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白いレースのリボンと花束

今が夏ではなくて、よかったなと竜樹は思う。夏だったら、お風呂に入ってなかったニリヤの皮膚が、かゆかゆになって爛れたりと、かわいそうな事になっていただろう。

冬を越え、今は花の季節、供える花束も色とりどりに。ニリヤが王宮の庭師に一本一本お願いして切ってもらった。

茎を結んだリボンは、王から差し入れられた手触りのいい白いレース編み。蔓の下結びの済んだ場所に、竜樹に教わってニリヤが結んだ、いびつな蝶々。

小さな手に何とか収まるサイズの花束を、代わりに持ってやろうか訊ねると、「ぼくがもつ。」と言って譲らなかった。


ミランは、『人の目』ことカメラを構えている。

昨日試しに、初めて撮った映像は、『ここにいるみんな』と部屋の中を紹介する映像。

撮りたいものを欲張りに追って、動かしすぎて、グラグラ揺れてぶれて、観ているみんなで目が回った。

ただ撮れば良いのではない、見やすく、伝える為の、技術というものが、撮影にも当然あるのだ。

アップ、ロング、見せたいものはじっと止まって静止映像。

「初めてお使いした番組みたいに撮影するなんて、すごく、すごく、大変なんでは。」

ミランは冷や汗をたらり、一歩を歩み出した。


常に撮影しておいて欲しい。

竜樹に依頼され、ミランは、真剣にまわしている。これから撮影する映像は、王に報告するものにもなるし、ニリヤを守るものになる。

これから毎日撮影してもいいか、竜樹がニリヤに聞いたら。


「いいよー。」


基本の文字表をフンフン歌いながら、軽く返ってきた。



王家の墓は、主神殿に隣接した高台にある。神殿までは、飛びトカゲが用意されていた。

一定の距離をピョ〜ンと飛んでは前脚を着き、後脚で踏ん張ってまたピョ〜ンと空を駈ける。飛びトカゲは目が良く、また滞空時間も長いため、着地点を咄嗟に見極められるので、事故はまずないらしい。

難をいうなら乗り心地だ。


幾分よれっとなり、固定された鞍と安全帯から解き放たれた。ニリヤの花は、ニリヤを抱えた竜樹が、上着を被せて守った。

神殿の入り口とは別に、墓への入り口が設けられている。普段は鍵がかけられているので、入り口を開けるため神殿長と幾人かの神官達が待っていた。


「近くお話出来て嬉しく思うよ、ギフトの御方様。私が神殿長の、ノノカじゃ。先ずはリュビ様の所にご案内しような。ニリヤ様も、良く参られた。」


ふくよかな、背の低い、真っ白なお爺ちゃん。ブルーの瞳がきらりと、そして静かに微笑んで、門の中へ導いた。


「私は足が心もとないから、神殿で待たせてもらおうかの。こちらの足腰が丈夫な者が先導するから、ゆっくり、好きなだけ、会っておいで。」



丸木が所々埋められた段々、地にへばりつく草の中。小指の先ほどの青い花が、控えめに緑に混ざって点在する。

ニリヤは一歩が大きすぎ、竜樹に片手を引っ張られて、一段一段登っていった。

リュビ妃の墓は、白い天然石が据えられ、女性らしい佇まいだった。

こちらのお墓参りの方法を知らない竜樹は、ニリヤにお花を置くよう促すと、持ってきた水を焼き物のコップに入れて、捧げた。


「かあさま、ここでねんね?」


ぼんやり呟くニリヤ。

「そうだな。」


「•••かあさま、いしのした?おもいね。」

「そうだな。」


風がふんわり、蝶々はひらひら、小鳥が鳴いている。


「かあさま、ずっとねんね?」

「そうだな。」


「おきれない?」


「そうだな。」


ニリヤは一歩前に、墓石にぎゅうっと抱きついて、頬を寄せた。

「かあさま、ねんね。さむいね。さむいね。ぼくが、あっためてあげるからね。」


ミランは、撮影するのが辛かった。

カメラを回していていいのか、分からなかった。

ただ、針で心を刺されながらも、撮らないでいる事は、しなかった。

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