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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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237/692

引き摺り落とすな、引っ張りあげる

本日2回目の更新になります


もわもわ、ふわふわした、霞がかる世界に、少年が1人、立っている。


仕立ての良さそうな、けれど何度も着たのだろう、布地の落ち着いた服を着た。金髪に黒の毛が混じる、飴色の瞳の少年だけが、はっきりとして、竜樹に迫ってくる。


あ、これ、夢だな。

亡くなった人たちが絡む、夢の気配がする。


竜樹はそう感じたので、落ち着いてーーー夢の中で落ち着くというのも変な話だがーーー少年が動くのを待った。


「クラージュ!」


ふわふわした背景から、ふっ、とジェムが現れて。

多分、そうなんだろうな、と思った名前を、呼んだ。


「クラージュ!お前、何で、何で、ーーーううん、そうじゃない、おれ。」

「うん、ジェム。」


飴色の、ペンダントの、琥珀の色した瞳が、優しく瞬く。

ジェムは、すう、はあ、と息をして、クラージュの手を取って。


「ありがとう、っておれ、ずっと言いたかった。良い稼ぎの方法、考えてくれて、俺に仲間たちをつくる、って教えてくれて、悪い事しない俺が良い、って言ってくれて。」

「うん、うん。」


「ありがとう、クラージュ。ありがと。」


「ウン。」


感極まった、涙がジワリとする少年2人を、ニコニコと、竜樹は眺めた。


「今は、竜樹父さんの子供になって、皆、新聞売りや、押し花の仕事しながらくらしてるんだ。毎日安心して、食べられるし、家で寝られるし、風呂も入れる。勉強だってしてる。」

「ウン。良かった。良かったね、ジェム。」


はた、はた、と瞬きした後、ぎゅ、とジェムの手を握り返して、クラージュは言った。


「私のこと、思い出してくれて、ありがとう。お墓に皆で来てくれて。死んじゃって、ごめんね。」


ぽたり。ジェムは、涙をこぼして、ふるふる、と頭を振った。

琥珀の嵌ったペンダントを、モゾモゾとジェムが見せると、ふふ!と嬉しそうにクラージュは笑った。


くるり、と竜樹の方を振り向く。ジェムは、「あれが竜樹父さんだよ、クラージュ。」と紹介し、2人で竜樹の所へ小走りできた。ぱふん、と腹にぶつかって止まる。

竜樹は2人を抱きしめて、ニッコリした。


「クラージュ、ジェム達を助けてくれて、本当にありがとう。助かったよ。今ここに子供達が生きていられるのは、君のおかげだ。」

「ウン。」


見上げるクラージュを、その背中を力強く撫でて。


「大人達が、力が足りなくて、ごめんね。俺、もう少し早く来れれば良かったね、遅くてごめんね。」

「ウン。」

ジワリ。クラージュの瞳も、涙で緩んだ。

「•••どうして、謝ってくれるの?私が死んだ時、あなたはここに、いなかったのに。」

見上げる瞳に、どうして誤魔化しや嘘がつけようか。


「大人には、子供が健康に、安心して育つようにする、責任があるから。クラージュが自分のせいじゃなくて死んじゃったのに、誰もごめんね、って謝らないなら、万能じゃなくても、おこがましくても、大人の俺が謝る。」


「•••••••••ーーーー。」


「完璧じゃなくても、もっと何か、クラージュを助ける方法を、大人達みんなが考えるべきだった。ごめんね。もっと生きたかっただろ。クラージュが大人になる所、俺も見たかった。」


クラージュは、目を伏せて。


「••••••愛人腹って、言われたんだ。」

「うん。」


「愛人腹って言うくらいなら、愛人なんてつくらなければ良かったのに!私だってそんなとこに生まれたくって生まれた訳じゃない!ヤラシイ事がしたくて、愛人つくった父が悪い!」

