15日 泥合戦
泥だらけの午前中を過ごした、竜樹達パシフィスト勢と、他国の外交官や留学生達。
エルフの代表と、ジュヴールの国王代理の宰相が、午後のいつ来るか。相手が明確にしていなかったので、皆、早め行動で集まってくれた。
こんな細かい所も曖昧で、受け入れる側に対して傲慢な、来訪予定者達である。
まあ、そのおかげで、泥団子は順調にたくさん作れた。
ハルサ王様も、マルグリット王妃様も、簡素な格好で子供達に混じって。泥まみれになりながら、さながら手でコンクリを混ぜる職人さんのように、夫婦で協力して、丁度良い塩梅の水分の泥を、タライの中に量産していた。
泥団子になる前の、ふるった異物のない土は、ふみ、ふみ、とオーブが念入りに踏んで、何故か足跡をつけて回っていたもの。時々ピカリ!としたのは、何故だろう。浄化でも、してくれていたのだろうか。
たまに、できた泥団子にも足型を、べし、べし、と押している。丁寧な仕事です。
泥だらけのまま、お昼となって、どうすんべ、と泥色の手や顔を持て余して、途方にくれていた皆は。
良い顔で笑って髪まで泥まみれになったチリ魔法院長の、指先からドババと出るぬるま湯を使って、ひとまず手と顔だけは綺麗にしていく。
バーニー君も、すぐ側で。シュパパー、とシャワー形に湯を魔法で出している。強弱どちらもございます、お好みでお選び下さい。
手と顔を洗う順番待ちの間、何となく楽しい泥遊びで気が抜けた面々は、ゆっくり和気藹々とお話し。
「フレ様。ナナン様。ご存知でしょうが、私の国、マルミット王国は、森のエルフがいる国です。森のエルフ達は、凄く臆病で、こちら側に熱意があっても、あまりお話もしてくれません。そもそも、お使いに、子供のエルフしか出して来ないんです。それでもこの強引な会談の立ち合いで、エルフと関わり合いがある国として、私が前に出なければ!と意気込んでいたのですけど。」
留学生の、マルミット国アルモニカ第二王女は、不思議そうな、躊躇いを、その素朴な山鳩色の瞳に浮かべ。
「これ、本当に必要な準備なのでしょうか?」
いえ、ギフトの御方、竜樹様を疑う訳ではないのですけど•••。
真面目な人柄のアルモニカ王女には、訳が分からない事が、受け止めにくいらしい。
「フレ様、どう思われます?」
うーん、とフレは首を傾げて。
「竜樹様に聞いてみましょうか。」
「•••えっ。聞いてしまったら、気を悪くされないかしら?」
「竜樹様なら、ちゃんとお話し聞いて下さると思うわ。」
ナナンも、洗った手をタオルで拭きつつ、笑って。
お昼ご飯は外で皆で。服はまだ泥だらけ、用意したご飯は、サンドイッチや唐揚げ、おにぎり。切ったフルーツ、果実水。
ワイワイと食べる中、竜樹は、戸惑う他国の代表みたいになったフレに問いかけられ。「ごめんごめん話さなくて、何でか分からないと、やりにくいよね。」と神の鳥オーブとのやり取りを話した。
「そういう事なら、泥合戦、本気で挑みます!」
アルモニカ王女も、他国の皆も、何となく納得がいって午後、充分に準備は出来た。
不意に、しゅ、キラキラキラキラ、と光が溢れて、寮の庭に現れたのは。
「あー、見た目では宰相が虐げ側で、エルフが虐げられ側だね。」
竜樹が呟けば。
「ですねぇ。」
チリがニハッと笑う。
苦みばしった顔の、黒髪に一筋グレー混じり、仕立ての良い、バサリとしたモスグリーンに金箔の上着を着た、40代くらいの宰相と。
尖った耳をもち、麗しい若葉の緑の髪をした。ヒラヒラの上等で繊細なレースのブラウスがよく似合う、少女とも少年とも見える、お人形の白磁の肌、桃色の頬につやつや唇、少し伏せられた憂いを帯びたエメラルドの瞳の、幼いエルフ。
手を繋いだ2人が、集まった泥んこ達の中心に。
竜樹のエメラルドの留め具は、泥んこの服の胸にも輝いていたから、宰相がニヤリと笑って、竜樹に話しかけようと。
一歩、前に。
竜樹が雄叫びをあげる!
「•••泥合戦の、始まりだ!!!」
「「「おー!!!!」」」
ベシャン!どろり、ボテ。
エルフの、とても上等な、華麗なブラウスに、べったりと泥が。
投げたジェムが、ニヤリと鼻の下を泥の指で擦る。
中性的な幼いエルフは、長いまつ毛をハタハタさせ、瞳をいっぱいに見張って。服についた泥を指で掬って、スン、と匂いを嗅いだ。
ふわっ、と本当に嬉しそうな笑顔になったのは、何故だろうか。
たたた!
ニリヤが、エルフに近付いて、ぎゅ、と手を握り、庭の片方側に引っ張って連れて行く。
「エルフとーった!」
子供達、3王子、ハルサ王様にマルグリット王妃、チリにバーニー君。そして竜樹の、パシフィスト国組がエルフを囲んで。
「エルフ取られた!じゃあ私達は、宰相とーった!」
フレが宰相の腕を取り引っ張る。
「は、はぁぁぁ!?一体、何を?」
宰相が暴れるが、フレがニヤリと絡みついて。
「泥合戦ですよ、ジュヴールの宰相様。あなたはこっち、他国組陣地!」
「だから何で、泥合戦•••!」
バシリ!べた、ぼと。
宰相の顔に、まん真ん中に、泥団子。喋ってて口開いてるのに。
ぺっ、ぺっ、としている所を。
ニヤリと良い顔をしたエルフが、ぶん投げた体勢、次の泥団子もロシェに渡されて、振りかぶって。
グジャ、ボテリン。
宰相の胸の真ん中に。
コントロールの良いエルフである。
「•••き、貴様•••たかがエルフの分際で、私によくも•••!」
ハイ、と羽交締めにしているフレの後ろから、宰相の手近くに、ナナンとアルモニカが、笑顔で泥団子を差し出す。
激昂して、どんな事になっているか振り返りもせず、手渡された泥団子を、はっしと掴んで、宰相は投げた。
ビシャ、ボテ。
グジャ、ドロ。
「宰相ねらえー!!泥団子よこせー!!」
「何故私が、こんな、泥合戦をををを!!!!もっと泥団子よこせ!」
ビシャシャ、バチン!
キャハハハ!
子供達の笑い声。
大人達のヒャーッという叫び。
ベチャベチャなのに楽しい。
皆、我を忘れて泥団子を投げ合った。
用意した泥団子がなくなり、ほぼ皆が全身泥まみれになった頃。
ココケケコココ!コケーッ!
「皆〜!おやつの時間ですよ!泥遊びも、ほどほどにしなさ〜い!!」
オーブと、腰に手を当てた、しょうがないわね、って感じのラフィネ母さんが呼びに来て、はーい!と皆良いお返事で。




