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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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236/692

後悔はこれからのために

「だからな。ごめんね、とか、ありがとう、とか、思った事は、話をしといた方がいいんだ。後悔するから。でも嫌がってるのに、無理矢理はダメだけどな。」


石の抜けたプレートのペンダントを、さわ、さわ、と触り、ジェムは元王女、エクレとシエルに、こんこんと語って聞かせた。


「うっ、うっ、そ、そうね!私たち、ちょっと冷たくされたぐらいで。」

「うっ、甘かったわ。ヒクッ。」

ショックを受け、ハンカチを目に当て、2人ともグスグスしている。

ラフィネは、しん、と静まり、元王女と子供達を見守っている。


「それにしてもジェム、貴方達、大変だったのねぇ。」

「そうねそうね。」

元王女と浮浪児の生活は、それはそれは、かけ離れたものだろう。自分の事を、離れて見られる視点があって、初めて分かる事もある。

自分達は、守られていて、確かに幸せだったのだ、と元王女達は思った。

そして、鬼籍に入った元王女達の母、フードゥル国王妃だったら、今の娘達に、何と言うだろう。物心ついた時には、もういなかった、威厳がありつつも慈悲溢れる王妃だったという彼女は、きっと元王女達を、こっぴどく叱るに違いない。


今になって、本当は色々教えてもらって、叱られたかった、と言っても無理がある。


ショボり、グスグス泣きつつ、元王女達は、改めて自分のやってきた事を反省する。チラリとラフィネを見れば、お母さんは、思慮深い目をし、泰然として、そこにいる。


「今は幸せだから、俺らは、いんだよ。」

ジェムは、やっぱりグスグスしている王子達、耳尻尾の垂れたアルディ王子に、エフォール、プレイヤードの貴族組にも、にかっと笑ってやる。うんうん、おれたち、しあわせ、と浮浪児出身の子供達は、みんな頷く。


「ジェム、クラージュのおはかまいり、あいにいく?ぼく、ぼくも、いっしょしていい?かあさまも、おはかでねてるの。クラージュも、ねてるのね。」


ニリヤが眉を寄せて、涙の滲んだ悲しげな顔で、ジェムに抱きついた。

「ニリヤ様も、一緒してくれるのか?クラージュ、あの世で、びっくりすると思うな。」

ニリヤの頭を撫でて、ニシシ、とジェムは笑う。


クラージュの亡くなった秋。

寒くて寒くて、使われていない厩や、作業小屋などを転々としつつ、ボロ布に身体を潜り込ませ寄り添って、何とか乗り切った冬。

そして、嫉妬を受けないよう、稼ぎすぎない事を覚えて駆けずり回った、初春。

それを乗り切りさえすれば、クラージュだって、竜樹父さんに守ってもらえた。たった3季節。


「ジェム。そのペンダント、また石をつけてやる事が、出来るかな。それともそのまま、持っていたいかい?」

竜樹が、目をショボショボさせつつ、そっと提案する。


「•••石を、俺たちが使っちまったようなもんだから、できたらまた、つけてやりたい。いいの?竜樹父さん。」

ジェムはおずおずと。


「うんうん。いいとも。明日はピティエの領に行く用事があるけど、それから戻ってこれたら、皆でクラージュのお墓参りに行こう。俺もクラージュに、ジェム達に良くしてくれて、ありがとう、って、お盆にはウチにおいで、って言いたいし。」

クラージュもいたから、ジェム達は、悪さをせずに、街に受け入れられて生きてこられた、って所、あったんじゃない?

竜樹にそう言われて、うん、とジェムは頷いた。


「あいつがいたから、俺たちは命をつないで、生きてこれた。これからも、きっと忘れない。」





竜樹と王子達が、ピティエの領地でルテ爺と会い、帰ってきた後。

竜樹はタカラに頼んで探してもらっていた、クラージュのペンダントと同じものを売っているお店に、王子、貴族組も含めた子供達と、元王女と出掛けた。いつもの護衛マルサ達や、ラフィネ、カメラのミラン、タカラも一緒である。

お店は街の真ん中から少し外れた所にあった。こぢんまりとしていて、子供達が入るといっぱいになった。お店は、それなりのお金を払って、貸し切りである。

そこかしこに陳列されている、宝石までいかないが綺麗な石のアクセサリー、指輪や腕輪などを、子供達はワイワイ興味深げに見る。きれいね、と、ツンツン突くのを、大人達がそれ以上は触らないよう、そっと見ている。

