おぼん
「まぁまぁ!良くいらして下さったわ、竜樹様、そして私の可愛い王子達。マルサも元気そうね。」
ニコニコとマルグリット王妃は笑う。昼寝後、さっぱりと顔を洗ったばかりの竜樹と王子達を、落ち着いた一室、お茶の支度がされた円卓で迎えて。カメラマンのミランと、タカラと、護衛のマルサも。
「細かい仕事もあって、ちょうど疲れてきた所だったの。どうかお茶に付き合って、ゆったりとお話しして頂戴。」
竜樹達を迎えにきた侍女さんが、微笑みつつ、お茶請けを用意する。
「はい、王妃様。俺の、ビーサン欲しい話につき合わせてしまって、すみません。でも聞いて下さって嬉しいです。」
「一緒お茶、久しぶりですね、母上。」
「マルグリット様、ごきげんいかが?」
「マルグリットさま、おちゃ、しましょ!」
「うんうん、久々ね、ごきげんいいわよ、一緒お茶、嬉しいわ!」
マルグリット王妃に促され、円卓に竜樹も3王子も座る。
アイスを食べちゃったので、お茶請けはほんの少し、クッキーを1枚くらい、と遠慮して。王子達はそれでも嬉しそうに、ソワソワとお茶が入るのを待った。
「竜樹様に教えていただいた、コーンのひげ茶よ。初めて飲むわ。いただいてみましょう。」
「「「は〜い!」」」
侍女さんが白磁に花模様の美麗なカップに淹れてくれたお茶を、コクン、と飲むと、甘くて香ばしい、コーンの風味。美味しい。
「•••捨てているもので作ったとは、思えない味ね!美味しいわ〜。」
「「「おいしー!」」」
皆で、しみじみ、する。
「利尿作用があるので、むくみとかに良いんですって。沢山飲み過ぎは、お腹が緩くなる事もあるかも?まあ、何でも過ぎるは良くないですね。」
へえぇ〜なるほどねぇ、これも、売り出してみたいわね。
マルグリット王妃が控えた侍従さんに目配せすると、心得た、とばかりにサラサラリ、メモをとり、準備は万端です、と、キラリ。
「さぁ、ビーサンなるもの、是非教えて下さいな!」
「このように、素足に履いて、川や海の水辺や、プール帰りに、足がムレないしサラッとしてて、いい感じなんです。鼻緒の所と、底の、好きな色を選んで組み合わせしてくれる店なんかも、あったかな。」
竜樹がスルスル、と魔法で張られたスクリーンにスマホを同期して、ビーサンの写真を沢山見せる。
ゆるっとした気楽な履き物に、良いわねぇ、とマルグリット王妃も同意する。
「なるほど。私も、ずっと執務しながら、人と会ったりで、足がむくんだり重くなって、靴脱ぎたいわ〜、って思う事があるのよ。マナー的には良くないんでしょうが•••。」
「サンダルが履けると良いんですけどね。執務室の中なんかだったら、靴を脱いでサンダルでも良いのじゃないですか?」
どれどれ、レディースサンダル。
ミュール、とも検索して、より女性らしい可愛らしいものも。
マルグリット王妃が、うわぁ!と瞳を輝かせて、写真に見入る。
お花の飾りつき、甲の部分やヒールが透明で涼しげなもの、ヒールのあるなし、皮のストラップで可憐に、甲を荒く編んだ布で太く覆って、つま先を開けて底を厚く機能的に。
「か、か、かわいいぃ!」
「すてきね、さんだる。」
「みゅーる、っていう方が、可愛いの多いんだね!」
「貴族女性は、どうして裸足がタブーなんだろね?」
うわぁ、うわわぁぁ、と手を胸の前で組んで、マルグリット王妃は瞳をキラキラさせた。
「履きたい!そうよ、何で裸足がタブーなのよ!私だって、今日から皆が公の場でも裸足で、とは思わないけれど、夏の間だけ、とか、小さな夜会やお茶会で、それからミュールを履くのが決まりのミュールデー、なんて、区切ってなら!いいえ、私が自ら履いて、普及させるわ!」
女性にもっと自由を!
