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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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16日 獰猛でないなどと



ジュヴールの王、キャッセは、今日も昨日までと同じく、ずっと自由気ままに過ごしている。


今日は第二側妃の所でも行こうかな?頭は賢くないが、豊満で色っぽくて、なよやかな腕でキャッセをチヤホヤしてくれ。また側仕えの女も、笑ってつまみ食いさせてくれる。


『貴方様に出来ない事は、ないのですから。』


女達はキャッセがくれば、手を取り腰をくねり、歓待する。それに慣れると、今度は思い通りにならない女を、腕に抱きたくなる。


ああ、ここにヴェルテュー妃が居れば。

逃げられたのだ。


無理矢理自分のものにしたエルフの王妃は、脅したり、せせら笑ったり、子供を3人も戯れに産ませたりと、キャッセがやりたい放題しても。相対する冷たく清廉な顔を変える事がなかった。

呪いをキツくかけた為に、感情が抑制され、表情が動かなくなっている事もあったが、それにしてもいつも、どんな事をしても侵され難く、冴え冴えとしていた。


見下され、バカにされている気がする。

ヴェルテュー妃を虐げれば虐げるほど、そんな気持ちもモヤモヤと湧いてくる。


いつか、そのとりすませた顔を、歪ませ、泣き喚かせてやりたい。

そんな気持ちは、逃げられたと知った時、大きな怒りに変わり。周り中に当たり散らし、今も腹立たしい。


チッ、と舌打ちをし、忌々しい出来事を晴らすために、第二側妃の部屋へと向かう。どうにかしてまた捕えろ、と命令は出してある。今日出した仕事の命令は、それだけ。


普段から、仕事など、偶に大まかに指示を出す以外はしない。そんなものは、キャッセの意を汲んだ、下の者がやれば良いのだ。

王妃側妃愛妾、それから手はつけたが特に地位を定めない者達を、大量に離宮に集め、自身を中心としたハーレムに。そこを目指して歩けば、呪いの印を小さく刻まれた仕える者達が、ゾロゾロ付いて、頭を軽く下げたまま。キャッセの希望を何でも叶えられるよう、守るよう。


「まぁキャッセ様。今日は私の所へ来てくださったのですね。嬉しいわ!」


ニコニコと迎える第二側妃。

そこへ、王妃と第一側妃が、ヒラヒラとドレスを靡かせてやってくる。


「私たちも可愛がって下さいませ。」

「キャッセ様が恋しくて。」

うふふ、うふふふ。


良いだろう良いだろう、纏めて相手をしてやろうじゃないか!

ふん、と気を取り直して女の腰を抱く。


大きな、10人も乗れそうなベッドに、ひとまとめにもつれ込んで、脱いだり何だりかんだりしている、良いところで。



キィィィン ぼわわわわ


耳をつんざく、聞き慣れない音が。

ジュヴール中に、いや、この大陸の国中に響く。


『う、うん!あーあー、只今マイクのテスト中、テステス、ちゃんと聞こえてる?見えてるかな?』


な、何だ何だ!

キャッセ王がジタバタ、シーツの海からこんがらがった女体と顔を出せば。

窓の外、空中に、沢山の巨大なスクリーンがあり。様々な顔が映っている。

そして、一番大きなスクリーンには、驚き顔で裸の女性と窓から顔を出す、間抜けた顔のキャッセが。


『こんにちは〜!キャッセ王様、ジュヴールの皆さん!お取り込み中、失礼致しま〜す!そしてエルフ救助要請を受けた、盟約に係る各国のトップの方々!よろしくお見届け、お願いいたしま〜す!私は、パシフィストのギフト、ハタナカタツキです!初めましてぇ〜!』


「な、何なんだ、何だ、誰か!」

『な、何なんだ、何だ、誰か!』


キャッセ王が、みっともない格好で叫べば、その声、愕然とした様子、全てが大画面にて放送されてしまう。


気づいてはいないが、ブーンと空中自動追尾型な神の目が、キャッセ王をターゲットに飛んでいるのだ。仕込んだ魔法使いエルフは、シュンと転移して、もうそこには、いない。


はっ と気づけば、肌色で呆然とする王妃も側妃達も、一緒にあらわに。

「キャア!いやぁ!」

一拍置いて、身体を隠そうとして、キャッセ王が纏っている掛布が引っ張られ、生まれたままの姿になった。女性達の引っ張り合いが醜い。


『ええっと、慌てないで、普段通りにしていてくださぁい!これから、エルフの救助要請に応えて、リュミエール王様や、ジュヴールで呪われ戒められ、働かされていた残りのエルフ達を、救出させていただきまぁす!その様子は、この。』


竜樹が側でカメラを回して待機する、ニュース隊と、魔法でスクリーンを維持する魔法使いエルフ達を指し示し。

『パシフィストのカメラクルーが、生で、余す所なく、大陸全土に放送いたしまぁす!』


「大陸、全土にだと!?」

『大陸、全土にだと!?』


キャッセ王だけでなく。バラバラと庭に出て、そのスクリーンを見上げている、ジュヴールの魔法使い達、国民の呪いの管理者が、口をあんぐりと開けて。その中でも、魔法師長が、たらりと脂汗を流して、ずり、ずり、と足を後に。