元王女は、美しい物達にちょっと浮き足だったが、それでも、ハッとして、子供達の面倒を、拙いながら頑張っている。お姉さんなのだもの!と、2人とも。


「こんにちは。大勢で押しかけて、ごめんなさい。このプレートに、石をまたつけてもらう事、できますか?」

エプロンをした、若い男性の店主が、竜樹の言葉に、ジェムが手にするプレートをチラッと見てから。

「お、おう、大丈夫です、イタズラさえしなきゃ、どんどん見てください。い、石、つけられますよ!どんな石にしますか?」

こういうのって、お付きの人が言ってくるんじゃないの?と焦り、竜樹がギフトの人だとドキドキして口調が変になりつつ、応対する。

カウンターの内側には、ちょっとした工作機械が置いてあり、その場で名前を刻んだり、石をつけたり、簡単な作業ができるようになっている。


「何か美味しそうな、きれいな茶色の石だった。」

ジェムが思い出しながら。

「茶色の石ね。色々あるから、見本を見てみるかい?」


店主に差し出されたお盆に、落ち着いた茶色の、慎ましやかな煌めきの石達。

「これとか、これ、とか?」

ジェムが指差しすると、子供達も、とろっとしてる方!など口を出す。

「琥珀に、ブラウンダイヤモンドね。どちらもつけられるけど、ブラウンダイヤモンドの方が、石としてはお高いですよ。琥珀は、色が濃い方が高いね。」

お金の代わりに、とするペンダントなので、店主も価値を伝える。


「どう?皆、ジェム。」

「ウン。やっぱり、こはく、の方が、クラージュに合ってる、と思う。」

「あってるー!」

「クラージュのめ!」

竜樹と店主とお盆の石を、交互に見ながら、ジェムが決めた。子供達もウンウンと、それがいいよと。


「じゃあこの琥珀でいいですか?こっち?うんこっちね。直ぐにつきますから、待ってて下さい。」

ペンダントお借りしますね、とプレートを受け取り、選んだ琥珀を、くる、くる、と回しながらそれに当てて、工作機械で、慎重に、ガッチャン!と押した。


「はい、出来ましたよ!」

「ありがとうございます!」

店主がジェムに、出来上がったペンダントを渡すと、ジェムは、皆にぐるっと見せて、ためつすがめつ、見入って。満足そうに笑って、自分の首につけた。

どう?って顔で竜樹を見上げたので、「ウンウン、いいね。」と竜樹も笑った。


「これって、石は入れずに、名前や、簡単な絵を入れる事も出来たりしますか?」

「はい、出来ますよ!」


竜樹は、このペンダントを、子供達に配ったらどうかな、と思いついた。石を入れてやるには、ちょっと資金がかかりすぎるし、悪い奴に狙われても嫌だから無理だが、子供達が成人した後も、追い出して終わりではなくて。

何か思うようにいかない、病気や怪我、1人でどうにもならない助けて欲しい事があれば、実家の教会や寮に帰って、相談や、再出発が出来るよう。

拠り所になれるよう。

思い出して、のプレート。


「子供達の分を今度、頼みますね。名前と絵を、用意してきます。直ぐにじゃなくていいので、沢山頼んでも大丈夫ですか?」

「はい!ありがとうございます!大丈夫です!」

ニコッ!店主は笑って、ここにいる子供達の分かな、と軽く思っていたが。竜樹は、この国の、竜樹が面倒見する全ての子供達の分を、と思っていたので。後日、大量発注に、ドヒャ!となり、慌てて、期日について問い合わせ。

無理じゃない日程で、商売に影響がないよう徐々に納品、そして新しく子供が入るたびにこれからも、との言葉に、ハイーッとかしこまって返事をした。

時に金属アレルギーの子の分を、革紐と樹脂で覆ったプレートにしてみたり、細かな調整をしてくれるこのアクセサリー店は、ギフトの御方様御用達となり、再び宝石入りのプレートペンダントが流行り。

この街で、長く安定した商売をやっていく事になる。



竜樹と子供達一行は、アクセサリー店の後、クラージュのお墓参りに行った。


エフォールも、プレイヤードも、そしてピティエも。貴族として領地を治めて行くって事は、こういう子が出ないようにする事だよ、と竜樹に言われて、神妙で真剣な顔をして同行しているし。王子達とアルディ王子はもちろん、子供達の代表として、これからの責任を感じつつ。

浮浪児出身の子供達は、かつて一緒だったクラージュの思い出を、頭よかった、葉っぱとるのは下手だった、いつもはだまってるけど、良い事思いつくとおはなし上手、などと、竜樹に聞かせた。