「うんうん。」

ぎゅむぎゅむと、竜樹のシャツを握って揺らしては、クラージュが言い募る。


「それなのに、正妻には、いじめられるし。食事の皿に、今食べる所だったのに、グシャって、ゴミをぶちまけられた事もある!この家を継げるなんて、ゆめゆめ思うな、って言うなら、夫婦で仲良くして、家を継げる子供を、産んだら良かったじゃない!それなのに、厳しく勉強させられて、良い事ばっかり言う、ジャンティ先生を家庭教師につけられて!何度も思った!私を要らないなら、自由にさせてくれたら良いのに!私を縛り付けておいて、あの夫婦は、2人とも仲良く出来なくて、それで、それなのに2人で逃げた!」


「うん、うん。」


「家仕舞いするのも、本当はすごく辛かった。でも半分は嬉しかったんだ。これでもう、生まれただけで怒られる事もないんだって!ピュール伯爵は父みたいに愛人はいなかったけど、結局、領地が欲しかっただけで、私を家族にしてくれなかった、勝手に期待して、勝手に失望して、奥さんに邪魔にされたら、いなくなるのにせいせいするって風だった!ジャンティ先生なんか、自分の正義が崩れるのが嫌だっただけで、全然私の事なんか、大事じゃなかった!」


「うん、うん、酷いな。」


「ジェム達とくらしたのは楽しかったのに!お腹は空いたけど、皆で、ほんとの家族みたいで!もっと一緒にいたかった!いっぱい、かせぐ方法だって考えたのに!私が考えた方法、みんな取られちゃった!どうして!殴られて痛かった!蹴られて、すごくいたかった!!死にたく、なかったーーー!!!」


「うん。」


ジェムは、クラージュの、思いのありったけに。

「クラージュ、あれは、嫉妬だったんだ。アイツら、自分が悪い事してたのに、優しくしてもらえなかったから、嫉妬して俺たちに嫌がらせしたんだ!上手くいくと、そうじゃなかった連中に、引き摺り下ろされるんだ!」

「嫉妬ーー!!そんな事で、そんなーーー。」


だむ、だむ。竜樹の腹に、子供の拳がぶつかって、涙で濡れてくる。


竜樹は、その苦しさを、宥めるしかない。

「嫉妬したからって、引き摺り下ろされるからって、苦労して工夫して生活を上がりたい、頑張ってる人が、やりたい事を諦めるなんて、ダメだよな。」

「だけど、邪魔されるじゃん?クラージュなんか、殺されちゃったんだよ!」

ムッとしたジェムが、腹立たしげに。


「うんうん。面倒臭いけど、そういうのにも、気を配らないとダメなんだよな。嫉妬って、上手く自分のがんばりに使えば良いけど、足を引っ張り合う方向に使うと、ほんとダメだな。」


ぐじぐじ、と腹に顔を埋めるクラージュの背中を、ポンポン。身体を使う事のない、けれど家事をするから、滑らかではない、男にしては大きくない竜樹の掌が、クラージュとジェムの手を、はっしと取り。


「クラージュのペンダントがあったから。俺が面倒見てる子供達、全員に、その子の名前と、俺が教会が面倒見したよ、っていうシンボルの絵を入れた、ペンダントを配って、成人した後もサポートする事を考えついたんだ。」

「••••••サポート?」


「大人になったからって、病気したり、悪い奴らに騙されたり、離婚したり。助けて、って思う事、きっとあるだろう。親がいれば、実家に助けを求めるってできる。だから、面倒見した子供達だって、育った実家に帰って、また歩き出せるまで、助けてもらったって、良いだろ?」

「ウン。」


「それにさ。」

ニカーッ、と竜樹は笑う。良いものも、悪いものも、飲み込んだ大人の顔で。


「クラージュの葉っぱビジネスにも、手を入れようと思うんだ。調べてもらったら、今は、クラージュやジェム達を追いやる為に、乗っ取った奴らがつかまって、潰れて、ちゃんとしたサービスにはなってないみたい。仕事って、変わらずに続けるのが大変なんだから。毎日を真面目にやらなきゃ、一時期乗っ取ったってダメなんだ。ジェム達だって、天気がものすごく悪い時や、身体の調子が悪い時でもなければ、変わらず、真面目に仕事するだろ?」

