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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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陽炎の月12日 竜樹3

ぶるるらる。


「あ、失礼。ちょっとスマホを見させてね。」


はーい、と子供達は言いながら、すまほって何?と、ジェム達以外は思いつつ、つるっとした四角い板を取り出した竜樹父さんを眺め、パクリモグモグしていた。


「神々の庭だ。」


竜樹がそう言って、ファヴール教皇がポタリとフォークからナスを落として慄いた。メッセージ画面を開けば。


ふわり。ピカッ!どん!


画面から、どどん!と、神々しくも肉体美な、おじ様が現れる。くしゃくしゃの、耳にかかるほどの黒髪を、かきあげつつ。俯き瞑った瞳が、すーっと上向くと同時に開く。キリッとした、太い眉、どこか甘い瞳の色は濃い赤ワイン色。ふわふわと、纏った衣が、靡いて白ワイン色に光っている。そしてその衣に、とりどりな葡萄の実や蔦が絡まり、たっぷりと鮮やかに揺れる。


『私の名は、エレバージュ。酒の神と人は呼ぶ。』

バラン王兄も甘い声だが、さすがは神。芳醇な、どっしりしたワインを思わせる、男女問わず腰にビビッとくる声だ。


「はい、初めまして、エレバージュ神様。畠中竜樹と申します。」

竜樹は頭を下げて、挨拶をする。手にスマホ、そこからエレバージュ神だから、跪けずに、座ったままだ。


エレバージュ神は一つ頷いて。


『皆もそのまま、食事を続けて良い。竜樹よ、バーとは素敵な所だな。私は何度か人に化身して訪れたが、様々な美しく美味しいカクテル、雰囲気の良い大人の空間、押し付けがましくない女性との会話。じっくりと良い酒を楽しむも良し。大勢で、賑やかに楽しむのとはまた別の良さがある。』


おおお。お酒の神様が、バーに来てくれたよ。

「ありがとうございます。楽しんでいただけたら、幸いです。」


うむ。とエレバージュ神は頷いて。

『私は酒の神だが、酒と、酒に纏わる全てのものを愛している。文学あり、絵画あり、音楽あり。喜びの酒あり、悲しみの酒もあり。酒に合う肴、料理あり。私だけでなく、神は酒が好きでもある。命の水、お供えというやつが、なかなか楽しみでのう。酒を中心とした文化は、かわいい人の子の産む、素晴らしい文化だ。そうだろう?ーーーその、サンジャック、の父親のような事も、ある訳だが。』

ちょっと気まずいような顔をするエレバージュ神の後光が、すう、と暗くなり明るくなり、明滅して。


サンジャックは、驚いて口を開けたまま、モニターに目が釘付けだ。


『酒が悪い訳ではなく。毒にも薬にもなるからこその、うまし酒文化であるが、その、そうだ、それ、私もバーは楽しませてもらって、これはいいぞと竜樹に注目していたのだが。』


「はい、ありがとうございます?」

竜樹は、エレバージュ神が、何を伝えたいのだろう、とお言葉を待った。


『竜樹が、サンジャックと約束をしたのは、もちろん違えずとも良い。だが、だが、竜樹が酒を飲まないと決まれば、そして酒を飲めなくなる葉っぱの薬が出来たとあれば、影響を受けて、酒そのものを悪として、遠ざける者が増えはすまいか?それはそれで、酒飲みだからという事だけでなく、困る者も増えような?私も寂しいし。』


ふむ。ふむ。

そうか。懸命に美味しいお酒を作っている人たちや、酒の周りで生活してる人たちに、悪いかも。世界は網の目に、繋がって動いているのだ。


『竜樹なら、酒の良さを取り入れつつ、サンジャックとの約束を守りつつ、そして酒で身を持ち崩す者をも減らしつつ!何かいい案が出まいか?どうであろう?』

エレバージュ神は、葡萄のふさをツンツン弄りつつ、キラッとした瞳(全体的に輝いているのだが)で、竜樹を待った。


うん、うん。

しばらく考えて。

「俺がお酒を、お祝いの儀式の時しか飲まない、って、良くも捉えられると思うんです。一年に1回、あるかな?それくらいの頻度ですよね。年に一回だけ、一口だけ飲む酒は、そりゃあ美味しいお酒じゃないと、って思いますよね?」


『うむ、うむ!それで?』


「今年一番の美味しいお酒を、それも高いやつとは限らなくて、本当に美味しくできたお酒を、飲みます!ってすれば、お酒を作る人たちは、頑張って作るんじゃないかな?その選考の様子を、もちろんテレビや新聞で報じるのは、また一つ情報の番組ができて、良いですよね。一番を獲れば、売りにもなるし、一番じゃなくても、選考の途中で、このお酒は好みに合うなぁ、とか、皆、思いながら見てくれると思うんです。」


『うむ、うむ!それからそれから?』


「アルコール依存症や、お酒飲んでの病気は、サンテ!みんなの健康で取り上げて。それだけだと皆、お酒飲むのが怖くなっちゃうから、番組の半分は、楽しく健康にお酒を飲むには、お酒に合う肴、食べ合わせの良い料理、なんてのも特集して。ワイナリーや酒蔵さんたちにも、協力してもらって。休肝日、必要だよ、とか、自分は飲める体質か調べるには、とか、診療所の協力も得て。多分、俺の元いた世界よりも、こちらの世界の人の方が、お酒は強そうだなあ。あとは、アレです。」


『ふむふむ、アレ?』

エレバージュ神は、微笑み輝きを増した!


