表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/692

12日夕刻、アルディ王子2

熊耳少年ルトランは、最後踊りをキメた時、ヒェッ、と息を大きく吸って止めた、止めてしまった。


コリーヌ嬢と、アルディ王子が、ツルルッと舞台を滑って、落ちたのだ。

コリーヌ嬢の車椅子が壊れてーーーきっと、乗って前に動かす以上の動き、踊りのターンや跳ねたりなどが、予想以上の負荷をかけたからだ、とルトランは落ちていく一瞬を目で追いかけながら思った。

サーッと血の気が下がる。


ファング王太子も、

「アルディ!コリーヌ嬢!」

と焦って叫んで、キメポーズを崩し、とと、と足を舞台の前の方に。そして、ギョッと止めて。


ルトランの目に、じわりと涙が浮かぶ。身体が驚き硬直して、動けない。


だから!だから、コリーヌ嬢は踊りをやめておけば、良かったんだ!


涙で舞台が霞む。

よた、よた、と子供達が舞台を、落ちた2人の居た場所へと、集まり。



最初に見えたのは、漆黒の尻尾と、白くて内側が桃色の、ピンと立った耳だった。

それが、じわ、じわ、と落ちた舞台の、見きれた所から、上へ、上へ。

アルディ王子の、ひこひこ動く黒いお耳、ピピンと立った尻尾、コリーヌ嬢のシャツブラウスがちょっとめくれて、バルーンパンツに白い兎尻尾のついた、お尻が見えてくる。

2人は手を繋いで横たわったまま、ふわり、ふうわりと、浮かんできた。


あっ と驚く観客達は、舞台に視線、釘付けだ。


アルディ王子とコリーヌ嬢の、腹側の下には、無数の魂達が。

キラキラ、光って。落ちた2人を受け止めて、ふわふわと、再び舞台まで、押し上げて。

ゆら、ゆら。ふわ、ふわ。

すう〜、とん。

ゆっくりと持ち上げて、舞台の上に2人を下ろすと、魂達は、ふわっと散じて、それぞれ縁ある人の所へ、その胸に皆がつけた、目印の鬼灯の元へと、戻った。


ブレイブ王も、ラーヴ王妃も、皆も。ドキドキする胸に、ホッと息を吐く。

舞台に下りた2人は、キョロ、と目を見張っていたが、やがて手を繋いだまま。アルディ王子は立ち上がり、コリーヌ嬢はぺたんと座って、皆に、魂達に。ペコリ、とお辞儀をした。


ドッ ワワッ!!!


歓声が夜空を轟かす。

子供達も皆、駆け寄って、落ちて浮いてきた2人を囲み、良かった、キレイだった、魂達が助けてくれるなんて!びっくりしたけど、大成功だね!と興奮して騒いで。


ルトランは、その場で、感情が振り切れて、ワッ、と泣いた。


助かった。

良かった。

2人が仲良しみたいに光って上がってきて、なんか胸が苦しい。

これで主役は2人みたいに。

きっと助けたアルディ王子を、コリーヌ嬢も。

好きになっちゃうと思う。

ルトランなんか、コリーヌ嬢のやりたい事を邪魔してばっかりで。

結局、踊りは、アルディ王子のお陰で上手くいって。

きっとコリーヌ嬢は、アルディ王子が好きになってる。

助かって良かった。

怪我がなくて、良かった。

でもでも。


「ふ、ふ、ふ、ふえぇぇぇ!」


泣き出したルトランに、周りの子供達が、笑顔で背中をトントンする。摩ってくれる。

驚いたよね、良かったよ、大丈夫だよ。皆、口々に。


違う、違うのだ。

ルトランは、こんな時にも、自分の気持ちが大事で、溢れて、コリーヌ嬢が好きで、好きで。そんな自分が、自分勝手な心が、情けなくて。


アルディ王子が、ヨイショと、自分の身長より少ししか小さくないコリーヌ嬢を、縦抱っこして、ひんひんと泣くルトランに、近づいてくる。


「ルトラン、泣かなくて大丈夫だよ。魂達が、助けてくれたから。」

「大丈夫よ、ルトラン。そんなに心配しないで。」


優しく言ってくれる2人は、どう見てもお似合いで。


「ふえ、ふえぇぇ!違う、ちがっ、ひくっ!コ、コリーヌ嬢、が、アルディ王子を、す、好きに、なっちゃ!わ、私、コリーヌ嬢が、す、すきなのに!」


ええ!?


