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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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初代イストワールのガイド

「アルディのだけ、いやほんちがうね。」


ニリヤ王子は、耳に取り付けられた自分のイヤホンガイドの機器を触りつつ、ぴょん、と上に飛んで、背がニリヤより少し高いアルディ王子の、ぴこぴこ狼耳に装着されたものを見た。


獣人は耳の形がそれぞれ違うので、耳穴方式、かけるのではなくて穴に、ぎゅむと差し込む形のものである。柔らかな手触りの、可変型で、どんな獣人の耳穴でもピッタリする。

ガイドを聞くよのボタンは、リモコン。手に持って歩くのだ。

小さな四角い、ボタンが一つ真ん中についているだけの、シンプルな艶白のリモコンである。


「うん。イヤホン、いい感じだよ。獣人にもつけられるイヤホンガイドを用意してくれて、美術館、うれしいな!」

アルディ王子が、ニッコリ尻尾をブンブンと振って、喜びを示す。

ボンはニコ、として。

「種族関わらず、沢山の、色々な人に利用してもらいたいですから!」

グッと拳を握り、熱く語った。


じゃあ、行ってみようか。

最初は皆で固まって、サワサワと最初の展示物に近づく。


ニリヤはアルディ王子と手を繋いで、ガラスケースの中に入っている、絵画じゃない、一冊の古い古い、ボロボロの本を見た。本は開いてあって、重しにガラスの細長い板がページを押さえている。小さな字が書いてある。ニリヤには、難しくて読めない。


ポワン。ぶるる。

イヤホンガイドの合図だ。

見れば、ガラスケースには、イヤホンガイドの情報があるよ、の印、お耳のマークが、小さく付いている。


びくん!と肩を震わせて、ニリヤはびっくりして、ムズムズして、その後ウフフと笑った。アルディと顔を見合わせて、後ろにいるオランネージュ兄さまと、ネクター兄さまを見て、エルフ一家と、ししょうの竜樹を見て。

「ボタン、押してごらん?」

竜樹に促され、ぽっちり、と押した。



『いやいやいや。初めまして。みんな、良くこの本に出会ってくれたもんじゃ。書いた私も鼻が高い!え?私は誰か、だって?聞いて驚け、私こそが、この大陸の歴史の、いちばん古い1ページを本で残した、その名も初代イストワールである。この本には、エルフの事もちゃ〜んと載っておる。大体、五千年も前に書いたものじゃ!良く残っておったのう。保護の魔法がかかっておるからじゃぞ。この本が、発見された時の話も面白いのじゃが•••あ、いや、エルフの話じゃったか。それでな、私の家系は今も続いていて、何と代々歴史を書き残す仕事をしておるのじゃよ!まぁ、血は繋がってはおらんのじゃが。血のつながりより、実力のある者を見出して、跡を継がせておるんでね。子孫たちは、その時その時で、住んでいる国の偉い人に、歴史を都合よく書くよう言われるのが嫌で、ちょくちょく国を移ってでも書きたい事を書いておるから、時には偉い人に追われてのう。悲惨な目に遭った子孫もおってなあ。』


ぱくん、とニリヤのお口が開く。

なかなかエルフの話に、ならないのである。


『なに?話が長い?いかんいかん、つい本を書くようなつもりで、話してしまうな。エルフの事じゃったね。この、目の前の本には、エルフが、神様から、調停者の役を頼まれた事が、書いてあるんじゃ。大きく写したページが、本の隣にあるじゃろ。そこの部分に、そう書いておるのじゃよ。』


へええ、と本と、拡大して写した部分を、顔を集めてそれぞれじっと見る。

今にも崩れ落ちそうな本に、歴史が詰まっている。


『人々がこの大陸に現れ、争うようになった。まだ、国々ができておらんで、皆小さな集落でバラバラの頃じゃ。長くその小さな争いの時代は続いたのじゃが、それは書物に残っておらんで、遺跡から出てくるものなどで推測するしかない。』


ニリヤが最近やっている、れきしのお勉強、みたいである。知ってる事も少しある、とふむふむ聞いている。


『そのうち、国と言われるものができ、小競り合いどころじゃなく、大きく争いが起こったのを、神は憂いた、と言われている。寿命が長くて人々を見守るに良い、のんびりした、それでいて魔法も強く、自由で平和を愛する性格を持った種族として、エルフは神様に見込まれて、頼まれたんじゃな。神託があった、と言われている。その神様が、どんな神様だったか、詳しい事は残っておらん。だが、昔のエルフも、現在のエルフも、ずっと調停者をやってきたのじゃよ。その様子が描かれた絵画たちへの旅を、私、イストワールが、ちょこっとガイドしよう。いや、そんなに長話はせんよ。ほんと、ほんと。絵の邪魔はせんから、話を聞いておくれよ。』


