陽炎の月9日から12日 アルディ王子6
それは、雨の日の事だった。
雨が鬱々と3日も続いている。それは自然、天の気だから仕方がないが、ジェム達や貴族組、王子組の、寮に集まった子供達は、もはや室内の遊びに飽きていた。
身体もあまり動かないので、何となくエネルギーが滞って、発散できずにうずうずしている。
そんな時に、まずは、サンがセリューに、たまたま、ちょっとぶつかった。いつもの、良くある事で、何でもない事なのに。
セリューは、何となくムッとして、サンをぐい!と押した。サンは後ろにとと、と、とよろめいて、べたん!と尻餅をついた。
「なに、ひどい、セリュー!」
「サンが、ぶつかったから!」
むむ、むむむむ!
押して押されて、もう、なに、やだ、セリューがサンが!と、取っ組み合いになり、ニリヤが「よせ、やめろ〜!」と、とっついたが、振り解かれて手が顔に当たり、ふえ、と泣き顔になり、ネクターがそれを見て、「やめなよ!」と押さえたが暴れに巻き込まれて、「止めろ!」とジェムが飛び込み、「痛い!」「何で!」「もうやめろよ!」「やったな!」あれあれあれよ。••••••という間に、全員でわちゃわちゃの大暴れになってしまった。
ちなみにピティエは、アワアワしてどこに手を出していいんだか、になっているし、アミューズとプレイヤードは嬉々として参戦。
アルディ王子は尻尾をビビビとふくらせてプランの袖布を噛みっとしているし、エフォールまで髪を引っ張られて、ポカポカとロシェを殴った。
オランネージュは真ん中で押して押されて笑ってる。
うわーん!と大きく鳥の子みたいに口を開け、上を向いてぽろぽろ、小ちゃい子組が泣き始め。
ジャンジャカジャカ♪ ジャジャンジャン♪
ジャンジャカジャカ♪
「は〜い!かわいいベイビー達ィ!何をケンカしているんだぁい!」
ピッ!と片足だけ膝をくの字に、つま先を立てて、手はキラキラリ、と手のひらをすっと伸ばしヒラヒラする竜樹。
いつの間にか、寮の交流室に大きく貼られたスクリーンには、音楽に合わせて、男女高校生が踊る動画。飲料のCMになった、溌剌とした動きに、身体の底からリズムを刻む。
竜樹父さんがそれを見ながら、動画の真似をして、クルクルリン、ピッピキたたった、たん!と踊っている。ショボショボ目には全く似合わないが、踊りはなんか、キレがあって、うまい。何故だ。それは妹接待のおかげだ。
ラフィネはくすくす肩を揺らして笑っているし、エクレとシエルはドン引きだ。
久々に来ていたチリ魔法院長は、楽しげに、ふん、ふん、と身体を揺らしていて、カメラマンで侍従のミランは、ニハーとしながら、ワクワクとカメラを回している。
マルサ達、護衛は、守りながら、タン、タンと足がリズムをとっているし、何かニマニマしていた。
「「「?????」」」
ポロリ、涙をこぼし、相手の首元のシャツを掴みあいながらも、呆気にとられた子供達は、タタッタン!踊り続ける竜樹に。
「竜樹父さん、何してるの?」
やっぱりリーダーのジェムが、呆れて聞いた。
「踊っていまぁす!みんな〜、家の中ばっかりで、身体動かさないでいると、なんか、すっきり遊べなくて、ウズウズしちゃうんだろ?ストレス、いつもなら、ケンカしないような、ちっちゃな事で、イライラだな?」
そんな時は、踊っちゃお!
身体動かして、スッキリしちゃおうよ〜!
ヘイヘイヘ〜イ!
え、そうなのかな。
雨で、からだ動かさないで、イライラだったのかぁ。と子供達は、踊り続ける竜樹に、ふ?と首を傾げながら、とたとた近づく。
「ハイハイ、踊る人〜この指とーまれ!」
ハイッ!と、人差し指を竜樹が出せば、皆おずおずとそれに取っついて、指を握る。目が不自由組の3人は、周りが手を引っ張って、とーまれ、させた。
「ではでは、簡単なやつから!踊ってみちゃったよな完コピだ!」
それからは、同じ動画を繰り返し真似しながら見て、覚えて、通しで踊ったりと踊りに踊りまくって。
クルクル、ぴた!
ぺたん、と尻餅ついても、サンも今度はすぐ起き上がって、曲に合わせて、笑顔でタタン!
ピティエ、アミューズ、プレイヤードには、手を取り、足の動きを説明して、しまいには幅広のリボンで、見える子と(ピティエは大人の竜樹とペア)手首足首を繋いで、二人羽織方式で、力を抜いて動いてみせて。
エフォールは、上半身で踊りながら、動き始めた足が、車椅子に座っていながらも、ちょい、ちょい、と動いていた。
「あは、アハハハ!」
「おもしろ〜い!踊り、たのしいね!」
最後には、皆ぺたんと、そこかしこで三角座りして、後ろに手をついて、はあ、はあ、と息きらせ。
汗だくで、ラフィネが用意した布で拭いて、飲み物を飲んで。
竜樹も果実水を飲みつつ。
「変にケンカするより、踊った方が楽しいだろ?自分のご機嫌も、とってやらなくちゃね。今度から、雨が降ったら、一曲踊るかね〜。」
アハハハ、と笑う竜樹に、皆が。
「「「おどる〜!!!」」」
とタックルして、やっぱり、今度は笑顔だけど、わちゃわちゃの団子には、なった。
と、いう事が前にあったので、アルディ王子は、大勢で踊るのを見るのも、自分が踊るのも、初めてではない。
だから、ルトラン達上手組と、コリーヌ嬢達、下手組が踊るのを見て、こ、これは、と思った。
ルトラン達は、獣人らしく、ピョンピョコと、素晴らしい身体能力で、アクロバチックに、縦横無尽に踊る。2回転4回転、身体2つ分も高く飛んでクロスする。
それと比べてしまったら、一生懸命にやっているけれど、コリーヌ嬢達には、そもそも無理な技でばかり、振り付けがされているのだ。
踊り終わって、ふむ〜、とアルディ王子は考え込んだ。
一つの場所に、アルディ王子とファング王太子を真ん中に皆、集まり、言葉を待っている。
美味しそうな、艶々の焼き菓子と、あっさりした口当たりのお茶を、侍従たちがニコニコと配る。自由に食べて飲んでね、とアルディ王子は言い。
パクリ、とまずファング王太子が食べ、皆も食べ、あま、うま、とホッとして、ポソポソと隣同士、どうなるの?どうかなぁ?など、話出したりして。
サク、と焼き菓子を齧ったアルディ王子は。
コクンとお茶で飲み込み。
「私、ギフトの御方様、竜樹様たちと遊びで踊りやった事あるの。その踊りは、多分、ルトラン達みたいに、ほんとにものすごい技じゃないんだけど、大勢で踊るのに、すごく、あつくて、気持ちいい踊りなの。見てても、いい感じで•••多分、お話しだけだとわからないと思うから。」
私、踊ってみせるね。
す、と立って。
アルディ王子は踊り出した。