「ウン。してる。」


「それは仕事に信用がある、って事だ。誇りを持って働いてる、って事。」

「ウン。」


「葉っぱビジネスの今は、お店の人が、店休日にまとめて取ったり、個人的に適当な人に頼んだり。葉っぱを取り切っちゃうのを何とかしようとか、形の良い葉っぱを作ったり、森の維持とかを気にする、継続的にやっていく考えも、誰もないしね。」

「ウン?ウン。」

「うん。」


「だからさ、誰も文句言えないように、俺が口出ししたって事で、国が主導して。」

「ウン??」


「今、葉っぱ取りで働いてる人も取り込んで、身体の一部が上手く動かなかったり、浄化の魔法は使えるけど身体が弱くてなかなか仕事が貰えなかったり、主婦や老人、子供の小遣い稼ぎの人なんかも、程よく、雇用をしたらどうかな?大々的に、テレビでも宣伝して、一般の人も買えるようにしたりーーー森の恵みを、食卓に、お届けしますーーー葉っぱは、ゴミになっても、土に戻るから、魔法で浄化の処理するにも、環境に優しいしね。」

「う、ウン。」

「うん。」


ニハー、と悪い笑顔は止まらない。

「乗っ取り返してやろうじゃん!嫉妬で邪魔するなら、嫉妬で邪魔できないくらい、でっかい仕事にしちゃえば良いんだ。そいつらも取り込んで、働かせちゃえばいい。自分達の損にならない、誰かが、一部の人が、得するばっかりじゃないなら。」


葉っぱを使ったお菓子といえば。

「柏餅売るのもいいね。香りの良い、葉っぱで包んだ、あんこの入ったお餅なんだ。」


「「ウン。」」


竜樹の手が、ジェムとクラージュの手を取ったまま、ぐぐぐ、ぐいーーーっ!と飛んで、雲の上まで、引っ張り上げた!

ぴょん、ぴょん、と雲の上を跳ねて、2人を導く。

おお〜夢って自由、こんな事、思ったら出来ちゃうんだな、と竜樹は愉快に思ったが、2人は、とーん、とーん、ぐいっと雲間を、つま先で蹴って必死で飛んで、焦って。


引っ張り落とすんじゃない。

こんなに高いとこに、雲に、力強く引っ張り上げた!


はわはわして、涙を振り切って、うは、と半分笑って。


ゆらゆらと雲に乗って、取った小さな手を揺らす。


「葉っぱビジネスには、マークが必要だね!そこには、1人の少年の姿を使いたい。それは、クラージュ、君だ!」

「わ、私!?」


「だから、写真を下さい。クラージュと、ジェムが、並んだ写真を。ね、いいでしょうか、ランセ神様!もちろん、いいねを使って!」


『良いよ〜!』


「ありがとうございます!」


そして、他のクラージュの考えた仕事も。

「靴磨きは、技術を確立して、やっぱり小遣い稼ぎの人たちに講習してやらせて。ちゃんとした技術のある人で信用できるよ、って商売にする!貴族の家に招ばれて磨く、なんて事も出来るようにね!どんな革靴にも対応できます!ブラシには、やっぱりクラージュのマークをつけよう!会社、小さな商会にして、消耗品も渡すしサポートしながら出来高制にしたら、皆、頑張るかな。」


「清掃ビジネスは鉄板だよね、絶対需要あるって。エプロンにマークつける。掃除の基本を、徹底的に叩き込んでね!上手な人は、給料上げる!」


「メッセンジャーは郵便があるけど、近場に直ぐに、言伝で、ってなると、電話が普及するまでは、仕事になると思う。軽い書類なんかも、託せるかな。そうなると、電話があっても、需要はあるかも!目印に、制服作っても良いよね。帽子には、やっぱりマークつけよう!」


「洗濯代行は、まんまクリーニング店じゃん!安くて大衆的な、独身男性や仕事をする女性も頼みやすい店と、お洒落着の失敗したシミなんかを、魔法のように落としてくれる、いや魔法使ってもできるのかな、高級店との2つ展開で。お店の看板には、マークが必要だ!」

「ウン!」

「うん、うん!」

クラージュとジェムは、分かってきた。大人って、大人って、でっかい事も、ちっさい事も、できるんだ!


