花を探しに
数日後。
ニリヤの部屋が一旦片付いたと聞いて、竜樹達は揃って、リュビ側妃元侍女の1人に案内され、クローゼットを開けた。しっとりした飴色の木製で、中身が少なかった。
幾つかおとなしいフリルの、ナイトドレスが掛かっていた。ニリヤ王子の母、リュビ第三側妃のものだ。側妃を2から数えるのは、王妃を1位としてそこから数えるから。
子供服は全くなく、チェストに入れられていたものが普段着で、たまにあった父王様一家との晩餐の時は、別にある衣装部屋から侍女達が持ってきてくれていたそうだ。
「私達、リュビ様とニリヤ様に仕えていた者たちは、今では王妃様と第二側妃様の、それもお側遠くに配置されております。辞めさせられた者も多くいて、今ニリヤ様に専属でお仕えできる者は、いないのです。」
申し訳ございません。
眉を下げて、侍女さんは謝る。
天蓋のあるベットは、ごく淡いベージュピンク、キッチンはこぢんまりして、使い勝手は良さそうだった。
「ニリヤ、母様の大事にしてるものとか、ここにあるのか?」
「う?」
手を繋いで、見上げるニリヤ。
栄養不足で、まだ髪の艶は戻らず、ほんわり毛先が跳ねている。
タタタと小走りに、チェストの蓋をヨイショと開けて、中から小さい小物入れを取り出した。
「かあさまね、はんかちあつめてたの。れえすのじゃないの。ししゅうのが、かわいいやつ。」
かあさまの、によい。
畳んである一枚を取り出し、くんくん、顔を埋めた。
「かあさま、いつもどってくるかなあ。ごびょうき、なおる? おきれたかなぁ?」
ハッとした侍女さんは。
「ニリヤ様、リュビ様は、•••亡くなられたのです。」
手を揉み絞り、言いづらい事を口にした。
「ぼく、かあさまにあいたい。おこしてあげる。ねんねしてるの。」
ねんね、してるの。
強く言い募るニリヤに、侍女さんも、竜樹も、そして黙ってついてきたマルサもミランも、誰も何も言えなくなった。
「•••ニリヤの母様の、好きなものを集めた場所を作って、お祈りしよう。良く日の当たる場所に、小さなテーブルを用意して。ハンカチと、あとお花に飲み物かな。喉が渇かないようにね。」
「かあさま、よろこぶ?」
「うん、喜ぶと思うよ。」
祈りは祈りを捧げる人のために。
そしてここに居ない人を想うために。
そうしたら、今日からこっちに住むかあ。ここの方が日当たりがいいしね。
竜樹の発案に、ミランが、ですね!と追随し、「布物の寝具は新しいものに変えてありますし。荷物は私達侍従にお任せ下さい。新しいベッドも一つ入れましょう。マルサ様もここで寝られるでしょう?」それとも天蓋のある方で寝られますか、とからかった。
「よせやい。俺に似合うか、この寝台が。」
よーし、じゃあ花を探しに行こう!
ぐしぐし、ニリヤの頭をかき混ぜ、目を合わせてやる。不安気に揺れていたニリヤの瞳が、じっと竜樹を見つめて、パチリとつむる。
「ししょう。」
「何だ?」
「•••ししょう。いっしょ、さがす?」
「一緒探す探す。」
ニコッ。
にやっ。
手を繋いで、庭に向かう。