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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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282/692

15日 援助、始まりました


エルフの魔法使い、ファマローと、魔法院長のチリが、寮の交流室で大きな紙を広げ、書き込み、あーでもないこーでもないと議論している。


「そこはルート神様の名前を刻んでおかなければだから、動かせないよ。」

「えっ、えっ、あー、そうか。た、短縮呪文でも、ここを繋げればちゃんと機能するんだ。エルフの魔法陣は、何か絵的にも綺麗ですね。」

ムフフん!とファマローは嬉しそう。


「勿論!見て美しいという事は、合理的で破綻なく、秩序が保たれているという事だから。」

「なるほど。所で、一発で本番の魔法陣描くのは、ちょっと、ちょっとですよね?ここの寮と、王都の教会、地方の教会16こを繋いで、運用してみて、練習ってやってみたいんですけど!」


ニココ!と笑い、都合の良い練習をぶっ込むチリである。

周りで、ふん、ふん、と難しい、分かったような顔で頷く子供達も、ふぉ?ふぉー!と盛り上がる。テレビ電話は、泥合戦のドサクサ紛れに、繋ぎっぱなしになっていて、事の次第を王都と16地方の教会の皆も知っていた。竜樹父さん大変そうだなぁ、でも泥合戦楽しそうだなぁ、なんて、泥合戦前のお昼ご飯の時から、子供達によって外に持ち出されたカメラで、ずっと見ていたのだ。

浮かぶ画面内でも、キャワ!と盛り上がる。


「きょうかい、つなげると、竜樹父ちゃんがいっぱい俺たちに、会いに来れる!」

「おれらも、ジェム達や、貴族のエフォール様たちや、王子様たちに会いにいけるし!」

「エルフの、きゅうじょようせいの、お手伝いも、するからさぁ!」

「いっぱいとれたら、サーモン分けたげるね!」

おねがーい!


ファマローは、ぶるぶるる!と震えて。

「可愛い子供達が、わ、私にお願いを!超、癒される!癒されるぅ!!」

お願いに、ファマローのお膝に寄って、ギュッとする子供達を、抱きしめ返して。

「ああ•••子供達の、お日様の匂い。本当、ジュヴール、辛かった。疲れて、お腹空いて、眠らせてもらえなくて、同胞を呪わなきゃいけなくて、うっ、うっ、うっ!」


私の我慢は、今日この時の癒しの為に、あったのです〜!!


ちょっと痩せてるけど、甚平姿のキラキラエルフが、涙をポロポロこぼし子供に頬擦りする姿は、ユーモラスでありつつも美麗である。


「本当に、エルフって、子供好きなんですねぇ。」

チリも子供好きだが、どちらかといえば、自分も子供みたいなものなので、馴染んで仲間、一緒に遊んでる感じなのだ。


「だって私たち、結婚しても、あんまりすぐには妊娠しないんですよ。子供はエルフの宝です!人と交われば、エルフ同士より妊娠しやすいし、エルフの血って濃いから、子供のほとんどがエルフで生まれるって事もあるんだけど、それって、エルフにとって喜ばしい事のはずなんだけど、だから女性のエルフ達は、皆•••。」

スン、と色のない虚無の瞳になるファマローに、分からないながら、子供達も小さな手で撫で撫でし、大丈夫?と寄って取り囲んだ。


くすん。鼻が鳴る。

「もう少しだけ、子供達を、ギュッとさせて下さい。そしたら、教会を魔法陣で繋ぐ、練習のやつを完成させて、失敗がないか検証してみましょう。」


ラフィネが、そっとファマローとチリ、子供達に、お茶を淹れる。エルフの女性が受けた扱いは、ラフィネには想像がつく。だから何も言わない。


エクレとシエル元王女は、こんな時、王女のままだったら、エルフ達にもっとお手伝いできたのかな。と子供達の面倒を、いつも通りにみつつ、ふ、とため息。


「いつも通りの事をする人も、必要だよ。」

だから俺たちも、安心してエルフのお助け活動に力を発揮できる。

竜樹の言葉を噛み締めて、先程まで子供達の着替えや、おやつの支度を手伝っていた。

オーブが、コココ!と2人の前に来て、バタタとシエルのお膝に乗った。




「ロテュス様ぁ!良かった、ご無事でいらして•••!」

「•••ーーーー!!」


寮の庭に、続々とエルフ達が転移してくる。皆、王子ロテュスの事を、その無事を、喜んでくれる。言葉が出ない位、感極まるエルフもいる。自身は相当こき使われたのか、しおしおに痩せて萎れていながらも、自分の事よりロテュスを。


ロテュス王子は、ニッコリと、全てのエルフにハグしながら、大きな罪悪感を抱えていた。


森から、子供のエルフが3人、攫われていなくなったのが発端だった。

子供大事なエルフ達は、総出で森を探し、人のいる街を探し、子供達の魔力の気配で辿り、父王とロテュス王子の共感覚も使い、最終的にジュヴールに行き着いた。エルフの森のある、マルミット国の商人のどら息子が、エルフを売ったのだ。因みにそいつは、エルフ達に捕まるのを恐れて、売った端金を持ちジュヴールに逃げて消えた。