くすす、と子供達が笑う。

何となくユーモラスなおじさんなのだ、イストワール。

ボンが探しに探して頼んだ、明るくて、かつ深い声の素晴らしい、中年の名脇役の役者さん。吹き込みの台本も、ボンが書いた。


『さて、ではまず、その神託、神様にエルフが調停者を頼まれた場面の絵画を見ていこう。この場面は、みんなが描きやすくて、だって、ほんと、絵になる場面じゃろ?かっこいい、ってやつじゃな!神々しくてな!たくさんの画家が描いておるから、見てごらん。』


『絵の順番は、古いもの順じゃ。昔の画家ほど、神とエルフとが、同じ大きさで描かれておるのが分かるじゃろう。昔は、描きたいものを大きく描いてみせる、っていうのが、なかったのじゃな。おおっと、喋りすぎた。みんな、今度は自分で、どんな絵か、順番によく見て味わってみておくれ。少し戻ってもう一回見比べても、良いのじゃぞ。』


ニリヤもアルディも、オランネージュもネクターも、そしてエルフ兄弟のロテュス王子、エクラ王子、カリス王子、ウィエ王女も。ぱらぱらと、戻っては絵を見比べ、何となく心惹かれる絵の前で立ち止まり、ひそひそと話し合い、すーっと歩いて流し見て、その差を味わったり。満足するまでそのコーナーにいた。


『ここからは、エルフのいたずらっ子、オグルの絵じゃ。いくらエルフだって、みんなと同じく、悪い子もいるのじゃよ。悪い悪い、仲間のエルフ達が、やめなよ〜、と言っても、聞かん。狩をする者を森で迷わせたり、街中でトイレの糞尿を撒き散らしたり、そんな事して、ギャハハ!と笑い転げていたのじゃな!そんなこっけいな、こっけいとは、面白おかしいって事じゃぞ、面白い絵も、画家達は、楽しんで絵にした!まあ、貴族が面白がって買ったからなんじゃが•••。貴族が買わんでも、好んでオグルを描いた画家もおる。貧乏で、絵の具を買う事ができなくなるくらい、求められていないオグルの、様々な場面を、明るく、時に暗く、描き続けた。その画家の名は、ニュイと言う。オグルと友達だった、と言われているが、私はもしかして、ニュイはオグルを、その、恋人にしたい感じの好き、に近かったのではないかな?と思っている。それも、私の子孫の本に書いておるよ。うむ、秘められた恋心じゃな。』


「ひめた、こい!」

ニリヤが、おめめを見張って、ぽろ、と喋る。手を繋いだアルディが、お耳を右左に平らに開いて、切ない顔をする。情緒豊か。

絵は、オグルが狩人を迷わせる、森の美しいものから。糞尿を手に民達にぶつけて笑う、汚いのに美しい。そう、苦しい恋をする者が描いたと言っても頷ける、目を背けたいのに目を惹かれる、不思議な魅力の息苦しい美しい絵。そして、可憐な少女に跪くオグルも。


『オグルは、後に、賢く純情なるローズ・パール姫と出会い、改心はしなかったがローズ姫を得るために、行動は改めた。好かれたくて、良いやつのフリをしたのじゃな。いくらフリでも死ぬまで続ければ本当になる。ローズ姫はオグルの本当の姿を知っていたのじゃが、だからこそ上手な夫扱いで、仲良く長く調停者として、エルフ一族の中でも頼りにされて、幸せに生きたんじゃ。』


へーえー。


ニリヤは、絵のかかっている所より背が小さいから、どれも見上げる形になる。ししょうの竜樹が、遠く下がってみたり、近づいたりするのを真似してみる。

近いと細かい部分がよく見える。

下がると、全体が入ってくる。

むむん、と頷く。

すぐ側で、オランネージュはすごく近づいて、筆の勢いをじっと見ている。

アルディは先に歩いて、次の絵を、ほわぁとした顔で見る。


ニュイの絵は、黒髪のローズ姫が、白い肌、薄紅の頬のオルグに流れる真珠の涙を、キスするように触れて飲む、静謐で耽美なものになる。


『オグルの口は、死ぬまで悪かったと言われておる。ローズ姫に、エルフのまごころを飲ませて、寿命を長く共にした。悪態つきながら、良い事をした。次の絵達は、オグルのやった栄光の歴史じゃ。ニュイはその最初の頃を沢山描いて死んだ。』


『エルフは伴侶を一心に愛する。もし好きになった者に愛されなくても、恋人になれなくても、側にいられれば良い、という事が、沢山あるそうじゃ。不思議と悪い者を好きになる事がないから、神に祝福されている、とも言われている。私たち人間は、けっこう悪い者を好きになったりしちゃうのになぁ。』


ぷっ くす!

とオランネージュが笑った。





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