かみさまのはな
「ニリヤ。母様あったまったか?」
「うん。」
「じゃあまた来よう。今度は母様に、あったかい布でも持ってくるか?」
「うん。」
「ショールでもお持ちしますか。」ミランがカメラ片手に言えば、「似合いの綺麗なものを、また兄王に贈ってもらえるだろうよ。」マルサも追った。
「竜樹様のお国では、お参りの時に水を捧げるのですね。聖水ということですか?」
チリが木製の水筒を懐に戻した竜樹に尋ねた。抱えた石から、頬をやっと離したニリヤは、竜樹の下がった左手を自分から取って、ぎゅうと握った。
握られた手ではない方を胸に当てると、よくチリがするゆったりとした礼を竜樹は真似て、目を瞑り、リュビ妃への祈りとした。各々、思ったように礼をとる。
ニリヤはそうする竜樹を、見上げてから、続いてぺこりと頭を下げた。
「何だろう。意味は色々あるんだろうけど、綺麗な水のある国だったから。清らかなものを、捧げたい気持ちがあるんだろうな。」
パラパラと広がって、来た道を降りて行く。ゆっくりと、道を楽しむようにして。
「ニリヤ、母様は、起きてる時に、どんな人だったのか、俺に教えて。」
「かあさま、おかしつくるのじょうず。ときどき、からいのつくった。」
「辛いの?」
「いっこだけ、からいのする。ちちうえに、あげたりして、だれかたべて、びっくりするねって、わらってた。」
「いたずら好きだったんだな。」
「ちちうえ、からいの、こしょう。おいしかった、またつくってね、ていってた。」
「美味しかったのかよ。ハハハ!」
「おかし、つくるの、おてつだいした。」
「あと、かくれんぼじょうず。ぼくは、みつけるの、たいへん。」
「ときどき、すこしだけ、ないちゃったの。そしたら、すぐみつけた。」
可愛らしい人なんだなあ。
そういえばこんな事もあった、あんな事も。リュビ妃の事を話しながら神殿に向かう道は、思ったよりもずっと、お参りらしいお参りになった。
神殿まで先導してくれた人に礼を言い、案内が若い神官に引き継がれる。参拝者の入り口とは別の、神殿関係者が使う口から、祀られている神々のおわす間へ。
素晴らしい彫刻の数々。女神に男神、若く爽やかに、または老いて威厳を。幼く愛らしく、ふくよかに慈愛をもって。
その中でも、片脚を不自然に曲げた、青年らしい優しい表情の像が目をひいた。この世界の神様は、完璧を必要としない神もいるのか。なんか親しみあるな、と竜樹は感じて立ち止まった。
「片足のランセ神が気になりますかな?」
出迎えてくれたノノカ神殿長は、ゆるり手を広げた。「神にご挨拶されますかな?是非どうぞ。」
この世界の参拝の作法を知らない竜樹に、
「私もお祈りしましょう。一日に一度しかお祈りしてはならない、という決まりもありませんでな。」真似すれば良いですぞ、とばかり、像の前に膝をついた。
竜樹もニリヤも、ミランもマルサもチリも、そして控えていた案内の神官も、その場に膝をつき手を組み、祈りを捧げる。
(上手いこと情報に塩梅良くして下さり、ありがとうございます。これからよろしくお願いします。)
竜樹は心の中で祈った。
祈り終え、顔を上げると。
ぱっ。 きらり、ハラハラ。
一輪、クリームイエローの、可憐な花。
ぽん、と何もない空間、竜樹の横に開いて、ゆっくりと舞って落ちた。
「か、神様がいいねくれた、んでは!?」
チリ、マジか。