目を見張る2人は、顔を見合わせて、そしてまたルトランを見た。熊耳がしょんぼりと折れて、号泣するルトランは、必死に言い募る。

「わ、私、結局、コ、コリーヌ嬢に、意地悪しかできなかっ、かった!」


「何で、コリーヌ嬢に、意地悪なんかしたの?好きなのでしょ?」

アルディ王子が、不思議そうに問いかける。


「コ、コリーヌ嬢が、お、踊れなくて、皆に、色々な事を言われちゃうの、み、見たくなくて、ま、守りたくて、だから、やめたら、苦しまなくても、すむって、お、思って。」

ぐす、ぐす。


「だから、ルトランが、やめたらってばっかり言ってたのか。」

アルディ王子と、ファング王太子も、ため息、驚くばかりである。

人を好きになる、って、とっても、難しい気持ちになるんだね!


す〜、ふ〜。

コリーヌ嬢は、アルディ王子に抱き上げられたまま、湧き上がる怒りの気持ちと、少し恥ずかしい照れる気持ちとを、持て余して息を吐いた。

「•••それで、やめたら、やめたら、って、言っていたのね。あのねぇ、ルトラン。」

びくり、とルトランは肩を揺らす。

怒りを堪えた声に、慄いて。


「私がやりたくてやってる事を、辛そうだから、って潰していったら、私は何も出来なくなるでしょ!それって、苦しい所を見たくない、っていう、ルトランの気持ち優先じゃない!好きなら、私を、応援してよ!」

「ご、ごめんなさ、ごめんなさい、ひっく。」

ルトランは項垂れて、目を擦るばかりである。


「でも、意地悪な気持ちで、やめろって言ったんじゃない、って分かって、良かったわ。」

ふー、と息を吐き、コリーヌ嬢は、微笑む。

「ちょっと、落ち込んでいたのよ。嫌われるのって、気持ちを削るとこあるから。」

「い、意地悪、なんて、したくなかった。嫌いじゃない。わ、私も、く、苦しかった。」

グシャグシャに泣いて。


はい、とコリーヌ嬢は両方の手を差し伸べる。

? ルトランは分からなくて、涙をコロリと零す。


「アルディ殿下だと、私と同じくらいの背だから、運ぶの大変よ。ルトランが、舞台を降りるの、手伝ってよ。」

ちょっと恥ずかしそうに、でも、手はそのままに。

「え、あ、う、うん。」

縦抱っこで、アルディ王子は、ルトランにコリーヌ嬢を託した。ルトランは、照れて、鬼灯みたいに真っ赤になる。


何だか仲良くできそうで、良いじゃない!とアルディ王子は、ニッコリ笑って、尻尾をぶんぶんした。

そして、身軽になった所で、再び、舞台の上から、皆に向き直り、ゆったりとお辞儀をした。


それを見たファング王太子も、そして踊り手の皆も、そしてルトランとコリーヌ嬢も、ペコリ、お辞儀をして。

わああっと、拍手が沸き起こった。


「アルディは、とんだ当て馬だな。」

くふふ、と笑いを堪えて、ブレイブ王は、魂達を受け止めつつ。

「本人は、何とも思っていないようだけれど。ふふふ、まだまだ、恋愛の好きも嫌いも、始まったばかりの子供なんだね。」

後ろで、ラーヴ王妃も、目尻に涙を浮かべながら、笑いを堪えている。何とも可愛い子供達である。そして、魂のお迎えの踊りは、大成功である!


コリーヌ嬢の父だけが、ムン!と何となく、娘の踊りが無事にでき、そして危機にひやっとし、助かってホッとして、そうしてルトランに抱っこされた面白くない気持ち、をごちゃごちゃに複雑にお口を尖らせていた。

まだまだ早い!恋愛は!の父ゴコロである。



「さあ!皆!魂達を、家へお迎えしよう!」


ブレイブ王の一声。王が、沢山の魂を引き連れて、王宮までゆるりゆるりと歩く。護衛が付いて、そこにも魂がふわり。

それぞれ、皆に、縁ある魂達が寄り添い、道の端で鬼灯を胸に、王と王妃を見送る人々も、光の渦に手を振って、そして家に帰っていく。


アルディ王子にも、ファング王太子にも、そして踊り手の子供達にも、魂は付いて。

皆ニコニコと、ワイルドウルフのおぼんが、無事に始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