エルフのまごころ
「竜樹、大丈夫か!?」
マルサは護衛なのだから、いかに害が無さそうな、エルフの涙粒だとしたって、止めておかなければならなかった!あんまり堂々と飲ませたもんだから、と後悔しきり、竜樹に声かけをする。
ポワ、ポワ、ポワワワン、と明滅、全身が光って、次第に落ち着いて光が消える。竜樹は自分の手や胸の辺りを見回して。
「ウン。光ったけど、特に何ともない。」
ほーっ、と息を吐く大人達。
子供達は、ふわわわわ?と、どんぐりまなこである。
「おちゃ、のむと、ひかる?」
「エルフの涙だろ?」
「なみだ、ひかる?」
「そうなの?エルフの涙のむと、光る?」
「ぼくも、ひかりた〜い!」
「わたしも〜!」
ふふ、ふふふふ!
画面の向こう側、エルフのリュミエール王が、背中をもっふりふかふか座椅子にくったり凭れさせ、ゆるゆるに緩んだ表情で、目を細め肩を揺らして笑った。
「竜樹殿。ふふ、エルフの涙を飲んだね。それは、固まったエルフの涙は、くふふ、エルフのまごころ、ってやつだぞ。」
「エルフの、まごころ?」
あ〜、と楽しそうに息を吐き。
「そうだ。エルフが、同じくエルフ以外の者を伴侶にする時、心から相手を愛しいと思ったなら、その固まる涙が流れる。涙一粒で、およそ1000年かな?」
「1000年!?て、まさか••••••。」
くすくす、リュミエール王の側で口元を抑えるヴェルテュー妃も、心からの微笑みで。
「ふふ、ロテュスは、本当に竜樹様を慕っているのね。何となくお分かりでしょうけど、エルフのまごころは、飲んだ愛しい人の寿命を、エルフ並みに延ばす事ができるのよ。」
「「「ええええええ〜っ!?」」」
「それ、やばくない?エルフ達、内緒にしといた方が良いでしょ!?だって、長生きしたい人に狙われてしまうでしょう!!」
竜樹が慌てて言うと、うっふっふ、とリュミエール王は嬉しそうに。
「その様に、了解もなしにエルフのまごころを飲ませた、ロテュスを叱るでなく。エルフの心配をしてくれるようなお人だからこそ、ロテュスのまごころが溢れて、できたのだろうよ。」
「本当ねえ。お人柄が、感じられます。」
ニコニコのエルフ王夫婦は、ウンウン、と頷き合う。体育館のエルフ達も、エヘヘと嬉しそうに、各々笑顔。ロテュス王子は、色々言われても、うふっ、と笑んでいる。
「大丈夫。生半可な事では、エルフのまごころは、生まれないものなの。普通は、結婚して10年、20年経って、信頼し合って、やっと一粒、流れるかどうか、ってところ。騙してまごころを奪おうとしたって、どこかでボロが出るものよ。」
「本当に、胸に沁みて信頼していなければ、流れないのだ。」
ヴェルテュー妃は、お膝の息子、エクラを、撫で、撫で、とする。
「ええ、ええ。それに、その思った相手が飲むのでなければ、効果は現れないし。奪ったところで、何もならないのよね。」
「騙そうとして10年20年も一緒にいて、まごころが生まれるようなら、相手も相当絆されているとみて良い。何だかんだで、長く共に生き、上手くいくようになるのが、まごころなのだよ。」
「竜樹様。そしてラフィネ様。勝手に竜樹様に、エルフのまごころを飲ませてしまって、ごめんなさい。」
ロテュス王子が、そっと胸の前で手を組んで、膝立ちになり瞼を半分伏せ、桃色のポッポとした頬で。
2人に訴える。
「私、絶対に、お2人の仲良しの、邪魔はしません!私はまだ子供だし、大人になる頃には、普通ならお2人が、人生を全うする頃だと思います。私は、お2人の子供や孫、子孫の行末を限りなく見守り、助けると誓います!ですから、ですから。」
必死な表情で、眉を寄せて。
「ラフィネ様。竜樹様と添い遂げた後、私にも、機会をくださいませんか?長く生きる人生を、私は責任もってお支えします!竜樹様と、ラフィネ様の次に、仲良くさせてください!!」
お願いします!!
竜樹は目を白黒して、ふえええ!と驚いている。
ラフィネは、キョトンとしていたが。
クスッ、ニコニコ!と笑って。
「こちらこそ!よろしくお願いします!心強いわ!竜樹様を、子供達を、おねがいね!私たちも、仲良くしましょう。」
「はい!仲良くしてください!よろしくお願いします!ラフィネ様!」
ニパッ!と満々の笑顔の2人だった。
わっ、と腕を開いて、ラフィネとロテュス王子で、ハグ、ハグ、とした。
ええ〜!!!?
俺、お願いされちゃったよ!!
竜樹のびっくりは止まらない。
が、しかし。
「ーーーうん、まあ、ウチとしても、ギフトの竜樹が長生きするのは、トクだからなぁ。まあ、いっか。」
マルサが、うーん、と腕組みをしつつ、ウン、ウンと頷き。
「竜樹父さんが長生きだと、俺たちが大人になっても、歳とらないで、ずっと会ったりできる?」
ジェムが、考えながら。
「ええ、ずっと、ずっと、竜樹様は子供達の教会孤児院を、パシフィストのお国を、見守ってくださるでしょうね。」
ミランも、ニパァ、と笑う。
「私たちエルフにとっても、頼りになる人が、100年もしないで次代に変わっちゃうより、ずっと、安心!」
「人ってすぐ死んじゃうもんね。」
「仲良くしよう、って約束しても、次の代になると、約束破られるなんて、良くある事だもんね。」
「竜樹様がいてくれるなら、さっきまで話してた、エルフが人の国々に馴染んで働く案も、安心して飛び込める〜!」
「「安心した〜!!」」
体育館のエルフ達も、ニコニコだ。
「さて、竜樹殿。エルフとしては、竜樹殿が長生きしてくれるだけでも、万々歳なのだが。もしロテュスをお気に召したならば、仲良くしてやっては、くれまいか?まだ子供だから、今は、孤児院の子供達に対するのと、同じような気持ちで、構わない。ただ、良かったら、お側にーーーそう、テレビ番組を作るための、勉強の為とか、まあ、色々。」
竜樹は、何となく周りを見回して、皆が歓迎ムードな事に、ええと、ええっと、と思考が停止している。
「とーさ、長生き!サン、うれしいなぁ。」
トトトッ、と近寄ってきたサンが、竜樹の背中にギュッと抱きつく。
あー。
そうだ、お父さんは、子供を置いて死んでは、いけないのだ。
ウン、ウン。うん、分かったよ。
「ロテュス王子と後々、結婚するかどうかは、まぁ置いといて。長生きの先輩、エルフの人たち、どうぞこれからも、よろしくお願いします。」
ペコリ。
竜樹も一つ、頭を下げた。
ワー!パチパチ!!
拍手が鳴り響き。
リュミエール王は、ニッコリ笑ったその顔のまま、ふわふわと安心して、ふうっ、すーと深く息をし。そのまま今夜の眠りに入った。
とてもとても、気持ちの良い眠りだった。と次の日、昼頃まで眠って、ヴェルテュー妃に告げた。




