表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

281/692

15日 人の死なない戦場に




エルフの王子ロテュスは、寮の男風呂、熱い湯船に浸かって、ふうぅ〜、と息を吐いた。


ようやくと、念願の救助要請が出せた。

本当に、ようやく。

バシャン!と、潤む涙を、お湯で洗って、ギフトの人、竜樹を見る。


竜樹は、一緒に風呂に入っていた、小っちゃい子組の髪を、順ぐりに洗い、目に染みないようにガードしてやりつつ、泡を流したりしている。

「うーむ、やっぱり、シャンプーハットを作るべき?」

と、よく分からない事を言いながら。


留学生、外交官達も、一緒になって風呂に入っているし、ハルサ王も湯船で良い気分に。パシフィストの3王子も、ジュヴールの王子達のように、いがみ合ってなどおらず。オランネージュがネクターの背中を、ネクターがニリヤの背中を、並んで仲良く泡泡と洗っている。

子供達が、湯船で、いーち、にーい、と数を数える。


先程、早速呼びかけに応え、転移でやって来た、元々はロテュスの近くでお世話を焼いていた3人。


戦士だったからと、冒険者をやらされ、危険地帯の樹海に送られて、無理難題に応えさせられていたフィラント。


魔法を教えるのは拒絶しても、ならばお前がすれば良いとばかり、あらゆる魔法事にこき使われて、悔しく同胞への呪いをも管理させられていた、魔法使いのファマロー。


宰相だったからと、奴隷のように何でもかんでも投げられて、しかも責任を負わされながら、睡眠も食事も途切れ途切れに命をすり減らし、ジュヴールの王に仕えさせられていた、サジタリアス。


皆、おっかなびっくり、お風呂に入っている。

3人の上半身にあった、呪いの刺青は、竜樹がきちっと拭って、取ってある。


ふう、と息を吐く。

「ここは、天の国か。」


様々な国の者が、分け隔てなく、気持ちの良い熱いお湯に浸かる。

ロテュス王子は、ジュヴールでは決して入らせてもらう事が出来なかった、お風呂というものを。

大変気に入って、ゆるゆると身体を伸ばし、パチャパチャと湯をはねた。


「皆さん、お着替えの用意が出来ましたから、よろしくなられたら、あがって下さいね。」


お助け侍従ズが、ハルサ王様のものから外交官留学生、エルフ達の分まで。急いで用意した、ゆったりの湯上がり着、じんべいと、乾いた新しいタオルを持って、準備万端にスタンバイ。

ハルサ王様が、ザバァと湯船から上がって。


「エルフのロテュス王子殿下、お仕えの3人、それから救助要請に応えた他国の代表の皆さん!これから、エルフ達5246人の受け入れの準備、対応となる!どうか皆で協力して、大事を乗り越えよう!風呂から上がったら、人の死なない戦場であるぞ!」

「「はい!!」」

「やってみせましょう!」


皆それぞれ、スタスタと脱衣所に向かう。タオルに顔を埋め、パッと首にかけ、パン!と頬を叩いて、気合いを入れるハルサ王である。

「竜樹殿!」

王様が声をかけてくれたから、竜樹だって朗らかに応える。


「はい!俺も、お手伝いしますよ!えーと、俺のいた元の国では、自然災害もあったから、そんな時は体育館に民たちを避難させたりしたんですよね!今回のエルフ達も、体育館に誘導したらどうでしょうか。広いし、トイレもあるし、飲み水や、顔や身体を拭く用として水道もあるし、空調もあるから、暑さにも対応できるし、不安を軽減するには情報が大事だけど、そこはテレビも見られるし。」

頼もしい!と皆が瞳をキランとさせる。

うむうむ、ハルサ王も、頭を拭きながら頷く。

「それは良い!一旦、王宮の庭に集まったエルフ達は、一角馬の馬車で順に体育館に連れて行こう!知らぬ者が迎えたら、不安に思うであろうから、ロテュス王子殿下、お仕えの3人とも、エルフ達に説明を頼みますぞ!」

「はい!」「「「はい!!」」」


「体育館に受け入れ準備の連絡をして参ります!」

侍従ズの一人が早足で行く。走ったらダメ。時間の制約はあるけれど、焦っては、何事も上手くいかないのだと、侍従ズも分かっているのだ。


ロテュス王子は、じんべえ一式に着替える。

「もし叶うならば、エルフの皆も、お風呂に入らせてやりたい!無理なら、諦めるけれど、たつきに、呪いを解いてもらわなければならないし•••。」


ふむ、と竜樹は腰タオルのまま。

「プール、使えますかね?設定温度を熱くして、水位を座ってくつろげるように低くし、洗う所はプールの槽の周りの床が水捌け、流れもするようにしてあるし。男湯が大人プール、女湯が子供プール、赤ちゃんや小さい子供が、赤ちゃんプールを使っても。皆が体育館に集まって、落ち着いてからが良いでしょうね。安心しないと、服なんて脱げませんから。」

「設定温度の変更、可能ですよ。私が使用許可貰いと、温度と水位の変更に向かいましょう。」

バーニー君も、ささっと着替えてプールに向かう。


そこで、チリ魔法院長が真面目な顔で。

「ろ、ロテュス王子殿下、エルフ達にご飯を食べさせねばなりません。今日だけでなく、皆が落ち着いて、次の事が考えられるようになるまで、多分、結構長い期間。夏とはいえ、布団も必要です。この国だけでなく、協力してくれる国々からも、必要物資を、急ぎ募りたいです。」

「うむ。そうだな!その為には。」

キュピン!と瞳が輝くのは、ハルサ王だけではない。

何だかドサクサではある、あるが、本当に今あれば、超便利!


