陽炎の月9日から12日 午前、アルディ王子
本日、本番である。
アルディ王子は、生国ワイルドウルフに、おぼんの里帰りをしていた。
余裕をもって、おぼんの3日前には。
その短い3日間に、練習を必死でして。
おぼんに、ご先祖様達や、動物や植物、全ての命あったものの魂をお迎えする為の、子供達の舞。
その端っこに、色々あって参加する事になっていた。
失敗しないか、不安もあるけど。
ドキドキ、ワクワクする。
これから、舞をする貴族や平民の子供達と、早めに集まって、お昼ご飯を一緒に食べる予定だ。そして昼寝もした後、舞のお化粧や、衣装に着替えて準備をする。
初めての試みだから、何があるか分からないので、早め早めの予定が組んである。
ふー、と息を吐いて、喘息対策の癒しの魔道具、首からぶら下げて、これは本番にも持っていく。ぎゅ、と握れば少しホッとする。黒い狼お耳がピコピコ前後に、尻尾が、ゆら、ゆら〜、と揺れている。
そうして、落ち着く為に他の事を考える。
ワイルドウルフに帰り着いた時の、迎えてくれた家族3人を思い出す。
3日前。飛びトカゲから、アルディ王子が、ピョンと飛び降りた時。
父王ブレイブと母王妃ラーヴ、兄王太子ファングが。一番王宮の入り口に近い部屋で、3人共がソファに座ったり立ったり、ぐるぐる室内を歩いたりして、ソワソワ待っていた。
アルディ王子は、魔法療法師ルルーと護衛のクルーを連れて、案内のリス獣人侍従の後ろを、たんたん、たかた♪ と廊下を歩いてゆく。お土産を持ってくれている、他の侍従も続く。
心逸る、会ったら何を言おう?
4人が4人とも。
コンコン。
ハッ と室内の3人が立って、ドアの前に集合する。
「入りなさい。」
ブレイブ王が入室の許可を出す。
ガチャリ。
「失礼致します。アルディ王子殿下にございます。」
案内侍従が、ドアを開け、入らずそっと隣に控えて。
一歩。
タタ。タン。
「お父様、お母様、兄様、アルディです!ただ今帰りました!」
まだ細いけれども、国を出る前より全体的に少し大きくなり、そして、健康そうに頬をふくふくと、赤らめたニッコリ、耳はピン!と、尻尾ブンブン。
「アルディ!良く帰った!」
「アルディ、おかえりなさい!」
「おかえり、アルディ!」
ふー、すー。
待ち構えていた3人、顔が笑う、深呼吸して、はやはやとアルディ王子の元へ歩き、囲うように、部屋の中へ中へ。
ブレイブ王は、背中にそっと手を当てて。
「元気そうだ、少し背が伸びたかな?」
と、国を出る前の、弱かったアルディと比べて、嬉しく。
ラーヴ王妃は、しゃがんでアルディ王子と目線を合わせ、頬に手を、当てても、良いのかな、と不安に、一旦止まって惑い。
アルディ王子がその手を取って、頬をすりすり、すると、ゆらゆらしていた涙の視界が、完全に海になった。
「アルディ。びょ、病気のこと、分からなくて、酷いことして、ご、ごめんなさいね。鍛えれば治るかも、だなんて。全然見当違いなのに、辛い事ばかりさせて、ダメな、酷いお母様だったわね。」
ぽろぽろ、と海が溢れる。
「ううん。誰も分からなかったのだもの。お母様、私、もう元気だよ!病気と上手く付き合うの。だから大丈夫なんだよ!」
朗らかに。
ラーヴ王妃を見るたびに、咳の発作を起こしていた、そんなにまで嫌な緊張させる象徴だった母が、触れても良いものかと、頬をそうっと、そうっと撫でるのに、アルディ王子はジッと目を合わせて、そして抱きついた。
良いのかな。大丈夫かな。と恐れながらも、胸に腕に感じる、アルディ王子の温かい体温、子供の吐息に、ラーヴ王妃は、震えながらゆっくり、ゆっくり力を入れ、確かめながら抱きしめた。
深いため息、嗚咽、溢れた海は、部屋を満たしそうな勢いで。
「アルディ、ブラインドサッカーの試合、すごく面白かったよ!皆で観たよ!あんなにアルディが凄い選手だなんて、誇らしいよ!」
ファング王太子は、家族の共通した心配事だったアルディ王子が、それを喜びに変えて里帰りした事に、家族全員の喜びに、そして自分を慕う弟を、可愛く、何と言っていいのかわからない興奮をもって、アルディの頭を丹念に何度も撫でた。
短いですがお許しあれ
次回もアルディ王子話です