フン!と意気込む。
「やっぱり王妃様が、この国のファッションリーダーなんでしょうか?」
王妃様が着れば、皆も着たがって流行る、みたいな。
「ええ、そういう面もあるわ。他にも、おしゃれ好きな方、沢山いらっしゃるけれどね。竜樹様の世界では、そうではなかったの?」
「ファッションが注目される王族の方も、勿論いらしたけれど、主には芸能人とか、スラッとした長身で美しいモデルさんとかがいまして。ファッションショー、っていうのもあって、デザイナーが、ファッションの最先端の服、少し季節を先取りしたのを発表して。」
「•••ファッションショー。」
ええと、こんなのです。
動画で、ファッションショーを皆で見る。一つ前のシーズンの、春夏コレクション。背筋良く、闊達に歩き、涼しげに、華やいで、圧倒的な迫力で服を見せつけた、美の使徒達。
「•••竜樹様の世界の女性、男性も、大きい方いらっしゃるのね•••。」
マルグリット王妃が、言葉を選んだが。
「ぜんぜん、ししょうと、ちがうね。」
ニリヤは正直モノである。
「うん、俺はふつーの人だからねぇ。美しいモデルさんとは違うヨォ。」
「竜樹は、良いお顔だと思うよ。」
「「おもうー!」」
「ありがとありがと。」
ニカカ!
そして、とてもとても、ファッションショーは創造的で、美しい。
「夏のファッションショー、やりたいわ•••。」
「今から?」「今から!」
マルグリット王妃は、やる気満々だ。
しかし、初夏も過ぎた今、夏物をやるのは遅すぎる気もするし、関係各所が特急でゴタゴタするかも。
何でも実現バーニー君は、ファッションには関わらないだろうが、もう!もう!とプンスカ怒る姿が見える気がする。
「デザイナーや職人さんが、夏休み、とれなくないですか?」
「夏休み???」
なにそれなにそれ。
夏にお休みするなんて、それちょっと良いじゃない。
「このお国では、夏休みないんですか?」
竜樹が不思議、と聞く。やっぱりこの国でも夏は暑いし、皆、身体にもくるだろうし。
「冬は、年末年始、出稼ぎに来た者達が帰省したりで、お休みはあるのよ。でも夏は、この国では、お休みしないの。農業は作物に左右されるし、夏野菜なんてあるでしょう。物流は止める訳にいかないしねえ。」
「夏休み、皆で交代に休めば良いのになぁ。暑いと身体にもくるでしょう?物流は確かにだけど、時止めの倉庫や、運搬の為の時止め馬車を作って駆使したりして、できないのかな。農家さんは、確かにお休み難しいかもですが•••。あ、夏休みにも働きたい人や学生に、バイトを頼めば良いのかな。王族の方達は、避暑で、ご旅行とか、なさらないんですか?」
むふん。
「竜樹様•••竜樹様の世界の、夏にどんなものがあるか、是非是非もっと教えて下さらない?」
ターゲットはオンされた。
マルグリット王妃は、夏休みの概念を手に入れた!
これはハルサ王様も呼びましょう、となって、ちょっと暑気にあたってショボ、とした王様がやってきた。コーンのひげ茶を、すぅ、と美味しそうに飲み、ホッとして、嬉しそうにクッキーをポリポリ食べつつ。
「夏休み、良いなぁ。調整はしなければだろうが、休みは取ろうと思わないと、結局ダラダラと働いてしまう気もするし。私たちの場合、何でも仕事になりがちだしねぇ。」
「ええ、ええ、思い切りも必要ですよね。」
それで、ビーサンとかサンダルとかミュール?はどんな物なんだい?
との王様に、再びスクリーンで見せる。
「ほうほう!なかなか素敵じゃないか!この、足の爪が、真っ赤なのはちょっと派手すぎるけれど、そこもおしゃれできる訳だな、素足が見えるミュールだと。あ、この爪は、自然なピンクで、ツヤツヤでいいね。」
王様は、素足に目線がいくらしい。
「なかなか見られない部分だからね。魅力的だな、と思うよ。」
見るところが人によって違うのも、面白い。
足のおしゃれ!とマルグリット王妃は浮き立つし。
「ああ、私も、この男性用サンダル、執務室用に欲しいな!すごく楽そうだ!」
ハルサ王様も、サンダルには興味津々だ。
「このサンダルやミュールを履いた時に、合ってるファッションてあるのかしら?」
「そうですねぇ。俺はファッションには疎いんだけれど•••涼しげでさっぱりしたものが、やはり合いますかね。あ、あと、浴衣や、そうだ!甚平!甚平欲しいなぁ!風呂上がりなんかに着る、ゆったり着なんですが。浴衣には、ミュール合うと思いますよ。」
浴衣や甚平は綿や麻で、涼しく作ってあるもので、浴衣は簡単な夏のお出掛け着にもなって•••。
