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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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頼りにならない大人たち


破産して家財の始末で会ったクラージュは、うっすら微笑みながらも、その日で全部の家の物を処分出来たらしい。


そうして、酒代の未払いや食材にかかるツケ、ドレス類、宝飾品の未払いなど、館や社交での優雅な生活にかかっていた債権は、8割がた処分品と財産の差し押さえ分で補填できたのだ、とビッシュ親父がジェムに教えてくれた。

「どれだけ家のもんに金かけてんだよ。」

ジェムは呆れる。

「全くなぁ。残されてた沢山のドレスや、代々受け継がれてきた食器、一点ものの家具、持ち出され残った宝石なんかが、高値で引き取られたんだとよ。」

随分慌てて、前当主と正妻は出奔したらしい。


そういうビッシュ親父も、あのクラージュが座っていた椅子と、対になるテーブルセットを確保していた。ビッシュ親父とて、クラージュを憎くはないが、商売はまた別の話である。

「まあ、何か危ないな、って気配はしてたから、あまりツケで酒を売らなかったのも良かったんだがな。」

「危ない感じあったんだ?」


使用人の解雇。

ツケが払われないのに新たな注文。


領地から許されざる程、高額な税を取り立てていたのに、家内の経済が破綻したのは。国からの査察で、領内の資金を吸い上げる事にストップがかかったからだ。勿論、財産には差し押さえがされて。


何故なら、そこに住む人達の暮らしを蔑ろにしすぎて、経済活動は著しく滞り、領地内での反乱が起こりそうになったから。

そして、それを収めるだけの器量が、前当主には無い、と判断されたから。

国が介入したのは、そこでしか採れない建材、ライムストーンがあったため。


前当主の横暴で、起こりかけた反乱での死傷者も出て、近隣の領地にも人が流れるなど迷惑もかかり、流石に咎めた王から、当主交代の話しが出た。クラージュに当主を譲り、国からサポートする人材をつけて、立て直しをはかれば良い、前当主と正妻は、領地奥にでも引っ込んで。


「父と、正妻は私に当主を譲るのが、相当嫌だったみたい。領地に戻れば、民から害されるかもしれないし、何か後ろ暗い所もあったのかも。私に領地と爵位を返上するよう、誓約魔法をかけさせて、家を取り潰して、逃げて行ったよ。」


クラージュも、それならば、と何もかもを返上して、父が犯しているかもしれない罪から、逃れたのだった。

それらは、王様直々の命令で前当主を追う者達によって、これから明らかにされるだろう。

要は王様からも、クラージュは情けをもらって、家仕舞いをやる事で許しを得、平民となり、関わりを絶ったのだ。


ジェムは、ふうん、貴族も大変だな、とクラージュを思った。

今は後見人となった、ピュール伯爵の王都での家に寄っているという。

会う事もないか、とジェムは思っていたのだが。


「あ、ジェム〜!」


「ん?あれ、クラージュ?」


まだ大画面のなかった広場前で、道案内や迷子などの面倒をみてやり、駄賃を得ていたジェムは、嬉しそうに手を振るクラージュと再会した。


「ジェム。私は本当に、自由になったよ。」

「え、何とか伯爵んちに、いたんじゃないの?」


それがね。

くすす、とクラージュは笑う。


「ピュール伯爵は、私の後見人になる事で、返上した領地をもらえたりするかも、って期待があったみたい。そんな事なかったんだけど。別の、能力ある新しい人が領地を与えられたんだ。そしたら。」


ピュール伯爵の奥さんが、文句を言い出してね。


「私はどうも、妻っていう立場の女の人には、好かれないらしいよ。愛人腹の平民に、無駄飯食らわせて、って色々仕事させられそうだったから。それだったら出ていきたいな、って口にしたら、好きにしなさい、だって。」


ふうん、とジェムは納得した。

誰もが子供1人を抱え込む余裕さえない。貴族だってそうなのだから、平民ならもっとそうだろう。ビッシュ親父に、親しみと恩を感じているジェムだって、本当は誰かに家に連れて行ってもらいたいよ、という気持ちを隠している。

仕方ない。

1人で生きていくしか。


「あの、何とか先生は?」

家仕舞いの時に言っていた、家庭教師の。


「ジャンティ先生ねぇ。」


悪い顔をして、ニシシと笑ったクラージュは、左右に頭を振りながら。


「彼はいい人なんだけど、弱い人なんだよ。理想と現実が分かってないんだ。私に、一緒にいて面倒を見てあげる、って言いたくて、でも実家からは反対されて、10日ほど宿屋に一緒にいたんだけどね。」

生活能力が全くなくて、何をするにもお金がかかって、仕事は実家がらみの家庭教師しかした事なくて、お財布が軽くなるばかりで。

最後には、私が出ていきましょうか、って言ったら。


「力が足りなくてすまない、すまない、って泣いてたよ。」


「泣きたいのは、クラージュじゃん。」


うん、そうとも言う。


ジェムは、その日、クラージュと組んで。

ちょっとした言伝や手紙を、街の中を泳ぎながら届けたり。

重いものを持っている人に、銅貨1枚で荷物持ち手伝います、とやったり。

ビッシュ親父から受けた、街の清掃を手伝ったり。


そんな事を一緒にして、屋台で肉串と、パン屋で一番安くて大きいパンを買って、分けて食べ。

今にも壊れそうな、ジェムのねぐらの廃屋で、一緒に寝床に入った。


「クラージュ、その良さそうな上着は、売ってもっと安いのにした方が良いんじゃないの?」


「ううん、これがあるから、街の人は私たちに頼み事がしやすいんだ。」


身なりで信用は、きっと変わる。

ボロボロの服で、荷物を持つと言うより、ずっと頼みやすい。


ヘェ〜、とジェムは感心して、眠くなってきた目を、ゆるゆると閉じた。


「おやすみ、クラージュ。」

「おやすみ、ジェム。」


毛布は無かったが、もらった古いシーツを2人で巻いて、寄り添って眠った。

クラージュは、ホッとした顔をしていた。





もう少しだけ、ジェムとクラージュの、厳しかった日々にお付き合いください。

クラージュにも救いがあるお話にしたいです。

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