助ける為に、まずは大人のエルフ達がジュヴールの王宮に出かけ、戻って来ず。ロテュス王子も、モヤモヤと蓋をされて動けない、悲しい帰りたい感覚を送ってくる、ジュヴールのエルフ達を案じ、私なら共感覚魔法で、今どうなってるか、知らせをすぐに皆に伝えられるから、と追って、ジュヴールに行き、そうしてーーー。

瞳を暗くした、呪われた子供達を目の前に、その命を握られて、特大の呪いを受けてしまった。


ロテュス王子が囚われなければ、まだエルフ達は逃げる事ができたろう。ロテュスは、皆に望まれた、父王譲りの共感覚の魔法を持っていた。エルフにとっては、それは大事な、自分達の血の親株、拠り所のようなもので。自由で天然なエルフ達をまとめる為の、後を繋いでいく象徴だった。

それだけではなく、ロテュスの苦しみは、共感覚のエルフ皆へと伝わってしまい、皆、ジュヴール国に抗えなくなったのだ。


いや、誰が囚われたのだとしても、結局エルフは、子供達のどの1人でさえも、見捨てられなかったのかもしれない。

親株のロテュスには、子供達を案じる心配の気持ち、呪われて悲しく森に帰りたい気持ちが、5246人分、ずっと伝わってきていたから。


お父様•••。


「ロテュス様。お父様の事は、呪いが解けた皆で、迎えに行きましょう。パシフィストの、ハルサ王様にも、他の国々にも、相談して。」

エルフの宰相の、サジタリアスが痛々しい顔でロテュスの背を撫でる。


「最初に攫われた、森の子供達3人が、何故か呪いの蓋が開いて、転移が使えて、こちらに飛べたのを喜びましょう!」

先程、もう、本当にヨロヨロにボロボロになりながら、必死に転移してきた。直ぐには動けず、まだ寮の庭の縁台に座り込み、震える手に甘くて酸っぱくて少ししょっぱい、ぬるい飲み物をもらい休んでいる。すごく、すごく美味しい、と喜んで。


「うん。多分、たつき達と、神の鳥オーブが用意してくれたっていう、神力のこもった栄養のある森の土が、良く効いたんだと思う。私も、投げつけられたその土の匂いに、モヤモヤがサーッと晴れ渡った気がしたんだ。呪いの拘束に抗って、身体の自由も、取り戻せた。皆、私が土の匂いを嗅いだと同時に、共感覚から懐かしい森の、土の匂いを感じていたみたいだろう?」

「ええ。泣きたくなるような、懐かしい湿った森の匂いが、しましたね。」

思い出したのか、しみじみ少し嬉しそうに、サジタリアスは一つ、頷く。


キラキラ!と、また庭が光って転移のエルフがやってくる。老若男女。ロテュスが罪悪感を持つならば、できる事は、今、痛む事ではない。希望をもって、傷を負ったエルフ達を迎え、安心させてやり、体育館へ誘導する事だろう。

ロテュスは、ニッコリと、もう大丈夫だよ、と、微笑むーーー。





「皆さん、今日も一日、お疲れ様です!どんな1日を過ごされましたか?これから出勤の方は、行ってらっしゃい!今日も頑張って!ゆうがたニュースの時間になりました!」

女性アナウンサーが、あっさりした大柄の、花模様の浴衣を着て挨拶をする。


「陽炎の月、15日、午後4つの鐘が鳴る時刻、6時ですね!今日も一日、色々な事がありました。」

男性用のじんべいを着たアナウンサーが、腕を開いて良く見せる。


「いかがですか?私たちも、昨日ファッションショーで発表された、ゆかたとじんべいで、今日はニュースをお送りしています。それには、もう一つ理由がありまして。」

表情を変え、キリッとした2人は、今日最大のニュースである、エルフの救助要請について取り上げる。


テレビの画面では、ジュヴール国の宰相とエルフの代表、ロテュス王子とを、泥合戦に持ち込み、呪いの刺青ーーモザイクがかかっているが、充分禍々しさは伝わるーーを確認し、竜樹が呪いを清め、ロテュスが救助要請をし。

一部始終を、解説を加えながら、流した。


「古の盟約、というのは、まだ戦があちこちの国で起こっている頃、神々からの神託で、長生きのエルフが国々の調停役をする、と約束されたものです。その約束を守り、またどこかの国に贔屓など起こさない為もあって、ほとんどのエルフはマルミット国の森の奥に住み、人々との接触は最低限にしてきました。中には街住みをしたいエルフがいて、私たちの中に生き、歴史を肌に感じ、戦になる前から活動し、調停の役に立てています。でも、調停役を頼まれるだけでは、エルフにも得がないですよね?」


「はい、ありがたい事ですけど、きっと、大変な事でもありますものね。」


「だから、エルフは、盟約を結んだ全ての国に、エルフの一族が危機に陥った時、救助を要請できる権利を有しているのです。各国は、全ての難を払って、それに応える義務があります。エルフは平和に貢献し調停してくれる。我々はエルフの困難に報いる。それが古の盟約の内容です。」


