神の目
「お使いは、明日、みんなを連れてってほしいんだよ、ニリヤ。」
目線を合わせて、竜樹はしっかりニリヤの様子を見た。
まだ早いだろうか、と思うし、早く会わせてやりたいとも思う。
「つれてく、どこ?」
ミランがおもむろに立って、カシャカシャ甘いお茶を淹れる。明日の予定を知っているのだ。みんな、何となく静まって、お茶を待つ。
柑橘のゆるいジャムをいれた、温かく、ほんのり気持ちをほどくお茶。
ふうふう、吹いてやり、くるくる匙を掻き回して、熱さを和らげる。
コクン、ひと口ニリヤが飲んだのを見計らい、竜樹は切り出した。
「神殿に行こう。ニリヤのお母様が、ねんねしてる所もだ。」
会いに行こう、ニリヤ。
「•••みんなで?」
「みんなでだ。」
背中を撫でてやる。
何を思っているか、行きたくないと言われたら神殿だけにする、その予定だ。
ニリヤは、母親が死んだ、とは認識していない。多分、そうしたくないのだろう。無理矢理向き合う事もないが、ミランとマルサの話では、お葬式にもニリヤは連れて行ってもらえなかったのだという。
前兆も何もない、急死だった為、大人達もてんやわんやだった事に加え。
可愛いらしい普段の容貌と違い、唇を噛み締めた恐ろしい顔で逝ったそうで、王は、子供達に、リュビ妃の最期を見せたがらなかった。
ニリヤは、母様はねんねして、起きない、と言うばかりで、死んだという言葉には決して頷かなかった。
「わ、私も一緒に行きますよ。神の目の事もありますし。ニリヤ様のお母様に、ご挨拶もしたいし。」
チリも、柔らかく、胸に手を当ててニリヤに礼をした。
「•••みんなでいく。いきたい。」
かあさまに、あいに。
「•••神の目って、何なんだ?」
マルサは、問いかけながらお茶の残りをズズッと啜り、垂れ目をさらに下げた。お茶だけだと物足りない。
「よくぞ聞いてくれました!」
ゴロン、テーブルの上に散らばるのは、金の貝殻に真珠の形をした、クリップ。シンプルな青い石のピン。花を象った、飾り。
「これを壁の上部や天井などに仕込んでおきますと、さながら神の視点とでもいうべき『どうが』が撮れるのです!」
「監視カメラね。」
悪いことに使われないように、神の目という名前にして、王宮と神殿にバックについてもらいたい。竜樹は、便利な道具を異世界に広めるについては、それなりの危機感を持っている。
神殿が信じられるかどうかは、当たってみないと分からないが、疑ってばかりだと身動きがとれない。
ミラン、マルサ、チリ、そして報告を聞いた王によれば、神殿長は安心して頼み事をできる人。
「人の生命反応を感知して、撮り始めて、人がいなくなったら撮るのをやめます。どれだけ撮っても、きっかりひと月持ちますね。中の録画された記録魔石を交換することで、いくらでも昔の記録が残せますし、節約するなら上書きもできます。」
いやーこの魔法具、作るの大変でした!その応用で、この『人の目』も、できたんですが。
「カメラね。」
カメラは、魔石が使ってあるだけで、見た目は、まんまハンディカメラだ。
「ミランの出番だね。」
「わ、私ですか?」
試しにどちらも、使ってみよう。