ミランは反省する
ミランは、竜樹とニリヤが脱いだ服を回収し、まじまじと自分の手にかかる小さな布を見詰めた。夕飯の前に、二人は風呂に入っているのである。
きゃわきゃわ、と笑うニリヤの声が、仕切りの布越しに聞こえてくる。
二人はまるで最初から一緒にいたかのように、仲良すぎでもなく遠慮がちでもなく、自然に近く一緒にいる。
籠に服を入れ、後から取りに来るものとして部屋の隅に置く。ミランは決して竜樹とニリヤの部屋でソファに座ったりはしないが、ゆったりと背を預けてソファでくつろぐマルサの横のスツールに、促されて座った。
「マルサ様。•••私は、ニリヤ様を、見下していたのでしょうかね。」
「そうかもしれないな。俺も、自分で、仕方ないと思っていたんだなぁ。」
ニリヤ様は、平民出の王子だから、いじめられても自分達には助けられない。
命じられてもいない侍従が、王に奏上するのは、禁じられているが、身を賭して、しようとすればできた。でも誰もしようとしなかった。
最初は憤慨して、助けようと食べ物をあげたり、身の回りを整えてあげて。
第二側妃の侍女などによって告げ口され、段々と解雇された者は何名かいた。それによって隠れて何とかしようと、そしてそれを暴こうとし合い、膠着状態になっていた。
王妃様に泥をかぶってもらってでも、外部貴族に助けを求める事もできた。
ただ、厨房にすぐニリヤ様が出入りするようになって、ひとまず命は大丈夫かと、ボロボロのニリヤ様を見ないようにしていたのかもしれない。
誰か、助けてくれないか。
何か、解決策を持っている人が。
自分以外でいないものか。
「竜樹様に、側妃様をとっちめてくれないのかなどと、勝手な願望を押し付けてしまいました。私にだって、何か出来ることがあったかもしれない。ニリヤ様が貶められるなど、許してはいけない事です。それをお守りし、つつがなく生活できるようお助けするのが、お仕えする者の責務です。それなのに•••。」
ミランは、自分の中のずるい気持ちを知った。
自分は今まで通りの所にいて、都合良く溜飲を下げたかった。
「自分以外の人に頼っていいじゃない。」
「竜樹様•••。」
ニリヤの髪をかしかし拭いて、二人はほかほかになって戻ってきた。
「反省してるの、ミラン?」
「はい•••。」
もっと出来る事があったのではないかと。
そうしたらニリヤ様が辛い思いをしなかったのではないかと。
「弱ってる時って、つけ込まれやすいから、頼る人は冷静に選ばないとだけど、そもそも縦も横もつながりが足りないと思うよ。侍従長とかいる?」
「います。」
少なくともその人は、事態を把握して報告の責任があったね。報告したとして、王様直にじゃなくても、その下の宰相さんとか、確実に対応できる人達で結束して、何とかすべきでした。
「人達?」
「一人でやんなくたっていいんだよ。」
奥向きの事は、側妃様か王妃様任せ。
失敗したら、咎めるけど、失敗しないために助ける事はしない。
「そりゃないってもんでしょ。困ったら職務の境を越えたって、助け合えばいいでしょ。もっと柔軟でいいよ。王族が揉めたら国が面倒くさい事になる訳だから。」
何でみんなで、ニリヤを放っておいたのか。
それは、そうなっても仕方ない、ってみんなの中に差別の気持ちがあるからだよね。
「それを何とかしようと思ってるんだ。」
「どうやって?」
「どうやってですか?」
「それには、二人の協力が必要です。」
むふ、と竜樹が笑ったので、ニリヤが、む?と覗き込んだ。
「テレビを作ろうと思います。ミランはカメラマン、マルサは、やっぱり保守護衛かな。」
二人には、『初めて子供がお使いをするのを密着する番組』やら、ドキュメンタリー番組を観て勉強してもらおうと思います。