「浴衣、何て大胆な柄なのかしら!素敵!シックなのも、涼しげで良いわねぇ。」
「締め付けが全く無さそうで、甚平も良いな!私も欲しい!」
「こどものも、あるの!」
「ここの、お腹のとこの布が、ヒラヒラしてるね。」
「うん、それは兵児帯っていうんだ。簡単に結べて、可愛いだろ?」
「男の子でも、へこおび、ヒラヒラが後ろでかわいい〜ね。」
うんうん、夏らしい、薄い帯は、金魚の尾っぽみたいだよね。
金魚すくい、射的、花火に夏祭り。
「•••竜樹殿のお国では、夏に遊びが沢山あるのだね。夏休みがあるからかな。」
「そうですね。お盆もあるんで、皆、夏休みに実家に帰ったりして、郷里でご先祖様をお迎えするんです。盆踊りしたり。」
「おぼん?」
こちらでは、そういう感じの行事はないのだろうか。
「お盆の期間は、亡くなった人の魂が、1年に一回、こちらの世界に帰ってくる、と言われているんですよ。迎え火、って言って、小さく火を焚いて目印に、ってお迎えして。お盆の期間が終わったら、送り火、ってまた火を焚いて、お墓に送ります。」
「亡くなった人の魂が•••。」
「かあさま、あかちゃん、くる?」
ニリヤが、竜樹の袖を引っ張って、聞いてくる。
「魂は、くるかも?ここにいるんだなー、お盆が明けるまで、ゆっくりしていってねー、私たちの事を見ていってねー、って、お迎えしてお祈りすれば、ね。良いんだよ。」
「おむかえ、•••する!」
フン! ウンウン、とニリヤは真剣に頷く。
もちろん、こちらの世界で奇跡があったように、本当に皆、姿を現してくれる、なんて事はないのだけど。そしてお盆をやったからとて、こちらに来てくれるとも、限らないのだけれど。
「先祖がいなければ、生まれて来なかった自分達が、亡くなった人も近しく心の支えに思って、生きていく。•••そんな行事になりますかねぇ。俺は養子だけど、母方や父方のじいちゃんばあちゃんの家に行って、このウチの子になったよ〜ナムナム、なんて、祭壇にお祈りをした覚えがありますよ。」
ハルサ王は、ふ、と黙って想いを馳せている。亡くなったリュビ妃と、産まれる事がなかった、アンジュちゃんにだろう。
マルグリット王妃が、それを、そっと見守っている。
「•••おぼん、いいわね。やりましょうよ、あなた。」
ぽん、とハルサ王の背中を叩く。王様が、今、誰の事を思っているのか、皆、知っている。
「•••良いのかい、マルグリット。私はいつまでも引きずる、女々しい男ではないかな。君にも気を遣わせて。」
ショボ、と王様はしょげる。
「すぐに切り替えて忘れる方が、おかしいですわよ。あなたは愛情深い人ね。一緒に、ご先祖様や、リュビ様、アンジュちゃんをお迎えしましょう。」
マルグリット王妃様は、とっても良い奥さんで、お母さんだ。
「そうそう、夏には、夏ギフト、お中元って言うのもあって、お世話になっている方に、季節のデザートなんかを贈ったりもしますね。貰ったら贈らなきゃとかあったりしたし、やらなくなってきてたけど、そこの所はうまく義務にしないようにして、贈りたい人に、連絡とるきっかけに、たま〜に贈ってみるくらいの感じにしたら、どうかな。暑中見舞い、っていう、夏の季節を感じさせる絵ハガキを、送り合ったりもしたんですよ。あ、夏のギフトのお礼は、絵ハガキでもいいかな!急に夏休みやお盆って言っても、全員が全員同じには出来ないだろうから、そういうのもあって、夏の思い出に、時折遠くなった人ともやり取りできると、いいですね!」
竜樹は、ハルサ王様が黙っていても大丈夫なように、一生懸命喋った。
「良いわね!先王様と、王太后様も、お呼びしましょう!あのオシャレな王太后様なら、きっとミュールを履きたがるはず!諸々、全て、ちょっと考えてみましょうよ!どれができて、どれができないかは、皆に話して決めてみましょ!あ、ビーサンもね!」
まずは、宰相とデザイナー達と靴職人と商人を呼ばなければ!
マルグリット王妃が握り拳をつくって気合いを入れた時。
ぶるるらる。
神々の庭に、メッセージが。
更新をお休みしている間に、このお話を読み直して、登場人物や設定資料の覚え書きを少し直したり足したり。
そして、細かい所を修正しましたが、お話には全く変更ありませんので、読み返さなくても大丈夫です。
ボンのお母さんグラン公爵家夫人シエルと、シエル・フードゥル元王女の名前が一緒なのは、しまった!案件なのですが、現実でも同姓同名あるしな、なんならボンのお母さんと元王女を、芸術を介して会わせてみてもいいな、と。
失敗を失敗じゃないように何とかもっていって見せかける、そんな作戦です。




