みんなで見たい
喋り言葉も覚えていこう。書き言葉も、何なら野口英世の母の手紙みたいでもいいから書いてみよう。あれは感動するしな。物語を描けるほどじゃなくても、伝わればいいのだ。
「それでだね。みんなでスマホ見るの、やりづらいと思わない?」
「全然全然やりづらくありません。もっと見たいです!」
チリにスマホ持った手を掴まれつつ、のけぞる。近い近い。
「イヤイヤ、画面小さくない?これが大画面で、みんなで座って見られるくらいだったら便利だと思わない?」
「すまほを大型化する、ということですか?」
違うのです。
「スマホを一から作るのは、時間かかるでしょう。この画面を、大きなスクリーン、布かなんかに投影できないか、って事なんだよ。手軽に見せられるように、タブレット、うーん、羊皮紙一枚分位の大きさにも投影できるといいな。」
スマホの発する電波を感じられるチリさんなら、できないかな?
うーむ、顎に手を当てて人差し指でトントンしているので、スマホを渡すと、嬉しそうに指をぐるぐる空中で回して、ぎゅうぎゅう画面をタップした。そんなに力入れなくてもいいんです。
「すまほがこの、がめん?の情報を波として、発してくれると割と簡単にできるかなと思うのですが、魔石と魔法陣だけでもそっくり同じに映す事もできるかなあ。それだと映す所が丸くなっちゃうしなあ。うーむ。うーむ。」
魔法陣て四角くても発動しますかね?
聞かれても全く分からない。
「あ、画面を同期する方法はあったよな、TVとかパソコンに。調べてみる。」
スマホを手放さないチリに引っ付いて、文字を入力して検索する。
ほうほう、キーワードで情報が選ばれて出てくると!一体この板のどこにこのたくさんの情報が入っているのです!?興奮してふんふん鼻息がうるさい。
この本体の中に全部入ってる訳じゃないんだよ。もっといっぱい、貯めとくとこがあって、これは端末なの。図書館で本を選んで読み出すようなもんかな。そしてその図書館が、たくさん繋がってて、どこからでも呼び出せる。そんな感じ。
同期する方法、ありました。
アプリで無線でいけるらしい。
開いて動かしてみると、
「あっあっ、感じられます。何故ここに魔石がないんだ!すぐ試したいじゃないですか!」
何とかいけそうな感じですかね。
ひったくっていきそうな勢いのチリに、ちょっと待ちなされとゲームを開いてやった。落ちモノ系の。途端に黙って座って熱中しだした。
ニリヤの方が、お利口にしている。チリの手元を覗き込んで、音楽に乗って、ふん、ふん、と頭を振っていた。
料理長はもう我関せずで、卵を泡立てている。因みに、魔法で泡立て器を高速回転させる事ができました。
ヨーグルトは、そんなモノがあるのを聞いたことあるかも•••酪農家が地方でやってる、という情報が、田舎出身の料理人さんから得られた。
ヨーグルトの乳酸菌を無から作り出すのは大変そうである。元があるなら、それをタネにヨーグルト増やせればいいんじゃないか。
この辺りから仕入れている乳製品の製造元に聞いてみるという事になって、一旦厨房からは撤退した。
「げえむもできて、遠くにいる者とも連絡がとれて、見たままの絵をしゃしんで残せて、どうがもとれる。すまほとは、実に色々な事ができる板なのですね!」
チリに写真や動画中心のSNSを教えてやると、またハマりそうだったので、適当な所で止めてやった。誰でも陥るネットの罠である。
「時間も分かります。」
ほうう!そんなにいっぺんに!
すまほを作るのは、大変そうです!
「それなんだけどね。」
一気にスマホに到達しなくても、いいと思うのだ。それぞれ個々に機能を持った、例えば時計なら時計、カメラならカメラ、電話なら電話で。
ネットの概念をいきなり持ち込んでも、悪いことする人に対応できないんじゃないか。
「例えばおおむね一方通行だけど、音だけを送るラジオから始まって、画像もついたテレビになって、そこにハガキでご意見を送ったりする郵便があって、と発達していけば、使い方や概念に慣れるんじゃない?」
なんでも悪用しようとする人は出る。思いもよらない事は、必ず起こるから、順番に発展していけば、対応策も発達していくはず。
それに、個々の伝達方法の良いところが、それぞれある訳で。ラジオが今も残っているのも、ラジオの良さがあるからだろう。インターネットラジオになったりしてるけど、外で農作業しながら音楽番組聞いたり、家族で同じ番組観ながらご飯食べたり。
技術の階段抜かしは、竜樹には怖く感じるのである。
「概念といえば、全く新しい概念に気持ちが躍るほど興奮しています!でもやっぱり、どうがやしゃしんを撮って送ったり、ねっとにあげて見てもらったりもしてみたいです。」
おいおいね、おいおい。
「それで、画面の同期と共に、まずは実現して欲しい技術があります。」
何ですか、それは?
「監視カメラ、必要だと思うんだよね。」