元王女達は、大人しく、子供達について歩く。


無縁墓地は、森近い、王都の外れにある。清々しい、あおい森の匂いがする。暑い中訪れる人もいないようで、ひっそりしていた。


竜樹と子供達は、途中で買った、沢山の花と、王宮から綺麗な水とを水筒で持ってきていた。

ズラリと並ぶ土まんじゅうと墓石の中、ジェムは一つ一つ確かめるように石を見て、ある所まで来ると、これだ、と竜樹に示した。

白とグリーンがかった斑らの、歪に丸い、一抱えの石。竜樹は、そうか、と頷いて、タカラから渡された、四角く細長い石、そこに、掘り込まれた文字をなぞり、ジェムに見せて、土まんじゅうに、ちょうど良く埋め込んだ。


「クラージュここに眠る

自らも幼くして、街の、家のない子供達の命をつなぎ、自由を愛した」


お水をかけて、花を供え、思い思いに祈る。竜樹もしゃがんで手を合わせる。そうして、クラージュの為に、子供達の為に、これから出来ること、を考えた。






「リーヴちゃんにどうしても、謝りたいです!」

「どうしたら良いか、教えて下さい!」


分からない事があれば、何で教えてくれなかったのよ、などと甘ったれた事を思っていた元王女、エクレとシエルが、決死の覚悟で、竜樹に頭を下げた。

ここは帰ってきた寮、夕飯も風呂も済んで、寛ぎの時間だ。


ようやく人に、真摯に聞く事を覚えたか。ジェムのおかげだな、と竜樹は思い、ふー、と息を吐いた。腕にはツバメが、あぶあぶと何事かをおしゃべりしながら、もぞもぞしている。熱い赤ちゃんの体温、ツバメの汗を、ツバメの昼の面倒見な侍女シャンテさんが、優しく拭ってやりながら。


「基本は出来てるよ。今やってる事だ。真摯に、謝る、これしかない。それに加えて、少しでも話を聞いてもらえるように助言するならばーーーー。」






モデル候補達の体育館での練習も、これで3度目になる。

リーヴは、教会のお手伝いの女性と、クーランと一緒に、今日も竜樹のいる所へ、ご機嫌にタタタッと走ってきた。側に元王女、エクレとシエルがいるのには、無視である。


「竜樹さま!こんにちは〜!」

「はーいこんにちは!リーヴもクーランも、今日も元気だね!」

竜樹がリーヴとクーランを受け止めて。


「リーヴちゃん!」


いつもより大きな声で、必死にエクレが呼びかけた。ぎゅ、と喉が鳴る。


チラリ、と横目でリーヴは見る。


「私たち、貴女に、心から、謝りたいです!」


シエルも、ブルブル拳が震えるのを感じながら、こくんと唾を飲み込み、言葉を選んだ。


「私たち、貴方と貴方のお父さんに、酷い事をしました!」

「謝って許してもらえる事ではないけれど、あの時のこと、本当にいけなかったと、後悔しています!どうか、謝らせて下さい!」


「「本当に申し訳ございませんでしたーーーー!!!」」


スッ、と足を折り、背を曲げ、頭を下げて。土下座である。

元王女達は、土下座したまま、頭を上げずに、目を瞑って、この、勇気を振り絞った謝罪の時間を震えながら。


リーヴは、目を見張って、黙って竜樹に取り付いたまま、ぱち、ぱち、と瞬いていたが。

むん!と怒った顔をして、元王女2人に向き直った。


「ーーー何よーーー何よ!謝ったからって、直ぐには許してあげられないわよ!何よ!こんなにして、何だか私が、いじめてるみたいじゃない!」

プンス!と腰に腕を当てた。


「許されるとは思ってません!反省しています。あの時の私たち、とても酷かったと。」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」


うーーー。

リーヴは、竜樹のマントをグッと握り、唸った。


「もういいわよ!二度とあんな事しないで!私が、ずっと見ているんだからね!偉そうにしたら、怒ってやるんだから!わかったわね!今日からあなたたちは、私の子分よ!」

「はい!」

「はい!」


頭を上げて、正座したまま、エクレとシエルは。プンプンして、ちょっと顔を赤くしているリーヴに、泣き笑いで応えた。

竜樹は、リーヴ優しいなぁ、タハっと笑って、リーヴの背中をトントンした。もう、仕方ないわねぇ、と眉を下げて息を吐くリーヴは、小さくても立派な淑女である。




和やかで熱い、モデル候補達の練習を終えたその夜。


竜樹はクラージュの夢をみた。




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