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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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夏の終わり



サク、サク。

体育館の庭。


エルフの子供達と3王子、ワイルドウルフから帰ってきた狼耳尻尾のアルディ王子、新聞売りのジェム達に、寮に遊びに来るピティエ、プレイヤード、エフォールの貴族組。手に手に、小さなスコップ持って、しゃがんで花壇の土を掘り返して平す。

柔らかくした所へ、それぞれ葉っぱを挿す。


葉挿し、という方法で、クレル・ディアローグ神様が下さった大事な白い花を、増やしてみよう!と、エルフ達が準備を頑張ったのだ。


竜樹に降った一輪の白い花は、葉っぱが1枚付いていた。まずはそれをリュミエール王様が鉢に挿し、力を込めてポワンと成長させた。

何枚か葉っぱが出たのを、またまた葉挿しして。リュミエール王程ではないけれど、植物の育成を促進させる力を持ったエルフ達が、ポワワワンと数を増やして。

本日、体育館の花壇の一角に、子供達の手をもって植えよう、となったのだ。


「これでいーの?」

葉っぱの半分程が土に埋まって、斜めに緑。ほっぺに土をつけたニリヤが上目遣いで聞いた。

後ろから腰を折り膝に手を、覗き込むエルフ男性。紺のオーバーオールに生成りの明るいベージュシャツ、麦わら帽子が笑顔に似合う庭師兼、農家希望の指導員だ。

「はい、ニリヤ王子様!それで良いですよ。」

お水をちょうだい、栄養ちょうだい、沢山育つよ!って、言ってます!


ニコニコの指導員エルフは、もう2人程いて、同じくオーバーオールにシャツ麦わら帽、のオジエルフと女性エルフだった。バラけて右左、ワイワイ植える子供達を見守り、アドバイスもする。


「このお花、名前が無いんだねぇ。」

竜樹も中腰で見物である。


「ええ、私たちの中でも特に植物好きなエルフでさえ、名前を知りません。神様のお花ですから、特別なんですね。」

ロテュス王子が、被った麦わら帽子の端を両手で持って、網目の日を透かせた柔らかな影の中から、嬉しそうに竜樹の腕に、ちょん、と身体を寄せた。

最近のロテュスは、竜樹の側にいたがって、どこかしら身体の一部を触れさせたがる。安心の笑顔で。


「葉っぱ事業の鑑定のお兄さんによれば、竜樹様の世界の、カランコエ、っていうお花に似てるそうです。」

花言葉なんてあるのですね。白いカランコエは、「幸福を告げる」「あなたを守る」ですって。


「あぁ、そりゃあピッタリだねえ。」

竜樹が隣のロテュス王子の頭を撫でる。

「ふふふ、嬉しいです!」

ロテュス王子は、ぽぽぽ、と白い肌を上気させた。



おぼんが過ぎて2週間ほど経った。まだまだ暑いが、確実に季節は移り始め、日差しは和らいできている。


エルフ達は、相変わらず体育館で生活中。特に種子になっていた者達は、心と身体の弱りを癒すべく、ゆっくりと養生。赤ちゃんエルフはお父さんとお母さんに可愛がられて、段々と元気になってきたし。少年少女に見えるエルフ、大人にオジオバエルフ達は、時にはラフィネの花街時代の先輩達と、お話しながら裁縫や編み物をしたり。お茶を飲んだり、ゆっくり動いては生活の波を整え、ただ黙ってラジオを聞いたりテレビを見たり。

時ぐすりが必要なのだ。


エフォールの実父、高級ぬいぐるみ作家のエルドラド、ことジャンドルは、もう開き直って、顔晒しもなんのその、パッチワークの縫いぐるみを作る講師をずっとしている。

エフォールの発案もあって、テレビの趣味の番組でも縫いぐるみを教える予定があるし、その時に参考になる、『初めてだけど素敵な縫いぐるみ!』という、可愛い縫いぐるみ写真たっぷりなテキストも、発売済みである。


エルフ達の中には、比較的体育館に来てからすぐに、働き始めた者もいてーーー転移魔法陣関係のお仕事に就職した者達だーーー活発に働き、各国を飛び回って給料を稼いでいる。


ちなみに、働く魔法使いエルフ個人に給料を渡すのとはまた別に、今まで表に出て来なくて魔法を秘匿していたエルフ種族に対する、働きと魔法陣作成のお礼としても、そこそこの金額が払われている。

個人に全部振り分けると高額過ぎるし、個人だけに順当な給料を払うだけだと安過ぎるし。

また、魔法使いエルフ達が自分の給料をザザんと仲間達の為に使おうとするので、待て待て貯金しとけ、と止めて、そんな風に落ち着いた。


休まずに動いていて、から元気が燃料切れになり、最近になってへたってきた者もいる。それを受けて、無理なく働くように、と各国の王様達にお言葉を貰いつつ、長く人の中にあって働く、仕事の仕方を模索中である。


まだまだずっと働くんだよ?

休んだり、交代したり、ちょうど良いペースを、見つけていこうよ。


竜樹がベルテュー妃、マルグリット王妃達と、飲み物に、お茶菓子を用意して言えば。タハっと笑って肩を落として、エルフの魔法使い達は、羽毛クッションにもたれて息を吐き、休日を満喫した。


その内、庭師兼農家希望!と手を上げたエルフ達は、転移魔法陣の完成を待っている。各国に派遣され、緑の手を充分に使う準備中。何せ通勤がどんなに遠くてもあっという間なのだから、好きな場所に落ち着いてどこででも働ける。拠点をどこにしようか、と相談中だ。

また、エルフブランドのユニフォームとして、竜樹がオーバーオールを提案すると、喜んで着用。園芸と農業のテレビ番組にも出演予定で、打ち合わせなどをしている所であるし。肩慣らしに体育館の庭も、素敵に整備中である。



むくむく、ポワン!

と、少しだけエルフの育成の力を使って、神様の花の葉っぱを根づかせ、お水と肥料をやって、子供達も満足そうである。


「今日も汗かいたし、お風呂に気持ちよく行けるな〜。」

「ウンウン、あの広いお風呂、気持ちいいよねぇ。」

庭師兼農家希望組が、ん〜っと腰を伸ばして。


プールは時間制で、昼間はプールとして一般に、夜はエルフ達のお風呂、で運営されるようになった。

エフォールも、最近は、午前中にアルディ王子とプールで、相変わらずの歩行訓練をしている。


「今日のおやつは、溶けないアイスだよ〜。」

「あ!あの、くだものいっぱいの、やつ!」

「シャリシャリのね!」

「色々な種類で作ったよ〜。どんな味かなぁー。」

タカラが、簡易なアイスボックスから、あれがいいこれがいい、と注文をつける子供達にハイハイとアイスを配る。


「私、ミルクの味のやつがいい!」

「お豆の味が、すき。」


溶けないアイスじゃなくても、氷が溶ける時間が、幾分か長くかかるようになってきた。

夏は、終わりに近づいている。






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