転移のお約束
「とーさ!」
「竜樹とーさん!」
ニヒ、と照れ笑いする、地方の教会孤児院の子達。男の子も女の子も。実際に会うのは初めましてで、ソワソワ竜樹を見て、近寄りたいような、恥ずかしいような。
竜樹は笑って、赤ちゃんのラマンがキャハ!と足に抱きついてきて。
ジェムが大きな紙から目線を上げて。
「竜樹とーさん、紙もらったー!お酒のあんけーと、皆で作ってた!」
「おー、良いよ良いよ、紙使いな。それで、皆、転移で?寮にきたのかい?」
「うん!」
「チリおじちゃんと、エルフのお兄ちゃんがー。」
「ちゅくってくえた!」
「てんい、した!」
へー!なんて3王子も頷き、どうやって、転移するの?と質問。
こっちこっち!
あのねあのね!
子供達が3王子と竜樹とにとっついて、空いていた一部屋に案内する。ロテュス王子も、子供達の波に引っ張られ、その空き部屋へ。
寮の個室として作られていたが、ベッドやサイドテーブルが取っ払われ、窓にカーテンが揺れるだけの殺風景な部屋の床には、転移の魔法陣。
丸い陣の1箇所に、ラマンの背丈位の切り替えスイッチが設置されていて、カチカチガコンと動かせば、魔法陣の中の、行き先を示す部分が変わるようになっている。
「この一つの魔法陣で、皆の所に飛んだり、ここに転移できたりするのかな?」
「そうだよ!」
「あのね!誰かが使ってるときは、光ったまま、待つの!」
「ぶちゅからないのー。」
「悪い人は、神様が知ってるから、ろうやに勝手に転移するんだってー。」
「それか、動かないかだって。」
うむうむ。セキュリティは、何となく作ってあるようだ。
「おかえりなさい、竜樹様。」
ラフィネお母さんが、竜樹に教えたくてたまらない子供達を見て、くすくすしながら。寮で見守る大人達の代表として、まずは竜樹に話しかけた。
「ただいま、ラフィネさん。帰ってきたら転移魔法陣が出来てる、なんて思ってもみなかったよ!」
「チリ魔法院長と、エルフのファマローさんが、試しは必要、って歌いながら言って、あっという間に作ってしまったんですよ。それで、私たち見守る側の大人達は、子供達が自由に行き来を始めて、面食らっちゃって。」
ああ〜。
一つの孤児院で、大人達が、自分の所の子供達の様子を日誌に纏めているのだが。どこかに自由に行かれちゃうと、何かあった時に見守りができないし、どうしたものか、と。
「皆で悩んだりしたんです。そうしたら、日誌は共通の魔道具に、図書館の検索しすてむ?みたいにして、書き込みもそれぞれの場所から共通でできるように作って下さって。それから子供達は、転移の時に、お約束を作った方がいいかな?って、今お話ししてました。」
例えば、必ず誰か大人に、どこの教会へ転移するか言ってから行く、とか。
ご飯は基本、自分の所属する教会で食べる、だとか。ご飯の用意の都合があるから、簡単にあっちこっちで食べる、って急にはできないのだ。
「お約束、守るー。」
「あーい!」
子供達は良い子にお返事だ。




