横たわるクマちゃん
幼心の君が、バスチアンに必死でお願いを。
瞳輝き、ひゅん、と息を飲む、子供達。
赤銅色の本の電子書籍を、子供達に読み聞かせする竜樹である。
それまでは、チラリチラリと、ラフィネ母さんが出かけてからずっと、ずっと、寮の入り口を見ては、まだかなまだか、している竜樹に。マルサが、ふー、とため息ついて。ペチ、と肩を叩いた。
「さっき出かけたばかりだろ。本の読み聞かせでも、子供達にしてやれよ。気にしてたって用が済むまで帰ってこないだろ。」
「あ、うん、うん、そうね。そうか。」
眉を下げ、はふ。息を吐いて、常のゆるりとした雰囲気を心配に変えて。
読み聞かせの続きするよ〜、と竜樹は子供達を呼んで、交流室にゴロリゴロリと皆で横になり。繋がったテレビ電話で、地方の教会の子供達も、どうなるの?しー、だまって、くすくす、と竜樹のお話に集中しワクワクしている。
ロテュス王子も、竜樹の側にくっついて、電子書籍と物語に興味。今日は、プレイヤードも、ピティエも、そしてエフォールも、お泊まりである。
特にエフォールは、先ほどラフィネとリオンお母様から、『今日は寮で待ってて!お泊まりしてね!』とクラージュ印のメッセンジャーが来たので、ゆったりとクッションに顎を乗っけて寝転び、最近筋肉のついてきた足を伸ばして、時折パタ、パタン、揺らしている。
あぶあぶの赤ちゃんツバメを抱いているシャンテさんは、少し離れた所でツバメの背中を、とん、とん、リズミカルに叩き。
子供達と一緒になって、元王女エクレとシエルは部屋の隅っこで、クッションに座って、本の続きに目を輝かせている。
初々しいエルフのお世話人2人は、寝転んだ子供達に寄り添って、慈愛の微笑みでいるし。
3王子もアルディ王子もコロコロしつつ、竜樹に寄っかかったり、肘のしわしわを弄ったりしながら聞いている。
穏やかな時間、読み聞かせは次第に熱が入り、手振り身振りも入って読んでいると。
「あらあら。素敵な物語の途中ね!ただいま帰りました〜。」
ニコニコとラフィネが、交流室の入り口に立っていた。辛子色のスモックのポケットに、両手を突っ込んで、ウフ!と何だか嬉しそう。
バッと勢いよくラフィネを見上げた竜樹は、本の続きを忘れた。
「!お帰りなさい、ラフィネさん!無事で良かった!」
「ええ、大丈夫ですよ、心配かけてごめんなさい。それから、エフォール様!」
ニコニコとエフォールを呼んで、さあ!と入り口の向こうへ顔を向けて、クイッと手招き。誰がいるの?と子供達も、はてなの顔で待つ。
「!!!」
クッションを抱えてペタンと座ったエフォールが、声もなく。
コリエが、藁色クマちゃんを抱えて、俯き加減でおずおずと。
その後ろ、笑顔で肩を抱いて促すのは、リオン夫人で。
「コリエ姉さんの借金は、エフォール様のリオンお母様が、一括で肩代わりしたわよ!もう、花街で働かなくていいの。」
「なんたってエフォールのお金も預かったんですから、やり遂げたわよ!どう?エフォール、もう泣かないで良いのよ!」
得意そうなお母さんズに、ふわ、ふわわ、うわぁ!とエフォールが興奮して。
「コリエ、お母さん!お母さんって、言っても良いよね?私、私、エフォールです!フリーマーケットの時は、お母さんって言えなかったけど、でも、良いよね!?」
コリエは、ぎゅぎゅ!とクマちゃんを抱きしめて。ぎゅむ!と目を瞑って、真っ赤な顔で。
「は、はい•••!」
「コリエお母さん•••!」
膝立ちで、時に床に手をつけながら、いざってよたよた、近づくエフォールに、さあ、さあ!とお母さんズがコリエを押し出して。
ぎゅぎゅ!
母と子と、抱き合う間に挟まれたクマちゃんは。今は分身じゃなくて本物のエフォールが、血の通ったまだ少年の身体が、素直に迎えて柔らかな母の背中に手を回したから。ポトリ、ことんと落ちて、仕方ないなぁ、っていう風に、床に横たわった。




