ミランはぎゃふんと言わせたい
王様から、お茶の誘いが来た。
王様ご家族一同も一緒、との事である。
ニリヤはどういう扱いなのだろうか。竜樹としては、連れて行く一択である。
「そもそも、竜樹様がニリヤ様を保護なさったと、王様に報告致しましたので。詳細をお知りになりたいと、お茶会の形でお話しできれば、だそうでございます。」
思う存分やってやればいいのでございます。
ミランはいい笑顔でニリヤの着替えを手伝った。
竜樹は着替えの手伝いを断って、マントの留め具だけは取り外して、胸に留めて、衣装は地味なままにした。著しく常軌を逸脱していなければ、ギフトの御方の思うように装っても、失礼ではないのだそうだ。
歴代御方の中に、「派手なのつれぇ。」と言った人がいたのかいなかったのかは、ミランに聞いてみないと分からないが、スーツを着慣れた竜樹でも窮屈と感じるこちらの服では、落ち着かない人がいたのだろう。平民だったりして。
「それにしても何で王様は、ニリヤの状態を知らなかったんだろうね。まさか知っていて放って置いた訳じゃないよな?」
あのノリのいい王様がそんなだったら、ちょっとガッカリする。
「お忙しい事に加えて、誰もが口を開けない事情がございまして。慣例では、第二側妃様が奥向きの実際的な采配を振るう事になっておりまして、その責任を最終的に負うのは王妃様となっております。」
王妃様は内政の補佐、外交を主に担っておりますが、第二側妃様を抑えきれていない、という事になりますね。
王妃様は隣国出身なのですが、隣国が小さな国だという事もあり、何かと軽く扱われる面がございます。
「その上で問題が起きたとなれば、実際に指示をした第二側妃様はのうのうとして、王妃様だけが責められる事にもなりかねません。それでもいい、ニリヤ様がどうされているのか、何とか接触したいと王妃様は望まれていたそうなのですが。」
第一王子オランネージュ様の事は例外ですが、奥向きの事は手出し無用、権力の集中を防ぐため、仕事を分担する為の決まりがありまして。
「何か、決まりが足を引っ張ってない?」
「そうなのです。王妃様や側妃様たちの関係が良好で、うまく回る時は良いのですが。ただ、第一王子オランネージュ様に例え何があっても、第二側妃様のお子、第二王子ネクター様が王になることはございませんので、継承権争いは起こらないです。」
王と王妃、その子供はソレイユ(太陽)
第二側妃とその子供はエトワール(星)
第三側妃とその子供はリュンヌ(月)
それぞれの姓を名乗り、繰り上がることはない。事が起きた場合には、それぞれの姓を持った者の末裔から相応しい者が選ばれる。勿論人物も鑑みられて。
「第三側妃リュビ様が、弁えてらっしゃる方で、王妃様と仲は良いし、王様とも仲が良いし。まあそんなこんなが、面白くない訳なんですよね、第二側妃のキャナリ様は。どうにもならないんですけどね。自分が一番じゃないなんてことは。」
大体の人は一番じゃありませんしね。
「ししょうはいちばん、おしえるのじょうず。」
めだまやき。
おいのりのてーぶるでしょ。
かせきのおふろ。
ニリヤがニコッと人差し指を立てて言うので、難しい顔をした大人達は、束の間、ゆるっと緩んだ。
「ギフトの御方のおっしゃる事は、王に並び立ち優先されます。例え奥向きの事でも、竜樹様が関係しているとなれば、王妃様も安心してニリヤ様を委ねられます。竜樹様の人となりは、私達も報告しておりますし、大概ギフトの御方は善良な方です。信頼があるのです。」
そして、第二側妃様を、とっちめられるのも、竜樹様だけです!
ミランはどうにか第二側妃をぎゃふんと言わせたいようだ。
「だって私達、どんなにかニリヤ様をお助けしたかった事か。見かけるたびに•••不甲斐なくて。」
しょんぼりと項垂れるのである。
解雇されては助けられない。
助ければ解雇か左遷される。
特にお仕えする侍従侍女部隊の人事は、第二側妃のお仕事だったそうだ。
「縦割りだなぁ。」
「縦割りとは?」「縦割りって何だ?」
マルサまで。
また新しい概念を、披露する必要があるようだ。