モフモフで薔薇色
竜樹達を寮に先に返したオーブは、体育館で。エルフ達に遠巻きに、そして敬いの目を持って、みつめられていた。
「あ、あの。神鳥様。私たちエルフを助けてくださって、ありがとうございます。」
男性エルフが、勇気をもっておずおずと、オーブに話しかける。他のエルフ達も、口々にお礼を言って、頭を下げて。
「ココ!コココケ!」
オーブは、鳥胸をムン!と張って、一つ頷き、ウム、宜しい!とばかりに鳴いた。エルフ達も、まずはホッと笑顔が灯る。
「あのう、それで、神鳥様は、竜樹様達とお帰りにならずに、ここにいてくださって、え〜と、何か我々エルフにご用事が?」
神々というものは、敬うべきもの。それだけではなくて、意にそまぬ事をし触れてしまえば、怒りにもあたるという事をまさに見、知っているエルフ達は、助けに感謝しながらも。竜樹達と帰らなかったオーブに、はてなの気持ちをもち、様子を窺っているのだ。
「ココ〜、コココケ〜!」
ウム、ウム。
オーブは2度頷き、ちょっとだけ曲がって成長した片足だけれどもヒョコヒョコと、エルフ達の間を歩き出した。
多くのエルフ達は、体育館の床に間に合わせの布などを敷いて、中には敷くものもなく、硬い面に身体を横たえたり、座ったりしている。硬い床で寝ると、身体が痛くバッキバキになるが、そんなにすぐには寝具が間に合わず、また夏である事もあって、我慢をしている状態だ。
硬いといえば種子のように、自分を守るために丸く動かなくなってしまったエルフ達も、赤ちゃんならお母さんかお父さんが抱っこしているし、その他は仕方なく床に寝せられている。服は貧しいものを、或いは半裸で、夏なのに寒々しい。
オーブはその種子エルフの元へ来て、コッコッと鳴きながら。まずは小ちゃな赤ちゃん種子エルフ、抱っこしているお母さんに下ろすように、首を上下させる。
「神鳥様?•••この子に、何か?」
戸惑いながらも床に赤ちゃんを。おむつだけは着けているけれど、服は着ていない素肌のお腹の側に、ポトンと腰を落として、寄り添った。
「ココ、ココ〜。コッコッ。」
お腹にすりすり、瞼を下から上へパチン、パチンと閉じて、ふくっ、としたオーブを、お母さんも他のエルフ達も見守っている。
その赤ちゃん種子エルフは、右の目元に黒子がある。身体は見るからに硬く土色で、痩せていて、つん、と唇を尖らせ眉を寄せ、この世の苦しみを一身に背負ったとみえる表情。
「ココ〜。コケッ!」
ぽわ。
触れ合っている部分が、ほんのり発光。
見守るエルフ達が、あっ!と声をあげる。
じわ、じわ、じわわ。
ほんのり暖かな光が、広がる。赤ちゃん種子エルフを次第に覆って、全身が仄かに発光したかと思うと、ちかり!一瞬光を増して、そして消えた。
「うわぁ!神鳥様!」
囲んでいたエルフ達が、嬉しく驚き。
赤ちゃん種子エルフの肌の土色が、ふわぁと血色の良い、薔薇色に変わった。
ツン、と尖っていた唇が、顰められた眉が、ほんわり解けて。フニ、と微かに、笑って。良い夢みてるよ、って顔になった。
「神鳥様!私の赤ちゃん、笑ったわ!温めてくれたの!?」
まだ目覚めないけれど、苦しそうな様子を払拭した赤ちゃんに、ウムウム、と頷くオーブなのだ。
「ありがとう、ありがとうございます!ああ、いい顔してるわ!きっともうすぐ目覚めるわ!」
さわ、さわわ。
エルフ達は喜びの予感をもって。
他の種子エルフ達、まずは赤ちゃん達を、そそそと連れてきて、オーブの元へとゴチャゴチャに、しかし争わず並ぶ。
1人1人違う表情の赤ちゃん達を、皆薔薇色に変えて、親切なめんどりオーブは、赤ちゃんから少年少女、そしてお年寄りエルフ、最後に大人エルフと、種子のエルフを片っ端から温めていった。
見守りエルフ達も協力する。種子エルフを残らず温めてもらおうと、体育館の中を速足で歩き回って、オーブの元に連れてくる。オーブの周りは、もうすぐ目覚めそうな、スリーピングビューティー達でいっぱいになった。
「これで最後、かな。•••だね!神鳥様、これで最後の種子になります!」
ウム。
ピカリッと光らせて。
わぁああ!
「神鳥さま!」
「神鳥さま!ありがとう神鳥さま!」
歓声があがる。パッと両手も上がる。
トトトッ、オーブは、どーもどーもと、一周回ってドヤ顔。めんどりのドヤ顔がどんなのだかは不明だが、そこはかとなく得意そうに、胸を張って。
そうして、まだまだだぜ!とばかりに。
「コココケ!ケコーッ!」
鳴いて、ズシ、と自分の腹の辺りに嘴を潜り込ませて、ムシッと一塊、ふわふわの羽毛をむしり。薔薇色赤ちゃんエルフを抱いているお父さんに、ぐい、と差し出した。
「あ、ありがとうございます?神鳥様?」
お父さんエルフは、ふわふわ羽毛を渡されて、えーっと、と、つい。手のひらの上の羽毛を、もみもみした。
「え?あれ?これ!」
もみもみ。ふわふわ。もふもふ!
もふもふもふ、もっふ〜っ!
揉めば揉むほど、どんどん増える羽毛は。あちこちのエルフにオーブが、むしりむしりと渡していく為、そうして揉めば良い、揉むのだ!とコケコケ鳴かれて、あちこちが羽毛だらけになった。
そして、一山できた所に、お父さんエルフを呼び、抱いていた薔薇色赤ちゃんエルフを、置くのだよ、と上下に首を振るオーブ。
恐る恐る、大事に赤ちゃんエルフを置けば、モフモフ!とその中に、丁度良く沈む。
「これ、布に入れて、縫ったら、ふわふわのお布団に、なるかも?」
お母さんエルフが、モフりと手を沈ませて、う、気持ちいい、と目を細めた。




