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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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12日夕刻、プレイヤードとアルタイル、そしてトレフル


プレイヤードがお披露目広場の、魂迎えに行ったからって。

何も見えないじゃない。


などと言う人は、もういない。

いちいち全ての行動に、釘を刺されない、その事が、どれだけ心が自由で、快く、嬉しいか。


だから、とてもスムーズに。

ルフレ公爵家の面々、父アルタイル、妹フィーユ、そして祖父サジテール、祖母シームと共に、プレイヤードは、さあ行こうとワクワクと。

片手を父アルタイルと繋いで、もう片方は白杖を持ち。


妹フィーユは、祖母シームと手を繋いで。初めて付けたばかりの、骨伝導補聴器の魔道具をしているから、急に人混みの中に行って、大丈夫かな?と皆で注意して見ているが、きょろきょろとお披露目広場を見回して、興奮している。あまりに興奮が続くようなら、疲れてしまうだろうから、一旦、骨伝導補聴器を外してあげる事も考慮しつつ。


ルフレ公爵家は、貴族の中でも高位貴族だから、迎え火用の組まれた薪の割と近く、貴族達の中でも最も前に並ぶ事になった。その分、早く来たので、プレイヤードもフィーユも、人波の真っ只中を、掻き分けて歩く、という事はなかったのも良かった。待ち時間が長かったが、皆で話をしたり、父アルタイルは他の貴族と挨拶をしたり、のんびりと。


その内に、スッ、と静まるお披露目広場。


夕方の気配、暗くなってきたのが、プレイヤードにも分かる。光は感じられるから、だけではなく、昼と夜とでは、肌に感じる熱、空気、気配、粒立つそれら全てが違う。

空に、ぼんやり煌めいているのは、鬼灯なのだろう。


そしてボワッ、と前方に光と熱が生まれ、瞬く間にそれが大きくなった。


「ハルサ王様が、薪に火をつけた所だ。迎え火を焚かれたよ。」

「うん、ここまで熱いのがくるね。」

「フィーユ、迎え火だよ。」

「フィーう、うあえび。」

「む、か、え、び。」

「みゅ、かえ、び。」


「フィーユも、お話できるようになって、本当に良かったわ。」

「ああ、そうだな。私達とも、近しく、これからはできる。」

祖父サジテール、祖母シーム。二人は、父と母の事には口を出さなかった。いつも、プレイヤードと母トレフルがぶつかって、父アルタイルが2人の間に入って宥めていると、黙って、どちらに味方するでもなく、じっとしていた。今は、何となく嬉しそうだ。


「サジテールお祖父様。シームお祖母様。お二人は、母様が出て行った事、どう思われているのですか?」


静かに魂を待つ中で、ひそひそ、とプレイヤードは2人に聞いた。


しぃ、よ。と祖母が微笑んだ声で言う。

「後で、教えてあげる。今は、静かに魂を迎えましょう。」


この声、微笑みつつ。母トレフルが出て行ったのは、祖母にとって悪い事ではなかったのだな。プレイヤードは思って、ふむ、と口を閉じた。




『今こそ開け、冥界の門。』



ザワッ と肌が慄く。ビリビリと、空から、何かの気配が、流れてくる。


ああ!プレイヤードが見えないだなんて、何も感じられないだろうなんて、母の言いそうな事だけれど、そんなのある訳なかった!

こんなにも、ありありと、門が開いた事、そしてそこからの魂の流れが、感じられる!


ほわ、と空を見詰めるプレイヤードを、父アルタイルは、微笑んで、チラッと見た。プレイヤードは、想像よりもずっと、敏感に色々な事を分かっている。

今も、魂達の気配を、身体全体で受け止めている。

魔道具ランプをアルタイルがつけると、魂が3つ、引き寄せられてやってきた。


ご先祖様かな?


プレイヤードが、そっと魂の光に手を近づけて、片手で柔らかく囲うと、その手の中で魂は震えて、ピカピカリ、と懐くように手に寄り添った。


ああ。

誰が、プレイヤードを、見えないじゃないか、と言おうとも。

私は、プレイヤードは分かってる、やりたい事を、やれる!と応援しよう。

今までやってきた事は、間違っていなかった。


不意に、そんなふうに思えて、じわ、と涙が浮かんだ。

フィーユも、魂に、手を伸ばしてくる。

そうだ、フィーユもだ。


人によっては、やりたい事を反対する事で、本当にやりたかったら、それでもやるから、最初の壁、力を反発させて飛ばせる為の。覚悟をもたせる為に。そう考える事もあるだろう。そのやり方が合っている子も、いるかも。

