表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/683

大人の関係

良く偉いひとほど後に登場するというが、この世界では違うのだろうか。

色とりどりな花に囲まれた庭園の中ほど、テーブル席には既に王様一家が座って待っていた。

それともギフトの御方が一番偉いって事じゃないよね。そうだとしたら畏れ多すぎる。


「良く来てくださった、竜樹殿。ニリヤも•••良く、な。」

軽く目礼し、そして何か含んだ調子で、ニリヤにも声をかける。それはここ最近のニリヤについて報告を受けたからか。


「お誘いくださり、ありがとうございます。」

「ありがとう、ございます。ちちうえ。」


促されて座る。銘々の前に、大きな皿にちょこんと二つ焼き菓子と、生クリームと果物を散らしたスポンジケーキが供された。


「すぽんじけーきとは、美味しいものだな。」

王が言い、


「本当ですわね。」

王妃が緊張した顔で頷く。

第二側妃は何も言わずに、お上品に食している。

王子たちは、うまうま食べているが、子供は大人を良く見てるので、何か感じている事もあるかもしれない。


しばらく他愛もない庭園の花の話などをしていたが、お菓子を食べ終え、頃合いとみたか、王が話を切り替えてきた。


「竜樹殿。」

「はい。何でしょう。」


「我が息子、ニリヤを保護して下さって、本当に感謝している。聞けば仕える者もおらず、一人きりで放っておかれ、毎日の食事にも不自由していたと。」

「それなんですけど、何で王様が知らないでいたのかなあと、思うんですよね。そんなに会わないものですか?息子と。」


会わなかった。そしてそれを気にはしていたが、忙しさに紛れてそのままにしてしまったのだという。


「元々、食事の時間が合わなくて、週に一度しか家族と晩餐を共にしていないのだ。個々の者と一緒になる事はあるが、ニリヤは母が、リュビが、儚くなったこともあって•••。」

ぎゅっ、と唇を噛んだ。


「母と過ごした部屋から出たがらない、と聞いていた。言い訳になるが、そっとしておくべきだと、周りからも言われ•••晩餐に出てこないのを、無理に呼ぼうとは思わなんだ。私も気落ちしていて•••だが、それを言ったものは、良く考えれば。」第二側妃をじろっと睨む。


「ある者の息がかかった者達だったという訳だ。私は親として、王としても、恥ずかしく思う。•••ニリヤも、辛い思いをさせて、すまなかった。」

王の謝罪に、ニリヤは、飲んでいたお茶をコトリと置くと。


「とうさまは、おしごとが、いそがしいから、いっぱいあえなくても、しかたない。ってかあさまがいってました。ぼくは、おなかがすいたけど、おてつだいしたら、まかないがもらえたから、だいじょうぶ。しんぱいかけたら、いけないねって、かあさまが。」


「そうか。」

だが、父親なのだから、心配はかけても良いのだぞ。

情けない顔をして、両手でそれを隠してしまった。


ガタン!椅子が倒れると、王妃が立ち上がり、ニリヤの元に跪いた。

「私、私が至らなかったのです!ごめんなさい、ごめんなさいねニリヤ!•••リュビに、何と詫びればいいか•••。」

真剣な様子で、ニリヤの手を取ると、ぎゅっとにぎった。



「そんなに大騒ぎする程のことかしら?」



優雅にお茶を飲みながら、一息入れて、第二側妃は、何という事もなく言った。

「平民出の王子など、何の仕事をするかもわからないし、下々の者の食事事情も体験してみる必要があるのじゃなくて?飢えとか、貧困とか、平民らしいじゃない。」


あーこの人、ほんとに何とも思ってないんだなあ、と竜樹は感じた。

こういう話が通じない人と、まともに話しちゃいけないんだよなあ。

王と王妃は、ぐっと堪えると、第二側妃に向き直る。

喧嘩かな。と思ったら、竜樹はつい、口が滑った。


「そうなんですよね。ニリヤ王子は、平民出の王子ですから、色々体験するべきですよね。」


「何を。」王妃が驚き、竜樹に信じられないと目を剥いた。


「だから、このギフトたる私、竜樹が師匠となって、ニリヤ王子の面倒は一切みます。私も平民出ですからね。それにしても小さな子供に食事制限とは、あまり良くないですね。第二側妃様も、王子を餓死させた悪妃であった、なんて歴史書にずっと残りたくはないでしょう。」


