着々とモデル
浴衣ファッションショーのモデル候補達は、スマホの浴衣着付け動画を見て練習してきた侍女さん達に、キリッと着付けをしてもらう。
パテーションを出して、男女は別に。
女性騎士からモデルに、また、舞台俳優からモデルに、とスカウトされたり。中には宿屋の従業員もいて、様々な人が集まっての着付けは、大分賑やかだ。
「帯って、コルセットよりも大分、締めごこちがいいね。」
女性騎士は、最初から姿勢が良いのだが、「背筋がピンとする感じ。」と微笑む。
「布に覆われてるのに、涼しい?」と俳優がひらひら袖を振る。
「風が通るね!」
ピティエも、ハタハタ、と袖を振って、気持ち良く。兄ジェネルーが満足そうに頷く。
モデル達には、まずは良い感触のようだ。
浴衣を着て、まずは皆でモデル歩きの動画を見てみた。ピティエも、説明の声をじっと聞く。
女性は一直線上を歩くように、足をクロスさせながら、すらっすらっと魅惑的に歩く。
「M.モンローさんは、セクシーな歩き方をする為に、片方の足のヒールの高さを変えて、しゃなりしゃなりと歩いたらしいよ。ずっとそうしてると、身体に悪そうだけどね。」
竜樹が言うと、ニリヤ達王子組は、モンローって誰?と竜樹につかまって、白地にそれぞれ涼しげな、青、水色、オレンジの兵児帯をふわふわさせた。
「モンローさんは、女優さんです。」
ヘェ〜、とモンローさんの資料を、子供が見ても大丈夫なやつだけ、ちょろっと見て、男達はヘラッとしたし、女性達は、ムムムと口を閉じて複雑なこころもちになった。
セクシー、かぁ。
ついつい、その生涯、などの文章を読みはじめ。
「じょゆうじゃなくて、モデルでしょ!」
もう!とリーヴが竜樹を軽くペシっと叩き。あ、そうだった、と本筋に戻る。クーランが、くすす!と笑う。
「男の人って、仕方ないわねぇ!」
「うふふ、ほんとね!」
父子家庭のリーヴは、男について一家言あるようだ。クーランは、花街では男性が怖かったけれど、ここでは竜樹がいるから、そしてリーヴが突っ込んでも決して怒ったりはしないから、大丈夫、と気持ちが緩んでいる。
女性達が、なるなるなるほど、と男性達に横目でうんうんして、竜樹はてへへと頭を掻いた。
男性は威圧的じゃなく前を向いて、胸を適度に張り、顎を程よく引いて、男らしくゆっくり、颯爽と歩く。
のだが。
「浴衣、大きく歩くと、はだけてしまいますね。」
「男性の浴衣、チラッと前が翻るのはカッコいいけど、足首は見せないんだね。特に女性は、大胆には歩けないね。」
うんうん、と共通の課題を認識する。
「浴衣での歩き方は、歩幅を小さくした方がいいみたい。綺麗に歩くには•••。」
歩き方講師、マニエールとフィエルテが、熱心に男女別に見て、指摘し、ちょっとずつ直していく。デザイナー達が、自分の作る浴衣の構想と合わせて、と指示出し。
背筋を伸ばして、などの基本は一緒だ。浴衣をどう魅せるか、片方の袂を持ったり、両手を開いて袖を見せターンしたり。
しばらく歩いて、それぞれの気をつける所を宿題にし、今日はこれでひとまず解散、となった。浴衣、脱ぐ時はチャチャ、とできる。汗をかいたし、洗える生地で作ったから、手押しで洗うとのこと。侍女さん達が、さささと畳む。畳み方も、勉強済み。
竜樹が、浴衣の時の小物、扇子に巾着、信玄袋を資料として出すと、それは良いね!とデザイナー達にウケた。小物コミのデザインもアリだ。
次回は、小物などがそろった3日後に、と決まった。
元王女のエクレとシエルは、さあ帰るぞ、となったら、マゴマゴとジリジリと動き、手をモジモジして、何となくつつつ、とリーヴに近づき。
「あ、あの•••。」
「リーヴちゃん、あの•••。」
リーヴは、エクレとシエルを半目で見ると、ふいっ、と顔を背けた。
「ギフトのたつき様!また3日後にね!王子様達も、またね〜!」
「うん、またね!」
「「「またね〜!」」」
リーヴは明るく挨拶をして、ニッコリしたクーランと、送り迎えについて来た教会の助祭と一緒に、手をブンブンフリフリして帰った。
エクレとシエルは、がっくし、と頭を垂れて。ショボンと寮へ帰る。一角馬の馬車の中、竜樹や王子達、行きの見守り人、侍従のユミディテ、ミランにタカラ、護衛のマルサと共に、ガタガタんと揺られ。
寮に戻って、夕方、夕飯になっても、エクレとシエルは、がっくし、したままだった。基本的に、今まで、はっきりと嫌われる事のなかった元王女達である。自分達も嫌いなのなら良いけれど、ジクジクと罪悪感、謝りたくて、でも聞いてもらえなくて、なのだ。
「何かあったの?エクレ姉ちゃん、シエル姉ちゃん。」
ジェムに聞かれて、竜樹も交えながら、説明をする。
「こないだの誘拐事件のリーヴと、モデルで一緒になったんだよ。」
「あ、謝りたくて•••。」とシエル。
「で、でも、まともに聞いてもらえなくて•••。」エクレも。
ショボ、と夕飯のそうめんを、フォークでくるりと巻きつつ。反省しきりの元王女達である。
「あ、謝ったら許してもらえる、とか思ってないけど。」
「話も聞いてもらえない、って、辛いわ。」
ふうん、とジェムは、ちゅるる、と麺をすする。オクラと茄子を、鰹節醤油でコリコリ。
「相手に悪い事したんだから、仕方ねえよな。それでも、相手が生きてて、次も文句も言われず会えるんだから、良いじゃねえか。」
いつかは、聞いてもらえるかもしれないんだから。
ジェムは、もう、話さえもできない相手の事を、思い出した。
夏休み、全然更新出来ず、すみませんでした。
通勤してる方が、話が書ける謎。
明日は、ジェムの思い出を書きます。