「近年では、そのエルフ達が、ジュヴールの国にしかいない、といった現象がありましたが、先程の映像で明らかになったように、呪いで縛っていたんです。亡命を希望している、ジュヴールの元宰相によれば、国民を呪いで管理もしている、との情報も入っています。詳しくは調査を待たねばなりませんが、まずはエルフ達の救助が、急務となります!」


「神の鳥、オーブ様の泥団子と、ギフトの御方、竜樹様の呪い解除で、エルフ達は自力で、ここパシフィストに、転移で集まる事ができています!」


「私たちの平和を守ってくれるエルフに、今こそ恩を返す時ですね!歴史を辿れば、戦になりかかる前に、エルフに助けてもらった国は大陸の全て。盟約に係る全ての国が、何らかの恩恵を受けているそうです。」


「具体的に今後エルフに、どう救助していくか、というと、まずパシフィストでは、体育館にエルフを受け入れて、安心で自立した生活ができるまで、補助をしていくリーダーの役を担います。」


「各国も救助要請を受け入れ、物資を送る準備を始めています。ここで、先日話した、転移魔法陣の話が出てくる訳ですね!」


「はい!エルフに関わる事ですから、転移魔法陣を作る手助けは、してもらえるそうなんです。この救助に関わる全ての国、地方の要所に、まずは試験的に置き、実地で使ってみて、と。」


「ここで皆さん、まだ早まらないで。この魔法陣は、エルフの救助に係る、国が認めた、公の物流にのみ、まずは使われます。一般の人は、まだ使えないのです。」


「この救助を成功させる事により、魔法陣の使い方、規制の仕方、どこに魔法陣を置くか、そして道を保つやり方は、などの、安全安心面も考慮して、今後、回復したエルフに手助けをしてもらえる事になれば、発展、するかも?と言った所なんですよね。」


「ええ。ですが、私たちは、今、呪いで身体も心もボロボロなエルフ達に、助けてやるから魔法陣を作る協力をしろ、なんて要求する、そんな酷い国民ではないはずです。エルフ達が回復して、お互い対等に、折衝ができるほど回復したら、また考えましょう。まずは、エルフ達を助ける事が急務です!」


「ハルサ王様のお言葉があります。」


「国民の皆、私たちが今も、無事にこうして生きている事は、歴史の中で、エルフの並々ならぬ手助けがあってのことだ。我々は、誇りをもって、恩に応えよう!皆の協力を、パシフィスト国王ハルサ、ここに、切に頼む!」


ハルサ王様の、真剣に頭を下げる映像に、国民達は、声も出ず、それを見守る。


「各国の留学生達も、お助けの為に体育館で、エルフ達に必要なものを聞き取りしています。さて、ここで浴衣と甚平。泥合戦をして、身体を急いで清めた各国代表代理の方達が着たのは、このゆかたとじんべいです。」


「この形の服を着ている人は、エルフ達をお助けする係ですから、今、体育館で休んでいるエルフの皆さん、不安な事は話しかけてみて。赤ちゃんのミルクは?おしめは?服はどうする?怪我は?寒かったり暑かったりしない?お腹空いた?など、何でも良いので、話を聞かせて下さい。ここはパシフィスト、ギフトの御方様がいる、平和を尊ぶ国。怖い事は、もうありません。安心して。私たち、そして盟約に係る各国が、エルフをお助け致します。」


「夕飯を食べて落ち着いたら、呪いを完全に拭い去る為に、プールをお風呂にして、竜樹様が待っていますよ!プールもしばらくは、エルフ達の、ゆあみ場に使われます。私たちは、少し遊びを我慢して譲りましょう。竜樹様が言うに、『困った時はお互い様』、です。」




体育館で、床に直に座るエルフ達が。大画面をみつつ、ふわ、とお口を開けている。


「テレビとは、こんなものであったのかーー。」

ロテュスは、寮の庭で、転移してくるエルフ達を、自分も疲れたろうに、変わらずの穏やかな微笑みで迎えながらも、ジェム達が持って来たテレビを、一緒に見た。


夕飯の配布の支度を、寮でも体育館でも、し始めている。美味しそうな匂いに、エルフ達は唾を飲み込む。


「食事、もらえるの?」

ニュース隊のスーリールが、寮の庭で、マイクは向けずに、転移したばかりのエルフに、しゃがんで話を聞いている。

「もらえるわよ。貴方達、ちゃんと食事もらえてなかったのね?」

「ウン。エルフは長生きで丈夫だから、そんなに食べなくても大丈夫だろう、って。」

眉を下げ、お腹を抑えるエルフに、スーリールはジュヴールの国に、怒る気持ちを抑え、優しく言った。


「まずは弱ってる身体に、消化の良いものを、って、スープとパンだそうだから、少し待っててね。」

「ウン。」


絶対、ニュースで、真実を流してやる!

まだエルフ達は、テレビでインタビューできるほど、回復してないから、話を聞くだけ。カメラも、顔は映さず、胸元か、ロングで。

取材、がんばる!


お腹がすくと、エルフだって私だって同じに、力が出ないんだからね!


スーリールの目は、キラキラと使命感に燃えた。



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