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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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やられた時だけ返す緑


エルフの女性、ヴェール・マラン。

皆と一緒に、体育館に備え付けられた大画面のテレビを、じいっと見上げる。

その膝には、エフォール。


ヴェールが、目を画面に釘付けたまま、何かを手探りに、癒しを求めてわきわきしていたから。エフォールの実父、ジャンドルが、そっと促して膝に座らせたのだ。

エフォールも養い先のパンセ伯爵家では末っ子だから、姉のマルムラードが不安な時に、ギュッと抱きしめられ、ほっぺをすりすりされたり、兄のアクシオンが怒られてる時に、所在なく抱きついて撫でてきたり。可愛がられ慣れているので、エルフのヴェールにぎゅう撫でされても、平気だった。落ち着いて後ろ頭を、慎ましやかな胸に寄りかかり。


ジュヴールで呪いに縛られ傷つけられて、エルフ達は癒しを求めているだろうに何故かテレビでは闘魂の女子プロレス、そして割と盛り上がりの現在。ヴェールの気持ちを案じながらも、一緒に画面を。

汗眩く飛び散る戦いを、フニュ、とお口を尖らせて、エフォールはヴェールと手を繋いで見ていた。


カササギ女王タフトが、ぐぐぐ!と身体を捻ってブリッジ、重さのある薔薇のカロラインの、みっちりした足ばさみごと返し、グイっと逃れる。タフトは風の魔法を上手く使い、固められたのを外したり防御したりが得意だ。逃れるのが不可能に思えるのに、柔らかい身体も手伝って、くるんするんと抜ける。


くるり、ヒラリ。身体を返して立ち上がると、カロラインの後ろを取る。脇に頭を入れて、腰を掴み、体重差があんなにもありそうなのに、持ち上げてバックドロップ!を、決めた!


ドゥン!!バァアァン!!!


背中を打つカロライン。

痛がりリングを転げ回る、そこをタフトの、黒のリングシューズが、ロープを駆け上がりジャンプで、パンッ!と大の字、空中に舞った!




ブワァ。

ヴェールの目から涙がブワワワ。

ぼろぼろ流れる、雫がパタパタと、抱き込んだエフォールの頭に落ちてくる。


「ヴェールさん••••••!」

様子を見ていた竜樹が焦って話しかけるも、ヴェールは。

ぼたぼた、拭くこともない。


「•••いのち、燃えてるよね!!!」

「ーーーへ?」


ぐすっ、と、やっと片手で瞼を拭う。

エフォールが上を向いて、お腹に巻かれたヴェールの手をポンポンする。ラフィネがしてくれた時、落ち着いたから、してあげるのだ。


「何か、分からないけど!すっごく、ウワァ!って気持ちが盛り上がるのね!女子プロレスって!!!だって、身体いっぱいに戦うじゃない!?ウワァッと色んな感情が現れて流れてゆくの!呪いで固まってたのが馬鹿みたいに。」


「馬鹿みたい、ほんと、馬鹿みたいよ。」

ヴェールは、わんわん泣き出した。

「呪いのせいで、私たちこんな風に、嫌なのよ!って戦う事すら出来なかった!そのジュヴールの民達だって、自分が呪いで管理されて、いいようにコントロールされて、それで安心なんかして!全然いのち燃やしてなかった、種子で眠ってるような生き方よ!生きてる時間はどんどん、エルフだって瞬く間に過ぎていくのに!対等だったら、戦い合ったはず!こんな風に、精一杯に、泥臭く、汗かいて!」


ふええ、ふえええん!


竜樹も子供達も、エルフも人も。


タフトの腕が、レフェリーに取られて挙げられ、勝利を賑々しく。


馬鹿みたい、馬鹿みたい、馬鹿みたいな12年だったのよ!

エルフ皆の胸が、じわっと熱くなる。


「わた、私、女子プロレスの衣装、つ、つくりたい!ううん!キラキラした女子プロレスラーになって、ジュヴールの選手と戦って、バシッと殴って、勝ってやりたい!!」

そうして、バーカバーカ呪いなんかで自分を自由を命を捨てるから、何もかも上手くいかなくなるのよ!これからは真っ当にやれ!対立したら対等に立ってルールを決めて戦え!蔑んでいた私たちが、本当は力があるんだって、これから対等に立つ事すら、そっちがマイナスで時間がかかるのにって言ってやりたい!!


「ふむ。テレビ番組で、素敵な恋愛物語と、畑の土の作り方を流してやるのと同時に、ジュヴールとプロレスやるのも良いな!テレビ番組の作製費用はジュヴールから貰うとして!」

神の力をもって呪いを弾き、魔法を得意とする我々エルフに、ゆめゆめ勝てるなどとは思わせまい!


「リュミエール王様•••。」


声に竜樹が振り返れば、エルフのリュミエール王。床に胡座をかいて座り、頬に手、ふむふむと納得の様子。


「竜樹殿、女子プロレス、なかなか面白く観た!我々エルフは、調停者ゆえ、戦いは好まぬ。だが、人死にの出ない、身体一本での戦いで、ジュヴールをガツンと殴って語るのは、面白そうじゃないか!!」

「諍いの後は、た、対話じゃないの?リュミエール王様?」

竜樹がワタワタするのに。くすす、くす!と笑うエルフ達。


「肉体と頭脳。どっちでも語ろうじゃないか?竜樹殿。2つは分かち難く繋がっているもの。私たちはギュッと小さく握られていたんだ!何ものにも囚われない、自由を愛する森のエルフがだ!話したくて発散したくて、この苦しい胸の内を語らずに、次に行けようか!?敵わない、と思わせてから、反発をも有利に使って、ジュヴールにエルフの底力を見せてやろう!」

何、ジュヴールのように窮屈に掴んで管理しようなどとは思わない。自由であって良い、そして人を貶めるやり方が、結局は通用しないんだと、それは気持ちを殺すものだと、何としても知らしめてやるのみだ。


「行く先は今より少し良い未来!そうだろう、竜樹殿!貴方が語ってくれたように、エルフの誇りにかけて!」


起きているエルフの全員が泣き笑った。


「「「エルフの誇りにかけて!!!」」」


ヴェールがエルフ初の女子プロレスラーになる未来は、きっとこれから、キラキラとやってくる。


「ーーーうん、うん。ならば、私も応援致しましょう、リュミエール王様!」

竜樹も、ショボショボ目で笑う。


「しかえし、するの?」

ニリヤが、色々むずかし!と思ってる顔で見上げて、聞いてくる。

「うん、仕返しかもねぇ。」

「仕返し、しても良いの?殴って、殴り返されて、それが永遠に続いたりしない?」

ネクターが心配そうに、眉を寄せて。


「うん。こんな話を聞いた事がある。一つに、攻撃されても何も返さないお人好しの青。自分から攻撃をし始める赤。そして、他から攻撃された時だけお返しする緑。青と赤と緑が、行動を開始すると、真っ先に無くなるのがお人好しの青。増えるようで、やり返されて潰れる赤。そして残る大半は、やられた時だけ、その分だけ返す緑。ーーーって、パソコンの陣地取りのシミュレーションで。それって、人間関係でも言える事だと思うんだ。」


だから、嫌なことされて、嫌だった、って知ってもらうのは、多分良い事。

「その為の仕返しは、上手にやらないといけないね。」


決して相手を、そして自分を、滅ぼすようなものでなく。



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