「歴史書に?」

ふ、と眉を寄せて、不愉快そうに。


「残りますね。何をやったか。何を言ったか。克明に。そういう部署ありますよね。」

「あるな。」

「あるわ。」


「そんなこと、書かなければいいわ。私は良かれと思ってやっただけのこと。それで死んだら、その平民出の子が生き抜く力が弱かったのではなくて?」

どこのライオンだよ。自分の子でもないのに、上がってこれない崖に突き落とすな。


「出会いも運ですから。それに、どうやっても王子が死ねば死因は書かれますよ。分かりやすいですよね、奥向きの事をしてる第二側妃様が指示したって。」


「•••面白くないわ。」


元から面白くない話をしているのである。

「奥向きで何かあれば、第二側妃様のせい。そういう事になりますね。絶対バッチリ書かれちゃいますね。今書かなくても後からでも推測できちゃいますしね。•••それを防ぎたければ、ホウレンソウです。」

「ホウレンソウ?」


報告、連絡、相談です。

「王妃様に報告、連絡、相談する事です。あ、人事権なんかも、両者が許可しなければいけない風にしとくと良いかも。お仕事って、すればするほど責任持たされちゃうんですよね。高貴なる方は、こう、あくせくせずとも、優雅にお茶でも飲んで、愛でられるのがお仕事だと思うんデスヨネ〜。それって花って事デスヨネ〜。何もしなくても、存在が良い。王妃様は流石に王様の補佐がありますけど、何で高貴なる側妃様が、めんどくさい奥向きの事をしなければならないんデスカネ〜。ねっ王様!」

「あ、ああ。そうだな。」


王妃は俯いて肩を揺らしている。笑っちゃダメよ。

そして王様、いけ!

私!?と王様が慄くが、ハーレムを築く男の、責任というものがあるのです。


「•••私も、キャナリには優雅に茶会でもして、いつも愛でられる可愛らしい女性でいて欲しいと•••いつも、オモッテイルヨ。竜樹殿の言葉もいただけたし、忙しくて責任のある仕事など王妃に任せて、可憐な君は、悠然と私を待っていてはくれないか?」


「まあ!まあ!本当ですか!?」

頬を上気させ、喜ぶキャナリ側妃。

そう、褒めが足りなかったんだよ。こういう人には。


「ああ。そうそう、風が出てきた。か弱いキャナリに、この風は毒ではないのかな。遠慮せず部屋に戻るといい。まだ仕事の話があるから、私と竜樹殿は少し残るが、皆は部屋に帰りなさい。」

「ニリヤは俺と一緒な。」


失礼致しますわ。

王妃は帰りながら、振り返ってニコッと笑っていった。


皆がいなくなると、

「竜樹殿〜〜〜。」

「まあまあそんな恨めしい顔しないで、王様。ハーレム管理は夫の仕事だから、仕方ないでしょう。」

「•••私は今度こそ側妃にハッキリと言ってやらねばと思っていたよ。」


ふう、ため息ついて王様がずるっと椅子の背に寄りかかる。新しく暖かいお茶を侍従が持ってきて、そっと話の聞こえない所まで下がった。

「多分、側妃様って良いところのお嬢様だったんですよね?下々の事なんて微塵も知らない的な。そして嫁にいけば愛してもらえて、褒め褒めしてもらえると思ってそうな箱入りの。」


「確かにそうかもしれない。」


「多分ああいう人と、まともに話ってしちゃいけないんですよ。想像力がないんだから。どんなにお腹空いたか、1人で辛かったか、分からない。雲に乗ってふわふわ暮らしてるようなもんですよ。だから、雲から落ちそうになると腹がたつんです。」

何で私が!って。


「敵にしちゃうと、本当めんどくさい。ほどほどに持ち上げて、なんだかんださらりとかわして、気持ちよくさせとけば良いです。」

ただ、それだと本当に親身になって接してくれる人が何人いるか、って話になってくるけど、誰でも100%で相手に向き合ってる訳じゃないから、大人の関係だからー。竜樹は職場でのアレコレを思い出す。うん。仕事が回りさえすれば、そんな仲良くなくても良いのだよ。悪すぎても困るけど。


「ニリヤも死ぬ話なんてしちゃってごめんな。ニリヤは死なせないからな。」

王様と竜樹の間に座っているニリヤは、コックリ頷く。

「ししょうは、でしを、みすてない。」

「うん、そうだな。」


「私も見捨ててないからな。」

ニリヤの頭は、両側から撫でられた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