お話し、しましょ
テレビの1チャンネル、エルフやってみない?と言われたロテュス王子は、目をパチパチして、良く考えて。
天丼を食べ終わって、淹れてもらったあったかい麦茶を飲みながら、ぽつ、ぽつ、と喋った。
「私たち、エルフでも、番組できるでしょうか?」
「できるできる。何か一つ、発信できる媒体を持っておくのって、すごく良いと思うよ。」
竜樹も、麦茶を啜りつつ。
「虐げられていたエルフ達が、これから、新しく時代を作っていくんだもの。テレビも、沢山、作って伝えたい事が、あると思うよ。」
ふん、ふん、とロテュス王子は頷くが。
「私、今でも助かったのが嘘みたいにも思えたり、してます。皆、傷ついているのに、すぐにそんな気持ちに、なるかなぁ••••••。特に、種子になってしまったエルフ達は、酷い目に遭ったと思うから。」
うん、うん。
「心や身体を、ゆっくり癒していかないとだよね。そういう事も、皆の気持ちを聞いて、相談していこうよね。」
「ーーーはい。あの、今って、この教会同士を繋いでる、テレビでんわ?みたいに体育館と繋がったり、しますか?」
「どうかな?体育館の、エルフ救助本部宛なら、誰かがテレビ電話を持って詰めてると思うから、連絡してみようか。誰かとお話したい?」
「父様や、母様達とも、一緒に、こういうお話をしたいのです。」
ロテュス王子は、俯いて、すす、と麦茶を啜った。
「今頃、お休みしているのじゃない?転移で帰ってお話、しては?」
竜樹は、親子水入らずの時間を邪魔する訳には、と思ったが。
「ーーーそうかも、なんですけど、私も何か、今日の事で、気持ちがふわふわしていて、それに、母様や父様と、なかなか今まで話せなかったから。共感覚で感じてはいたけど、竜樹様のお話、みたいな、明るい事を、皆で、口で、話してみたいのです。私たちだけだと、何も言えなくなっちゃうから•••。」
何か、話してたくて、そうしてるうちに、落ち着くと、思うから。
フス、と鼻息。
ロテュス王子に今日あった事、気持ちの上がり下がりを思えば、気が昂るのも仕方ない。落ち着き方は人それぞれ。眠くなるまで、ゆっくりダラダラと話をするのも、良いのかな、と納得して、竜樹は自分からスマホを出して、体育館の救助本部に電話をかけた。
魔法使いチリとファマローを呼んでもらい、体育館と寮を繋いだ通信を、テレビのように繋いでもらう。
チリだけだと、魔道具にしたテレビ電話がないと通信出来ないが、魔力がふんだんにあるエルフなら、時間を気にせず繋いでられるのだそうだ。
ロテュス王子の父様、リュミエール王と、母様、ヴェルテュー妃は、体育館の中で、他のエルフ達と同じように床に座っていた。(クッションはふかふかと充分に用意されていたが)
ヴェルテュー妃のお膝には、助け出されたジュヴール王似の息子、エクラが縋りついて眠っている。
リュミエール王は、ゆっくり、色々な具が煮込まれ溶けて、サラサラしているスープを、飲んでいる所だった。
本来なら、王宮にお招きしないといけないのだろうが、ヴェルテュー妃は断って他のエルフ達と一緒に、と願い出ていたし。リュミエール王は、やつれながらも微笑をたたえて、満足そうな顔をしている。
他のエルフ達と一緒が良い、顔が見ていたいと、民に近いエルフの王族達なのだ。
「父様、母様。お食事中、すみません。少しは休まれましたか?私は、さっき、てんどん、という美味しいものをいただいて、食べました。」
ロテュス王子は、食事の意地悪はされなかった、との事なので、一緒に天丼が食べられたのだ。
リュミエール王は、ずっと力を魔法陣の中で送らされていたから、食事もあまり食べさせてはもらえなかった。身体の事情を考慮しての、サラサラスープである。
「父様は、とても美味しいスープを、いただいている所だよ、ロテュス。お腹があったかくて、とても良い気持ちだ。ロテュスも、美味しいものをいただいたのなら、良かった。テレビでんわしてきたという事は、何か話す事があるのかい?」
「はい。あの、お休みしながら、何となく、聞いて下されば良いのですけど。何だか私、落ち着かなくて、竜樹様がお話ししてくれる事を、皆で、ゆっくり、お話したくて。転移で体育館に帰ってだと、竜樹様の、明るいお話が聞けなくて、何だか聞いていたくってーーー。」
ウン、ウン。
興奮しているのだな、とリュミエール王もヴェルテュー妃も、分かった。
「ならば、私も失礼して、まったりしながらお話しようか。竜樹殿、お行儀は悪いが、許されよ。」
パシフィストが体育館に派遣した侍女さんが、背中からもっふり寄りかかれる、大きな座椅子クッションを、サササと用意した。
「どうぞどうぞ、身体を休めてください。また後でお話もできますから、雑談というか、お茶でも飲みながら、ほんわりとお話、しましょう。」
「うむ。他のエルフ達も見て聞いているからね。何か、明るい気分になるお話でも、しようか。」
サササ、と、リュミエール王とヴェルテュー妃に、温かく少し甘い麦茶が用意され、低い机が置かれた。
ばふー、と座椅子クッションに寄りかかったリュミエール王は、瞼が少し下がって、お疲れである。
