結婚式するの?」
竜樹がお茶をすすっと口に含んで聞いた。
ついさっき結ばれたジャンドルとコリエを、さあ、さあ、と並んで低い卓につかせクッションに座らせ、タカラがお茶を淹れて、大人達は打ち合わせである。
子供達が交流室でコロコロしているから、高い机は椅子も必要だし、椅子を動かした時に踏んだりしちゃいそうだったり、もし机の上の物が落ちたらと、何だか危ない感じがするので。そういう時は良く折りたたみの低いちゃぶ台を使っている。
リオン夫人とラフィネ母さんもちゃぶ台に着いて、お茶に口をつけて。エフォールは嬉しげにうふうふと、今は頼り甲斐のあるリオン夫人の背中に、膝立ちでペタッとくっついて話を聞いている。
「それよ。ラフィネさんともお話したのよね。そもそも、結婚にたどり着く事ができるのかしら?ジャンドル様のベルジェ伯爵家のお父様お母様、私が知っている限りでも、かなり保守的な貴族らしい貴族な方なのよ。」
リオン夫人が、その場で挟んで作る、サクサクの最中を上品に食べ、お茶飲みつつ。
「コリエと結婚する為なら、貴族籍を抜けます。騎士団でも平民枠に降りれば良いし、給料は下がるけど、縫いぐるみ作家エルドラドの活動も随分広がってきてるから、稼ぎは安心して欲しい。」
ふん!とジャンドルは鼻息荒く。
コリエはそれに、思わしげにジャンドルの手をポンポンと叩く。
「早まらないで、ジャンドル。貴方のお家、ご兄弟はいないし、跡継ぎは貴方だけじゃない。お父様お母様も悲しまれるし、出来れば強引な方法はとりたくないわ。わ、私のせいなんだけれども、ね。」
「ありがとう、コリエ。でもね、コリエは最初から俺の婚約者だったんだ。結婚は、する。どんな形であっても。俺の悲願だし、お嫁さんにして、ってやっとコリエも言ってくれたし、譲れない。」
ぎゅぎゅ、とコリエの手を握り返すジャンドルである。おおぉ、熱い!
ムフン、とエフォールはニコニコである。ジャンドルお父様とコリエお母さんが、貴族であろうが平民であろうが、仲良くするのは変わらない。2人が愛し合っているのは、変わらない。それが嬉しい。
「貴族籍を抜けるのは、慎重になった方が良いわ。一度抜けたら、お父様お母様が認めて下さらないと、なかなか戻れないし、決定的な事になってしまいそう。跡継ぎの事もそうですけれど。縫いぐるみ作家のお仕事は、正体を隠していても、貴族だから信用と紹介があって高価な縫いぐるみを買って頂けた、という事がない?平民に降りて、勝負をするのも良いけれど、良く考えてみてで遅くはないわ。」
リオン夫人の言う事も、尤もである。
うぅ〜ん。
何かいいアイデアはないものか。
「保守的なお父様お母様だっていうなら、結婚式しちゃえば良くないかしら?」
案外大胆なラフィネが、そんな事を言い出した。貴族組がキョトンとしている。
「招待する事が出来れば、それに成功すれば、結婚式で、それを中止に!って仰らなそうじゃないかしら。まあ、その後の生活が大変でしょうけど•••。」
「おおぉ、ラフィネさん、その発想、すごいね。」
竜樹の驚きに、ふふ、と頬に手を当てて照れるラフィネは、続けて。
「平民では良くある事なんですよ。特に花嫁の父親が、結婚を認めない、なんて事がね。結婚する2人で、協力してお金を貯めて、新生活の用意や、式を準備してしまうんです。父親も、ここまでするなら仕方ない、という体をとるのですわ。周りの人も招べて認められ、式が準備できるなら、一人前か、とね。」
ヘェ〜、うん、うん。
ジャンドルも、パッと顔を輝かせて。
「ああ、式をしてしまえば、きっとあの人達は出席せずにはいられないでしょうね。招待客もいますしね、その方達に面目ないと思いそうです。始まってしまえば、式を中止もぶち壊しもしなそうです、外聞をとても気にする父母ですから、みっともなく揉めるのを嫌がります。生活は同居しなければ良いし。うん、良い案だな!」
それでいかない?




