心と目と耳を開いて
美術館は空間の演出、建物の開放感も大事だから、ボンはこだわった。中古物件の空き家を買って整備した形だけれど、なかなか気持ちよく、白い壁のエントランスも開けている。
窓口も、壁で覆って窓が開いた形ではなく、カウンター方式。先ほどチケットに押した日付印があって、お金は不審者に持っていかれないよう、備え付けのレジ型魔道具金庫を使用している。見た目の何倍も入る、そして美術館の鑑賞を邪魔しない、音の出ない魔道具である。おつりも出せる。
シエル夫人が、にこやかに、両手にとろりとした艶白とキャラメル色の、魔道具イヤホン(竜樹の世界の耳掛け補聴器型で、小さなボタンがぽっちりついている)を持って、提案をする。
「イヤホンガイドは、どうなさいますか?大人用と子供用があります。イヤホンガイドや、初めての美術館の楽しみ方、それぞれ詳しい説明を、当館のキュレーター、ボンができますので、まずは聞いてみませんか?」
「はい!お願いします!」
目の前で畏まり、手を前で緩く組みあわせてシャキ!と背を伸ばして立ち、キュレーターのボンが皆を待っている。緊張しているようだが、ちょっと笑顔でもある。
「リュミエール王様、ヴェルテュー妃様、そして本日来て下さった皆様、ようこそ美術館へ。キュレーターのボンと申します。美術館は皆様、初めての方が多いでしょうから、鑑賞の仕方からご説明しましょう。よろしいですか?」
「「「は〜い!」」」
ボンは笑顔のまま、落ち着いた声で、胸に手を当てた。
「美術館は、芸術をその目に、身近に感じ味わう為の場所です。順路はありますが、皆さん自由なスタイルでご覧になって下さって、良いのです。気に入った一枚の絵をじっくり見ても良いですし、お友達と見て歩いても良いし、逆に1人で自分のペースで見ても良い。ただ、より良く鑑賞する為のお約束は少し、あります。」
人差し指をピッと立てる。
「素敵な絵を見たら、どんな所が素敵か、お友達と話したくなる事も、あるかもしれませんね。でも、おしゃべりは、できるだけ小さな声で。他の人の鑑賞を邪魔しない為、という事と、自分でも良く味わう為に、どうぞ、そうなさってみて下さい。」
立てた指を、そっと口の前に持っていくボンである。
ニリヤ王子が、お口にポフ、と手を当てて、大きい声で話さない!をする。
それを見ていたアルディ王子も、耳をひこひこさせて、ポフ、とお口に両手を当てる。子供達が皆、ポフ、ポフ、とお口を閉じて押さえるので、大人達は、くす、と笑顔になった。
「それさえ気をつければ、自由に見ても大丈夫。とはいえ、この絵は、どんな場面が描かれているのかな、とか、作者はどんな気持ちで描いたのかな、とか、描かれた時代はどんなだったの?など、知る事が出来れば、鑑賞の助けになりましょうか。その為に、イヤホンガイドがあります。イヤホンをして、情報がある絵の前に行くと、ポワン、という音がして、プルルと一度、震えます。情報を聞きたければ、ボタンを押して下さい。ガイドが流れます。」
勿論、静かに、先入観なしに絵を鑑賞したい、というのも、アリなんですよ。
「イヤホンは、邪魔なら外せますから、皆さんまずはイヤホンをしてみましょうか。こちらの白い方が、子供用ですよ。」
シエル夫人とボンとが、イヤホンを配っていく。
お耳にこう、かけて下さいね、と手を貸してニリヤにしてあげると、他の皆も真似して耳にかけた。
「今日は、私も皆さんのちょっと後ろに、控えていますから。ガイドだけでは分からない、ちょっとした疑問や、聞いてみたい事があったら、どうぞ気兼ねなく声をかけて下さい。知っている限りの事をお話しします。」
では、皆さん、心と目と耳を開いて、お楽にして、ご自由にどうぞ。
次回、子供用イヤホンガイドが、ニリヤ王子たちを絵画の旅へ誘います。