「ノンアルコール、つまり、酒の味はするけど、酔う成分だけ抜いた、都合の良い飲み物を、開発したいと思います!」

多分、魔法でアルコール抜けるんじゃないかな?分離。


『ほう、ほう?それは、何に良いのか?』


「身体が心配だけど、晩酌はしたい、無理なく節制したい、なんて需要が、まず一つ。飲めないけど飲み会に誘われて、お酒を飲むように強要される時に、皆と同じ気分で楽しめる、ってのも一つ。飲めない人に強要は、したくないですよね。体質で飲めない人って、こちらでもいると思うんですよ。カッコいい、押し付け合わない飲み方を提案しましょう。」


『興味深い!ぜひ、酒でない酒、飲んでみたいぞ、竜樹!』

ピカピカ!とエレバージュ神は輝きを増した。


そこで、は〜い!と手が挙がった。


「ジェム?何か言いたいことある?」


ジェムが、挙げた手を下ろして、ナス味噌の口を拭うと、うん、と頷いた。

「え、エレバージュ神さま。俺の考え、言っても良いですか?」


『うむうむ。ジェム、言ってみなさい。』

ご機嫌に許可を出すエレバージュ神様である。


「俺たち、街で、酔いどれの、ヘロヘロの、どうしようもない酔っ払いを、良く見たよ。俺たち子供だから、酒のまないけど、大人になったら、酒のんであんなんなるかな、なんて不安に思ったりしたんだ。」


『う、うむ。そう言ってやるな•••。あやつらには、それなりに、酔いたい理由もな、うむ。ーーーしかし、ジェム達から見れば、さぞかしみっともなかろうなあ。』

眉を寄せ、酒神として酔っ払いを悪く言いたくないが、客観的に見たらおしまいよ、なのだ。


「うん。それで、何で子供は、お酒飲んじゃダメなのか、とか、大人がお酒飲んで良かった事とか、悪かった事とか、さっき竜樹とーさんが言ってたけど、どういう風に、飲んだらいいのか?とかって、俺たち、子供だって、知りたいよ。何でお酒飲んで、殴るのか?とかも。な、そうだろ、サンジャック。いやな目に合ったのに、それが何でなのか知らないと、またあった時にヤバい。自分が、そうならないか、もヤバい。」

情報って、重要だから!


『ふむふむ?ジェムは、なかなか、賢いのだな。続けてごらん。』


サンジャックは、自分がそうならないか?と思うと、ブルブルル!と背筋が震えた。


「神様は、答えを言うかかりじゃない、って、竜樹とーさんに教えてもらったから、聞かないけど。でも、こないだ、子供新聞作った時みたいに、アンケートとって、お菓子をお礼にあげて、お酒のこと聞いたり、調べたり、いいことも悪いことも、知ったりできる、って俺、思うんだ。子供新聞、次のは出ないの、って良く聞かれるし、新聞社のマティータ編集長に話して、いいよって言われたら、子供新聞お酒のやつを、出したらどうかな?それには、この、教会の子供の皆で、協力して、いろんなところで調べたら、良いかも、って思った!」


「ウンウン、その地方で、それぞれ地酒もあるだろうしね。飲まれ方も違うだろうし。美味しいお酒の話と、お酒の怖い話。良いんじゃない?」

竜樹がちょっと、添え口すると、ジェムはニカッと笑った。


「だからさあ、サンジャック。俺たち、皆で、協力して調べてみようじゃん。思い出したくなくて、いやな気持ちなら、無理するな!だけど。酒飲んだ親父に、殴られてきたやつなんて、この中にも結構いるだろ?」


うん、うん、とエレバージュ神も、寮やモニターの子供達に、優しい目を向けた。


『私からも頼むぞ、ジェム、サンジャック。それから寮と教会の子供達よ。ぜひとも、子供新聞で、酒を取り上げてほしい!』


サンジャックは、酒を恐ろしく感じている。母がいる時の親父は、まだ酒浸りじゃなかった。良い時も、あったのだ。酒が憎い。

けれども、その恐ろしい酒について、何も知らない、と、確かに思った。何もわからないものと、戦うのは、こわいーーーーー。


「ジェ、ジェム。俺、怖いけど、知ってみたいーーー。」





エレバージュ神は、いいねを一万もくれて、ハラリと、白くたくさん花のついた房をひと枝、落として、仕舞いにはムギュ、と情報の神、ランセ神の手にとっ捕まって帰った。


ランセ神は、

『まったく、神々の皆、段々と遠慮がなくなっていくんだから!顕現までして!すまないね竜樹、おぼんで忙しい時に。でもお酒のテレビや新聞、子供新聞も楽しみ!』

とメッセージをくれた。


子供達は、竜樹が喋らなくても、ワイワイとお互い、16地方と王都1のモニター越しに、自己紹介と相談と教会ごとのリーダー決めと。活発に話し始めた。

予想外の、活気あるランチミーティングに、なっていた。

ファヴール教皇は、神の顕現に驚きすぎて、固まっていました。

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