だが、全員が重い荷物を引いて走る、重量級の馬じゃない。


プレイヤードとフィーユは、欠けている所はあるけれど、軽やかに走る、スラリとした馬だ。重い荷物なんか、持たせない。反発で飛ばなくてもいい。飛びたいから、飛びたい時に、ふわっと飛べばいいのだ。


「さあ、魂も来てくれた。家に帰ろう。」

「うん!魂達を、うちの祭壇に、連れて行ってあげないとね!」

「かえ、かえろ。」


プレイヤードの祖父と祖母は、歩きながら、こんな事を、ポツリと言った。


「いつか、こんな風に、咎め立てる声ばかりの中ではなくて、和やかに家族で過ごす事ができたなら。そう思っていたの。私達が、アルタイルやプレイヤードの味方をすれば、諍いはもっと増えると思ったから、そしてアルタイルが諦めずに頑張っていたから、本当に我慢できない事があるまで、アルタイルが我慢できなくなるまで、黙っていよう、って決めていたの。」

「プレイヤードも、フィーユも、なかなか束縛を解いてあげられなくて、悪かったと思っている。これから、伸び伸びと、成長できるように、私達も手助けさせて欲しい。」


あの母トレフルが、1人いないだけで。

家族の皆が、解放感を味わい、そして、まとまった。


「ありがとう、お祖父様、お祖母様。」

「ありが、ちょ。」


父も母も、反発を使って、息子を飛ばすタチではなかったのだな。

アルタイルはそう思った。それはもしかしたら、反発させる親より厳しいのかもしれない。そして、飛ぶ時期も遅く、勢いも、高度も見込めないのかもしれない。

だが、アルタイルも、このやり方でなければ、飛ぶ事が出来ずに、納得もできなかっただろうと思う。

穏やかそうに見えて、ルフレ公爵家の者は結構頑固で、やりたい事を、納得するまで、やり通す性格なのかもしれない。


「父上、母上、黙って見守ってくださった事、感謝致します。なかなか踏ん切れなくて、すみませんでした。」

「いや、それは仕方ない。家族が家族じゃなくなるのだ。悩んで、すぐに出来なくて当然だ。」

「トレフルは、プレイヤードと、フィーユに会わせてくれたのだから、感謝しているわ。ただ、一緒にいると、苦しくなる人だった。それだけよ。」




トレフルは、魂迎えに行かなかった。

実家で、庭にも出ず、窓から空も眺めたりなどしなかったので、急に鐘の音がし、モール神の宣言が聞こえ、慄いて耳を塞いだ。


「何よ、何!?なんなの!こんなの、まともじゃない!!!私はおかしくないわ、私だけは、まともなのよ!」


隠居した父母と、実家を継いでいる兄一家は、あまりトレフルにあれこれ聞かなかった。急に帰ってきた妹に、兄は「しばらくゆっくりすれば。」と言ってくれたが。


兄の息子と娘に、トレフルお得意の、「それは普通じゃない。」を、実家に帰ってすぐに何度かやったら。父母、甥と姪に、何を言ってるのだ、という冷たい目で見られて。

「家の事に口出ししないでくれ。」と兄が咎めてきた。兄嫁は、苦笑していて。


トレフルはもちろん、自分が正しい、と怒ったのだが、兄は冷ややかに。


「もしかしてお前、向こうの家でもそんな風だったのか?さぞかしアルタイル殿は、居心地が悪かったろう。少し落ち着いて、ここでゆっくりしていろよ。自分の事はさておき、周りの事ばかり細かく気になるのは、お前が、自分の事が本当は、できてないからじゃないのか?」

と言った。


「私は、私だけは、普通なの!!」


父母、兄一家は、魂迎えに行ってしまった。

1人、留守番の部屋の中、トレフルは目を閉じ、耳を塞いだ。


今のトレフルは。

プレイヤードより見えず。

フィーユより聞こえないのだ。


「きっと、私を幸せにしてくれる人がいるわ。瑕疵のない、完璧な、そんな人が!」

今度こそ失敗しない。

妥協しない。

諦めない。


人は、ないものねだりをする生き物である。

完璧を他者に求めれば求めるほど、当のトレフルが完璧ではないからなのだ。

という事に、気持ちが落ち着かない本人は、気づいていないのだった。


いや、心の奥底では、気づいているから。

こんなに腹だたしく、惨めで、寂しく、痛んで落ち着かないのかもしれなかった。



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