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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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照れ臭くて甘い

竜樹は剥いたヤングコーンを、子供達から回収する。お昼のおかずに、さっと揚げたのを追加しよう。時止めの魔法のかかった、バットを作ってもらったから、揚げたてを食べてもらえる。


交流室の隅っこでは、ピティエ達が呼んだ、吟遊詩人のロペラが、ポロポロリン、とリュートを奏でている。子供達の様子をニコニコと見て。


元気な子供達の中で、ふと、沈んだのが気になった。


ピティエである。

ヤングコーンの皮剥きも途中に、背を丸くして、考えに耽っているよう。


「どうした〜ピティエ。今日、ラジオの録音するから、本番前に何か考えちゃうのかな?」

はっ、として、ワタワタと皮剥きをしてしまうと、また顔を俯けて、ショボ、と声を出した。

「竜樹様•••。」

「うん?なんだい?」



「竜樹様が、私みたいな視力が弱かったり、どこか弱い者を助けて、優しくして下さるのは、どうしてなんですか?か、可哀想に、哀れに思うから•••ですか?」

絞り出した!といった、真剣な声で、拳を握って、聞いてくる。


しん、と部屋が静まる。王子達も、アルディ王子も、エフォールもプレイヤードも、ジェム達も。

視線が一斉に竜樹に集中する。


ふむふむ。

これはちゃんと話をせねば、なるまいよ。


「そうだなぁ。」

ピティエのすぐ側に座る。

ヤングコーンをタカラに任せる。

「理由は一個じゃなくて、色々あるんだけれど•••さ。簡単に言えば、人が助かる事をやるのが、自分のためになるから、だね。」

「自分の、ため?」

俯いたピティエの顔は、暗い。


「そう。人って、誰でも、自分のやりたい事をやっていたとしても、最終的には人のためになる事をした時に、色々なものをもらって生きてるでしょ。たった一人で生きている人は、なかなかいないよ。お金だけじゃなくてさ、気持ちのやり取りも。例えば、農作物を作っている人は、自分達の分だけじゃなくて、他の人の分まで作って、それを買ってもらってお金にする。お金だけじゃなくて、美味しいよ、とか、お手頃だな、とか、人が欲しいものを作る事で、成り立ってるでしょ。それはね、喜びがあると思うんだ。」

「欲しいもの•••。」


「人のためにやってるんじゃないような、音楽をやってたり絵を描く人なんかだって、続けていくには、誰かに聴いてもらったり、絵を買ってもらわなきゃ、気に入って、喜んでもらわなきゃだよね?人って、人と関わらずには、いられないんだ。」

ピティエの手を取り、ギュッ、ギュッと握る。

ポロリン、とロペラのリュートが響く。子供達の真剣な問いに、少し、微笑んで。


「自分の事を全部自分でできる人は、いないんだよ、ピティエ。洋服ひとつとってもそう。誰かが作ってくれなきゃ、着られない。自分で縫ったとしたって、じゃあ布は?誰かが織ってくれなきゃ。素敵な服だね、って言ってもらえたら、どんなに嬉しい事だろう?完璧な人なんていない。誰でも、誰かの助けが必要で、それはぐるぐるめぐってる。世界は完璧じゃない。いつだって、どこかで、足りない事があって、誰かが何かを求めてる。自分はその中で、何をする?何ができる?って、俺が自分で考えた時、目の前にあった事をひとつひとつこなしたら、皆と巡り合った、って感じかな。」

「••••••。」

ぎゅう、とピティエが手を握り返す。


「アミューズが目が良く見えない、ってわかって、今の世の中じゃ、そういう子たちが肩を狭くして生きてる、って知って、そうしたら、何とかしたい、って思うでしょ?俺は神様じゃないから、自分のできる事しかできないけど。世の中を、ほんの少し、良くして次に繋げたい、って、大人のやる事だから。それに単純に、皆といると嬉しいから。俺の居場所だな、って思う。気持ちを受け取ってもらえる、って、とても嬉しい事で、呼吸と一緒で、吐いて、吸って、生きてる。自分も大事にしなきゃね。気持ちや行動を発して、誰かのした事や物、気持ちを受け入れて。そのやり取りは、一生続くから、無理はしなくていいんだ。その時その時で、出来ることをすれば。」

「私達を、可哀想には、思わない、ってことですよね?竜樹様は、そんなふうに、私たちを、見下したり、しないですよね?」


うんうん。

「思わないよ。可愛いな、って思う事はあるけどね。かわいい、って、愛すべき者って意味。そんな気持ちがあるよ。ただ、可哀想、って、人が自分勝手にばっかり生きないためのシステムだから、それも利用しちゃえば良い、って俺は思うけど。」

「利用する?」

「うん。可哀想でしょ、慰めて!で元気になったら、ありがとう、がんばるね!で良くない?まぁ、あんまり可哀想ばっかり言われても、腹立つかもなあ。」

うんうん。


ぱち、ぱち、と瞬いているピティエは、ギュッと竜樹の手を握り返すままに、ちょっと頬に血を上らせて、ふす、と鼻息を吐いた。


「納得いったかい?」

「•••はい。少し、難しかったけど。私も、誰かのためになる事、できるかなあ。」

「できるよ。ラジオがあるじゃない?元気出して、もりもりご飯食べて、午後、頑張って!」

「はい!」


わちゃ、とざわざわした雰囲気が戻って、笑う子供達に、タカラやミラン、マルサ達大人組の、微笑ましいものをみる眼差し。


コーンはヤングも美味しいのだ。

ヤングって、ちょっと照れ臭くて、甘いのだ!



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