『よろしくお願いします!ニュース隊のリポーター、スーリールと申します!これから、リュミエール王様をお助けしますよ!ロテュス王子、リュミエール王様は、ジュヴールで監禁されて、ジュヴールの大地に、作物を育てる力を注がされているんでしたよね。』


『はい!そうなんです!私自身も、昨日解呪されるまで、囚われていました!』

オーブを頭にふっくら乗せたロテュス王子が、悲しげに、腹立たしげに、ハッキリと返事をする。


『何でそんな事に、なっちゃったのですか?』


『最初、3人のエルフの子供達が呪われ、拘束されて連れ去られ•••。』


経緯を詳しく述べれば、各国のトップ達が、ウゥーウ、と唸る。次々に発言し。

『調停者のエルフを虐げるなんて、もし何か争い事があっても、エルフの助けを、要らないと言ってるようなものだな。』

『うむうむ。国が潰れても文句は言えないね。』

『ギフトの御方様も狙っていたらしいじゃないか。国ごと更地にされたかったのかね。自殺行為だろ。』

『我がマルミット国の商人が、その倅だったか、エルフを誘拐するのに加担していたとは、誠に、誠に、申し訳ない!我が国でも報告を受けて、調査したが、確かにその罪は真実。改めて謝罪する。関係者を捕えたが、ジュヴールの手先となった商人の倅の居場所がまだ分からない。今は、エルフの救助要請に、しっかりと応えていきたい。エルフの森のある我が国を、エルフ達は信じて、住んでいてくれたものを。』

マルミット国の国王は、眉を下げ。そして誇りにかけて商人の倅を草の根分けても探し出し、処罰を下す、と怒りを込めて続けた。


アワアワ。

ジュヴール側の管理者も国民も、まずい事になっているのだけは分かる。

閉ざされていたから、その中で好き勝手できていたけれど、それが開かれたら。


『じゃあ、そろそろリュミエール王様の所へ飛んでみましょう。お願いします、ロテュス王子!』

『はい!皆、手を繋いで、どこか触れ合っていて。』


キラキラ、シュン、と光。


「おい!どうにかしろ!くそっ、忌々しい!いつまで続くんだ、私を晒し者にするな!!」

『おい!どうにかしろ!くそっ、忌々しい!いつまで続くんだ、私を晒し者にするな!!』


キャッセ王は脱ぎ散らかした服を、ジタバタしながら着て。

裸の女性達も震えて、ドレスをあっちへこっちへ、取り違えて合わないままに着替え、どうすればこの厄介な放送から逃れられるか、キロキロ目をあちこちへやり、考えて。

そろり、そろりと、キャッセ王から離れてゆく。


シュパッ 竜樹達が転移で移動した先は、王宮の中枢、地下、広い部屋。


長く翠の髪を、地面につくほど垂らした1人のエルフが。青ざめた瞼、瞑ったその目が開けばどれほど美しいか。禍々しい黒の鎖で座った椅子ごと雁字搦めにされ、うっすら光る大きな魔法陣の真ん中に。


『お父様!!』

ロテュス王子が駆け寄り、魔法陣の模様を、魔法を込めて足で蹴散らして壊し。戒める鎖をガチャガチャ揺らすも、びくともせず。

魔法陣も、ふんわりと壊れた所が自動で修復されてゆく。

このままでは、魔法陣の中にいるロテュス王子まで力を吸い取られるか、と。


そこで神鳥、オーブの出番である。


コケ!


ひと鳴き、ふわり、ピカッ!


ザラァ。

魔法陣が地面から浮き上がり、ザラザラと黒い砂になり、端から落ちてゆく。

鎖は1つ1つの輪が、キュ、と捻れてバラバラに。


リュミエール王様の、瞼が、開く。


そこで、呆気に取られて、その光景をただ見つめていたジュヴールの警備兵達が、ハッと駆け寄ろうとし。

マルサ達、パシフィストクルーを守る者達が、反応して構え。


コケ!ケケコ!

バタバタタ バシ、バシ!

「痛っ!」「何だこの鳥!」


オーブが蹴っ飛ばした警備兵は、力が抜けたらしくカクリ、カクリと膝を折って、地面と仲良しになった。


『ーーーロテュス。我が息子。』

『お父様!』


よろり、立ち上がって、リュミエール王様は微笑み。

見上げるロテュス王子を抱きしめ。


『良くやった。救助要請を出したのだな。』

『はい!パシフィストで皆、大事にされ、保護されています!』


そうか、そうか。


ニィ!


美貌のエルフが悪く笑うと、何故もこんなに怖いのか。


『随分と、ジュヴールでエルフの子供が増えた。そんなにもエルフの血を引く子が欲しかったのなら、良いだろう、我々エルフがジュヴールを、取り込んで飲み込んでやろうじゃないか!』


あらゆる所に生える雑草のように、緑萌え育ち広がる。

利用しているつもりで、乗っ取られる。


静かなその命が、穏やかで獰猛でないなどと、誰が言った。





15Rにした途端、なかなか、キーワードの「ほのぼの」らしくなりませんが、そのココロは忘れていないので、もうしばらくお待ち下さいますよう。


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