16日 分かって欲しい
結構、ジュヴールこれからヤバそうだけど、実感ある?
と聞かれて指名され。ジュヴールの街にいた民、青い布を頭に巻き、周りと同じくハラハラしていた青年は、うぅ、と呻き声を漏らした。
けれど、自分が、口を開くのを待っている沢山の人達の、そしてゆったり待ちの神の圧に耐えかねて、ぽつり、ぽつりと。
『ほ、本当に?ジュヴールの国の畑は、ーーーダメになってしまうんでしょうか?だって、この間まで、麦も沢山実ったし、今は夏野菜も、旺盛でーーー急に、土地がダメになるって言われても。』
信じがたい、と。
『ウンウン。実感わかないよね。だから、まぁ、実際に目に見えてきてからの対応でも、仕方ないと思う。ではね、君はエルフに対して、どう思ってるの?』
案外、優しげに竜樹に聞かれる事もあってーーー厳しく詰問されても口が開かないものだから、竜樹は自然とそうなるのだがーーー青年は心の中をそのまま話す。
『俺、俺達一家の畑も、エルフがいないと、全然収穫とか種まきとか、間に合わないし。それに、エルフとの間に、赤ん坊も生まれたし、そりゃ、確かに食事、ジュヴールの民ほどには食べさせてなかったけど、俺たちだってそんなに豪華な飯じゃなかった。少なくとも、俺は、1日1回は食事をやったと思う。全然イヤそうなそぶりも無かったから、これで良いんだとーー。
ジュヴールの女性を嫁に貰うより、エルフの女性を1人貰う方が、安上がりで便利で良く働くって皆、言っていたしーーー。』
『ウソよ!!!』
体育館のエルフ達の中で、あぶぅ、とおててをしゃぶる赤ちゃんエルフを抱いた女性が、声を上げた。
見知ったエルフ女性の顔をスクリーンに見て、青年は。
『私、呪いでほとんど喋れなかっただけだもん!やな事いっぱいあった!』
『え••••••。』
ジュヴールの青年は、はふ、と喘いで口を閉ざす。
『ご飯だって、あなたが持ってきた後に、家の人に取られたりしたし!』
『う。』
『そもそも、家の人達は1日3回ご飯食べてたじゃない!何で私達は1回で大丈夫、って思うのよ!』
『•••あ、う。』
『それに、赤ちゃんが生まれた事は嬉しいけど、拒絶もできない状況で慰み者にされたの、イヤだったに決まってるでしょ!男としても、最低じゃない!』
『うう。』
ガクリ、と項垂れる。
『ミルク下さい、って、あんなに言ったのに!赤ちゃん大事にしない!全然ダメダメ、そもそも家族って扱いじゃなかった!』
男達が目を細めて、スクリーンから逸らす。今までのエルフ達は従順だった事もあって、ガシリと反論されるのがとても驚きで、そして、痛い。
『あなたと、あなた達ジュヴールの国の人と、私は、エルフの女達は、家族になりたい気が、全く、しない!』
しな〜い!しな〜い!
女性エルフ達が、口を揃えて。
『ええ•••?』
『そ、そんな。』
『こ、これからは、大事にするから!』
『た、たかがエルフが、何なんだよ!いいから戻って来いよ!』
ジュヴールの男達が、カックリ膝を折って懇願したり、脅しつけたり。けれど。
『絶対、イヤ!今後、ジュヴールと関わり合いになりたくない!赤ちゃんも、きっと大事にしてくれないんだから、絶対渡さないもん!』
『そうよね!』
『ねー!』
今は膿を出す時間であろう。
『エルフの男性達は、どんな扱いだったの?』
竜樹が問う。
ジュヴールの街、女性達がヒヤヤ!とそこかしこに隠れ、指名を避けようと。
『そこの赤い髪飾りのお嬢さん、そう、あなた。どういう風に接してたの?』
まずい、という顔をさせて、けれど神にまじまじと見られているので、しぶしぶと前に一歩出る、赤い髪飾りの女性。
『べ、別に、普通に接していました。』
『普通って、具体的にどんな風に?』
『••••••。』
話さない女性は、話せば何かまずい事があるのであろう。
クレル・ディアローグ神が、パチン、と瞬きを。
パクリ。口が開く。
『わ、私はエルフなんかと結婚はしたくないけど、顔は良いから毎晩ーーわ、私は、私ーー寝所に呼んで、イヤヨもう言いたくない!』
『ーーー分かりました〜。エルフの男性達は、何か言いたい事ある?』
静かに微笑んで、隣の女性エルフが抱いている赤ちゃんに、人差し指を握らせて、揺らしている男性エルフは。
『何も。ただ、もうジュヴールに2度と戻りたくはない、それだけです。そこには幸せなんてないから。確かに、家族になんてなれない、なりたくもない。今ここにいる、エルフの彼女や同胞達が、私の家族です。』
そうだ、そうだ!
男性エルフも、ジュヴールは拒絶である。
『竜樹様。』
『ん?何だい?』
体育館のエルフ達が、ひそひそと話し合って、ウンウンと頷き。1人の女性エルフが竜樹に話しかける。
『今日見せてくれた、竜樹様の弟さんの、なれそめ再現どらまと、ぷろぽーずのどうが、ジュヴールの皆に見せてやって下さい。』
『んん?コウキの結婚報告の動画を?』
はい、と男女エルフは、竜樹に願う。
『本当にお互い、好きになって。』
『本当に家族になりたい、って思うこと。』
『幸せになりたい、って、飛び込む気持ちで告白すること。』
『そうして結ばれること。』
『呪いで相手をいいようにするんじゃ、絶対にもらえない幸せのこと。』
『ジュヴールの皆は、分かってないと思う。』
『うん、多分、分かるのにも、時間がかかるんだろうね。』
年配のジュヴールの民達は、自分達の代ではあった、普通の恋愛を思い出して、目を伏せて。
若い者達は、はてなの顔をしている。
『見せてあげて、家族になりたいっていう、本当の気持ちを!』
エルフって、お人好しだな。
こんなにまで虐げられたのに、分かって欲しい、って言う。
竜樹は、目をショボショボさせながら、スマホをいじって動画を。
罰を与えて冷たく見殺しにする、それだけ思っても、構わないくらいなのに。
でも、分かってもらえたら、そうしたら。
今のジュヴールが、これから他者を呪いで、管理していいように使おうなんてする、どこからともなく育とうとする、その醜い芽を、一つ一つ、潰す事になるのかも、しれないね。
『やっぱり、エルフの皆は、立派な調停者なんだね。恐れ入りました。』
竜樹が、ニッコリする。エルフ達は、竜樹様は、分かってくれる?と、ニコニコした。
『クレル・ディアローグ神様。諍いと対話の途中ではありますが、ここで一つ、動画を流させてもらっても良いですか?』
『良い良い。流してみなさい。私も楽しみに見よう。』
神もニッコリ、動画視聴の時間である。
誤字報告いただきました、ありがとうございます!
直してみました。