「クラージュ、君が考えた商売には、そのどれもに、君のマークをつけて。売り上げの一部は、困った子供を助ける基金にする!」

「ウン!」

「うん、うん!」


ハハハ、アハ!

3人で笑って笑って、ゆっくりと竜樹は、クラージュとジェムの手を掴んだまま、雲から地上へと降りてきた。

ストン、と、霞がかった白い世界じゃなく、土の、青空の下、ふんわりと風のある所へ降り立つ。


「クラージュ。君の生きた事は、存在した事は、それだけで、これからの人を生かす。」

「ウン•••。」

竜樹に言い切られて、気恥ずかしそうに、上気して微笑む。


続けて、フッと、真剣に。

「ちょっとずつでも、生きやすい世の中にしておくから、また、この世界に、この国に。ーーーーー生まれ変わっておいで。」


待ってるよ。

しゃがんで、目を合わせて、クラージュに言えば。


「私、私、今まで、生まれ変わりたくなんか、なかったけど。」

「うん、うん。」

一度、目を伏せて、それから、じっと竜樹を見て。ためらって、口をパクリと開いては閉じ。




「わ、私、あなたの子供になら、生まれ変わってもいい! 竜樹、父さんーーー。」


腕を竜樹に、そっと開いて抱きしめ待ちのクラージュを、竜樹はぎゅ!と抱きしめた。そして、ハタ、と待てよ、と。


「ん、んん?でも俺、結婚するとは限らないーー。」

「浮気する?愛人つくる?」


「しない、つくらない!」

ブルブル、と竜樹が頭を振るとーークラージュに、子供達に、愛人持ったりや浮気をするだなんて、言える訳がない!


「じゃあ大丈夫!私、気は長いんだ!」


ジェムは満々の笑顔だ。

「ウン大丈夫、俺もついてるから。竜樹父さんの子供なら、俺と本当の兄弟だな!クラージュ!」

「ウン!やったね!」


ふふ、えへへ、と顔を見合わせて、笑う2人。

ふわ、とクラージュが揺れる。薄く、霞んで、一つの光になり、その光の魂は、くるくる、くる〜り、とジェムと竜樹の周りをまわって、そして。


竜樹の胸に、飛び込んで消えた。








ガバッ。

と起きる。横に寝ていたツバメが、びくびく!としたので、アワアワと、肩をトン、トンして、いい子よ〜、おやすみよ〜、する。


早朝、まだ誰も起きていない。

ラフィネが、サンとセリューとロンを挟んで、向こう側で、スヤ〜と寝ている。

いや。イヤイヤ。ラフィネさんは、そりゃお母さんだけどさ。

不埒な事は、いけません。

ちょっと意識しちゃう竜樹だった。


「まあ、ここに一緒に、いてみようか、クラージュ。」

小さく呟き、自分の胸を、トントンっ、と叩いて、枕元に置いてあったスマホを開くと。

ちゃんとジェムとクラージュの肩を組んだ写真が、新しく入っていたし。

いいねが100使われて。

そして、メール神、母性を司る神様から、5000いいねが、送られていた。


「おはよ、竜樹父さんーーー。」

グシグシ、目を擦りながら、不意に起きてきたジェムが、こちらに寄ってきたから。

クラージュとの写真を見せたら、ほわぁ、とゆるゆるに緩んだ笑顔で、ジェムはスマホごと、竜樹の腕に、そっと抱きついた。



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