「竜樹様が、エルフも、テレビのちゃんねる、を一つ持って、発信してみないか、って。テレビは、各国のちゃんねるを、ジュヴールにも放送したりして、今までじゃないやり方を学んでほしいのですって。」
竜樹が話したような、情報のシャワー、情報を多面的に入手して考えさせる、の話を、たどたどしく話すロテュス王子である。
「ほう!!」
途端に、目がぱっちりとする、リュミエール王。
「それは良い!それは良いな!あのジュヴールに、エルフ達の作る番組を見せてやろうじゃないか!?ジュヴールのようではない、柔らかな方法で、手取り足取り、教育してやろうじゃないか!」
まあ、それがなくても、エルフ達にだって、テレビ番組は便利そうで良いしな。
ニヤリ。
うおう。
乗り気のリュミエール王である。
ヴェルテュー妃は、ニコニコして、ポットから麦茶のお代わりを、自分とリュミエール王に足して。
「今日の、種子になったエルフ達を運ぶ時の、竜樹様のお話、とても良かったと思うの。ジュヴールみたいに、虐げて働かせるのじゃなくて、エルフ達が楽しく働いて、お金を稼いで、自分も大事に出来る方法だと、思ったわ。」
ヴェルテュー妃は続ける。
「魔法陣で各国やパシフィストの国内を繋げて、しかも今までの道を絶やさないようにする方法、エルフならではの方法がありますよ。」
ニコリと笑う。
「おおう!どんな方法でしょうか?」
竜樹がショボショボ目をぱっちりした。
「木を植えるのよ。道沿いに。」
ジュヴールでしていたように、無理に力を注ぐのではなく、エルフ達が道を辿りながら、お世話が出来るような。
実が生ったり、樹液が使えたり、花から蜜がとれたり。花が綺麗、ってだけでも良いかも。観光できるわよね。
「その地方に合わせて、エルフ達と、そして地元に住む人たちが一緒に、面倒を見られるような、そんな道にするの。」
飛びトカゲ便が廃れないように、そして適量の荷物を運べるようにするには、そうねぇ。どうするのが良いかしら?
首を傾げるヴェルテュー妃に、周りから、ヒョコ、ヒョコ、とエルフが顔を出す。
「やっぱり、遠ければ遠いほど、魔法陣を使う時にはお金をとると、良いと思う!」
「安全に道を、速く着けるんだから、維持管理する為にも、お金は必要!エルフも、お金とかちゃんとくれて、働かせてもらえれば、手伝うし!」
「飛びトカゲ便は、比べると遅いけど、値段が安いってなれば、使うと思う!」
ウン、ウン。
リュミエール王の目が、トロンと、そして細くなり、唇は微笑み。
エルフの魔法使い、ファマローが、ソワソワと映り込んできて。
「わ、私、パシフィスト国内と各国に魔法陣作る前に、また、竜樹様の寮や、教会の孤児院に、行きたいな。多分、魔法陣を見張る人、必要と思う。エルフ達でも出来るし、信用のおける人間でも良い。子供達が安全だといいから。」
それに、すごく子供達といると、癒されるからーーーー。
「ズルいっ!ファマロー!沢山の子供達をギュッとしてくるなんて!私たちも、癒されたい!」
「孤児院で働きたい〜!」
「「「癒されたい〜!!!」」」
若い男女エルフ達が入り乱れて、ホッコリしているファマローにツッコミしている。
「ウン。まあ、子供達の面倒見をするなら、責任があるから、見習い期間を設けたり、少し為人を見させてはもらうけど。エルフ達が、もし良いって言うなら、孤児院で働いてもらうのも、アリかもです。」
竜樹が提案すれば。
「「「わーい!やったー!!」」」
エルフ達は大喜びである。
「種子エルフ達は、成人してるエルフでも、起きてきっとすぐには働けないと思うの。」
「何か、癒しが必要と思う。」
まだ硬く丸まっている種子赤ちゃんを、大事に抱いたエルフ夫婦が、心配そうに。
「もしかしたらーーー。」
ラフィネ母さんが、腕を胸の前で組んで、そっと、口を開く。
「私が花街で働いている時、若い、なりたての花の子を、優しく抱きしめて話を聞いてやって、ていう姉さんが、お店毎に1人はいたものなの。」
花街にいた事を、隠さないラフィネに、エルフ達は、目を見張って。
「若い花の子が傷つくのは当然よね。好きでもない人に散らされるのだから。そればかりではなくて、色々な悩み事を、姉さんは黙って聞いてくれたものよ。今、花を引退して、どこかの後家さんや、お店を持たせてもらったりしている、そんな優しい姉さん達になら、私、ツテがあるのだけど。」
エフォール様がしているように、編み物なんかをゆったりしながら、話したければ話をしたり、黙って一緒にいたり、そんな事が、もしかしたら。
「エルフさん達の、助けに、なるかしらーー?」
「なります。」
ヴェルテュー妃が、キッパリと。
そして。
「とても良い案をありがとう、その、お名前をお聞きしても?」
良いのだろうか?と遠慮がちに聞いた。
ふわっと笑って、ラフィネが名乗ろうとすると。
「ラフィネ母さんだよ!」
ジェムが、大きな声で言った。
「竜樹父さんと、ラフィネ母さん。俺たちの、父さんと母さんなんだ。」
誇らしげに、自信満々に。
それを聞いたロテュス王子は、え!とお口を開けて、竜樹とラフィネを、交互に見た。
リュミエール王は、スフー、と息を吐いて、うつらうつら、している。




