体育館は安眠の館に
「あ〜どこもかしこも、ふわふわだぁ。」
体育館に来た竜樹達大人組は、唖然としてそこらを見渡す。あちこち、まっしろに稀にちょぼ、と茶色の混ざった羽毛の山だらけ。ジェム達と3王子も、到着してすぐ、ふぇ〜とお口を開けて驚いていたが。はっと気を取り直し、早速エルフの子供達を誘って、羽毛かき分けトランプで遊び中だ。
うんうん、盛り上がってるし、良いんじゃないでしょうか。
ミランカメラマン、護衛のルディは子供達を追っていき。
親切なめんどり、オーブは、ふくっと蹲っていたニリヤ王子の頭からバサっと降りて、竜樹の横に付いてきていた。コッコッと鳴いて、堂々としている。
そしていつもの護衛マルサにお助け侍従のタカラ。竜樹の側で、ふくふくと嬉しそうな、エルフのロテュス王子。
それから、本日は子供達とは別れて、羽毛をお布団にするのに力を貸せないかと、手先の器用な歩行車かたたん、エフォールに。エフォールの実の父、ベルジェ伯爵家ジャンドル、別名高級ぬいぐるみ作家のエルドラドも一緒である。
ジャンドルは、仕事場の騎士団庁舎で、今日は午前中から書類仕事をしていたのだが。
上司の第2部隊長から。
「ジャンドル、一体いつどこでお前、ギフトの御方様とお知り合いになったんだ?」
と不思議そうに聞かれて、え?と首を捻った。
えーと、息子のエフォール君は、ギフトの竜樹様は紹介できない、と手紙に書いていたけど。そんなつもりも無かったし、それでも、あちらからお声がかかった、という事は、エフォール君関連なんだろうな。
「見当もつきませんが、ギフトの御方様から、何か?」
ニコ!と嘘臭く笑ったジャンドルに、むうう、と唸る第2部隊長は、トン、とジャンドルの鎖骨の下辺りに、拳を当てて。
「エルドラド!のお力を貸していただきたい、と。お前の副職を知ってる。今エルフのいる体育館で、羽毛がいっぱいなんだそうだ。」
んん〜???
「羽毛が、いっぱい?何でですかね?」
「いや〜、かの方の齎す不思議は、俺などには分からん。」
何しろ、神まで顕現させちまうんだから。ふー、と息を吐き、ゆっくり首を振る部隊長。
第2部隊長には、エルドラドの事を話してある。そしてエフォール君の事も、花街のコリエの事も。
騎士団の仕事をしつつ、副職の仕事がやりやすいように、そしてエフォール君やコリエを抱きしめるのに、かかる憂いを取っ払う為に、話を通す所は通しておかないと。
この副職を、馬鹿にしたりなどしない。特別扱いはしないが、騎士団の仕事をきっちりこなせば、融通はきかせてくれる。他の部下にもしているみたいに。
信頼できる上司だという事だ、目の前の男は。
「•••う〜ん。多分、エフォール君から、ギフトの御方様に話がいったんだとは思うのですけど。」
嘘くさい笑顔をやめて、素直に推測を言う。
「ああ、足が悪くて治してもらったのだったな、ギフトの御方様関係で。」
「ええ。今も足の筋肉を鍛えて、歩く為の、りはびり、っていうのしてますよ。ギフトの御方様が良くいらっしゃる新聞売りの子達の寮へ、遊びにちょくちょく行っているみたいです。編み物が得意だったり、手先の器用な子なんですよね。」
エフォールの事になるとニコニコ饒舌になるジャンドルに、お前に似たな、と、ニヤリの部隊長。ジャンドルだって、勿論似てくれて、繋がりを感じられて嬉しい。
「ならば、エルドラド、立派にお助けしてこいよ。父親として、頼りになる所を、息子に見せて来い!そしてこれは、正式に騎士団に依頼されているから、出向という形で仕事扱いだ。あちらの用が済むまで、騎士団のお前の仕事は他の者で回しておく。」
「ありがとうございます。ご迷惑をかけます。よろしくお願いします。」
理解のある上司がいる職場は、なかなか居心地が良いのである。
こんにちは〜、と笑顔でエルフ達に挨拶しながら竜樹は歩く。救助本部を目指す。
「こんにちは!ギフトの竜樹様、今日も来て下さったんですね。神鳥さまも!」
昨夜は、ふわふわの中でとても気持ち良く眠れたんですよ、うんうん、朝までグッスリだった!と皆口々に。
「皆、ふわふわに埋もれて寝てみたんだ?」
「はい!神鳥さまが、種子達の分だけじゃなくて、私たち皆が眠れる分、羽毛を出して増やして下さったので!」
「種子の子達も、何だかふわふわに埋もれて、良い顔で寝てるのよね。」
「ねー!」
顔見合わせて、賑やかなエルフ達である。
「それは良かった。ふわふわで剥き出しのままだと、扱いづらいだろうから、お布団にしに来たよ。皆も、良かったら、縫い物に参加してね。救助本部に行って、必要な手続き調整して、布や針と糸を用意してもらおう。多分バーニー君辺りが手配してそうだけど•••。」
「「「あー。」」」
エルフ達が、声合わせ、何となく曖昧な笑顔で、ニハ〜、とする。
「あー?」
「「「えーと。」」」
バーニー君、なんかやらかした?
「すっごく気持ちよさそうだったよね。」
「うんうん、何か私たちと同じくらい、疲れてそうだった!」
「試してみます、って言って、ぱふ〜ってしたら、瞬時に寝てたよね。」
「あまりにも気持ち良さそうで、寝てしまったらすぐ起こしてね、って言われてたんだけど、起こせなかった〜。」
あ〜。
「お疲れ様だったかな、バーニー君。」
「そのようでした。」
エルフ達に案内されて、救助本部に何とかたどり着けば。テレビ電話や資料、メモなどを置いて机の用意されたその場の隅、羽毛の一山にめり込んで。
スヤァ〜
「何て良い笑顔で寝てるんだ、バーニー君•••。」