「は、話し合おう、協力を願おうとしていた事でもあります!余裕がある場所、国の地方から食材等を運べる、そしてそれを国を跨いで可能にする、転移魔法陣を、急ぎ作る訳にはいきませんか!」

「私からも、お願いする!」

私たちからも、私達の国からも!

外交官、留学生達も、続いて願う。


きょん、と驚き、ロテュス王子はもう少し詳しく説明を、と、寮の庭へ向かいつつ皆に頼む。

ハルサ王とチリ魔法院長が、交互に説明する。

ルート神の名前を用いた、国の物流、循環を良くする為の。悪意に利用されない、国の道を途絶えさせず、正しい規制を盛り込んだ転移魔法陣の話をする。


「無論、エルフ達の受け入れに間に合うよう、最初は要所のみでかまわない。最低限の守りごとだけ乗せて、試験運用として。いかがであろうか、他国と、不足なもの、供出できる物などをその都度、相談しながら、必要なものだけを効果的に集め、配布したいのだ。」


ロテュス王子は、少し考えると、コックリ頷き、応えた。

「転移魔法陣の協力、是非、致しましょう。ファマロー、魔法陣の相談にのれるかい?」

「勿論。私はエルフの魔法使い、同胞を助ける為の魔法であれば、何でも聞いて下さい!」

どん!と胸を叩くファマローである。


「ま、魔法に長けたエルフに教えを請えるなど、光栄です!私はパシフィストの魔法院長、チリと申します!よ、よろしくお願いします!」

と手を差し出して、2人はグッと握手してぎゅ、ぎゅ、組んだまま拳を熱く揺らした。


「エルフからの救助要請の経緯を、テレビで放送して、民にも、テレビを配布した国々のトップにも、知らしめたいです!ロテュス王子の刺青、解けた呪いを、ミランが撮影していましたから、整理して夕方の番組に。」

「テレビ?」

ロテュス王子は、まだテレビを観た事がないのだ。ないのだが、竜樹が言うように、秘密じゃなく、知らしめるのは良い事だと思えた。

「そのテレビとやらで、情報が公になるなら、お願いします。」

「ロテュス王子殿下の裸は、ちゃんと刺青があるな、と分からせながらも、モザイクで隠しますからね。」


刺青は、絵として発表してしまうと、模倣したい悪人に覚えられても困りますから、ぼかしましょう。


皆、キリリ、と引き締まった表情で、寮の、先程まで泥合戦をやっていた庭に出た。女性達も、湯上がりで浴衣姿で合流、ちょっと、いかに紳士達でも、ほわ、となるのは仕方ない。

それも良いじゃないか、リラックスして、真剣に。

用意されたサンダルをつっかけて。


「それぞれに配られたテレビ電話で自国に報告の後、テレビ電話を持って王宮の一室に集まりましょう!どんな物がどれだけ集まって流せるか、自国に確認し、皆で調整してすり合わせる基地が必要です!」

ヴェリテ国外交官のフレが物流センターの司令塔を立てる案を。


「なら、私たちは、エルフ達から、どんな物を必要としているか、聞き取って基地にあげる係をやりますわ!」

フレの妹ナナン王女達、外交官がいて自国と連絡を任せられる者がいる、留学生が立候補する。


ハルサ王様が女性達にも、湯上がりの脱衣所で話してきた情報を説明する。

「それで、エルフは体育館に移動させる事になった!聞き取り係達用にもテレビ電話を持たせるから、連絡は密に!迅速に頼む!」

「「はい!」」


「ご飯を作る料理人を集めましょう。大人数の調理には、経験とコツが必要です!ゼゼル料理長に連絡を?」

竜樹が言えば、はい!と、お助け侍従ズがまた一人、早足で行った。


「私と王妃は、緊急テレビ電話会議でこれから貴族達への説明だ!国費の融通もあるし、選んだ商人とも折衝せねばならん。」

ハルサ王様と王妃様は、連れ立って、急いで王宮へ。


きっとエルフ達も、準備もあるから、お風呂に入る時間くらいはあるだろう。ロテュス王子が言った通りに、庭にはまだエルフの避難民はいない。

それに、ロテュス王子が、共感覚の魔法を発動しているから、さっきまで、お風呂に入っていたのも、皆、知ってるはず。


庭で、すーふ、ロテュス王子が息を吸って吐き、落ち着いた所で。


キラキラし出した、そこかしこ。


まず現れたのは、子供のエルフ。

「ロテュス殿下!」

「ろ、ロテュス様ぁ!」

「森に大人が一人もいなくなっちゃって、すごく、すごく、不安だったよう!」

「うぇええええん!!!」

粗末な服を着たエルフの子供達は、マルミット国の森のエルフだった。

ウンウン、よしよし。ロテュス王子は、小さな手で胸で、受け止める。

「私が捕まってしまったから、皆には辛い目に遭わせてしまったな。すまない、本当にすまない!」


5000人からのエルフの受け入れは、こうして始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