チリと朝食
「おおおおはようございます!わたくしチリ、ギフトの御方様がお呼びとあらばいつでも駆けつけます!じゅうでんしますか、すまほ見たいです!」
もぎゅり。
朝のパンとスクランブルエッグを食べていた竜樹とニリヤ、マルサは、突然のチリの来訪に固まった。
「おや朝食中ですか。お、美味しそうですね。パンが白い!?」
料理長達は早速パンを白くしてきた。日本で食べるほど柔らかくはないが、噛み締めるほどに香ばしい美味しさである。
「チリ朝ごはんくらいは食べてきて下さいよ。あなたのことだから、すまほを触れると思って、昨夜から今か今かと興奮してたんでしょうが、竜樹様にも都合があります。」
取り皿を新しく差し出し、パンとお茶をチリに出した。
「せ、席に着いても?」
「どうぞ。」
竜樹が促し、ハムはチリの分ありませんからね!とミランがチーズだけ皿に乗っけてやった。穴あきのハードな美味しいやつである。
「パンとチーズがあれば、大体何とかなります。むしろ葉っぱとか、いりません。葡萄酒があれば豪華な晩餐になりますね!」
「それはダメです、チリさん。」
何でです?もっちもっち、パンを噛み締め、あ、おいしい、と首をちょこん。傾けた。
今朝、竜樹達の朝食は、大皿に乗って届いた。
昨夜から銘々取り皿に取って食べる方式で供される食事は、残ったら残ったでいいですからね、多めに作りました!と伝言つき。
余分に取り皿もあり、誰かがご相伴に預かっても問題ない、つまりニリヤが分けてもらって食べても、それは竜樹の自由という事である。
大皿の食事は、バランスのとれた献立だ。
「調子が整ったり、朝から頭が良くまわったり、よく動けたりするんですよ。葉っぱとかお肉とかパンとか満遍なく食べると。」
「な、なんと!お通じなんかにもいいですか?」
チリ、食事中ですよ!
ミランはため息をついて咎めるが、竜樹は「自由に喋りながら食べようよ。」と宥めた。
「繊維質はいいっていうよね。野菜ね。」角切り野菜の炒め煮をよそってやろうと手を伸ばす。私が致しますとミランが綺麗に楕円に、皿を飾る。
竜樹も卵のおかわりをした。
「ぼくも、もういっかいたべても、いいの?」
じーと見つめるニリヤのお皿にも、2回目をよそう。
ヨーグルトあるかなぁ。
無かったらヨーグルトの作り方を調べて、今日は色々スマホを使う所をチリさんに見てもらおう。
「今日は一日、チリさん大丈夫ですか。」
「一日と言わず、毎日でも。パンも食べられるし。すまほも見られるし。」
「凄い、絵が動いてる、分かりやすい、何なんだ、この小さい板は?」
料理長達にレシピの動画を見せる。
レシピを渡すのはいいのだが、例えばツノが立つまで泡立てる、とか、どのくらい?ってなかなかやった事なければ分からないのである。見た方が早い。
チリさんもミランもマルサも、そしてつま先立ったニリヤも、みんなして首を集めて覗き込む。ぎゅうぎゅうだ。
「ただ、何を話しているかはわからないんだよな。御方様の国の言葉かい?」
あ、そうなんだ。スマホを通した日本語は、翻訳されてないんだな。
と、いうことは。
「はいはい皆さん何か喋って下さい。撮りますからね〜。」
ぐるーり、スマホのカメラを回し、では料理長一言。
「一体何を始めたんだ?取るってなにをだ?」
「竜樹様?遠くのご家族とお話しされた時の感じですか?どこかに繋がってるんです?今。」
「ワハハ〜俺マルサ、よろしくな!」
「何と何と、イヤイヤあの時と波が違っていますよ、これは何を?!」
「ぼく、ぼく?なにか、おはなししたらいいの?」
はーい終了。
撮れてる撮れてる。再生っと。
『〜ーーーー〜ーー?ー〜〜?』
「喋ってるな。」
「動いてる。」
「さっきの私たちですね!」
「なるほど!時を切り取って再現しているのですね!ムムムこれは!」
「ぼく、へんなこえ。」
自分の喋りを自分の耳から聴いてる声と、実際の声って違うんだよね〜。それはそうと。
「皆さんこの動画、言葉は分かりましたよね?」
「ああ、さっき通りに聞こえたぞ。」
「俺には違う風に聞こえたんです。これぞ外国語!翻訳されてないまんまなのかな。声は、その人の声って分かりますけど。」
「ああ、それはですね、ギフトの御方様の記録に載ってます。喋ってるままを聞きたいな〜と願ってみて下さい。」
ミランが言うので目を瞑り願ってみる。
(そのままが聞こえますようにー。)
「〜〜〜ーーー?〜ーー〜。」
「あ、外国語になった。」
「〜〜〜!ーーーーーーー!」
戻らないと困るな。
(翻訳されますようにー。)
「竜樹様?私の言葉通じてます?」
「通じた、今。」
良かった。
胸に手を当てて、ミランは、ふぅと息を吐く。
「これもギフトの御方様のお力のようなんですよね。切り替えがきくのは。多分、こちらの言葉を覚えられるように、だと思うんです。書き文字もわかる方も歴代の中にはいらしたんですが、竜樹様はお分かりにならないですか。」
うーんと願って、穴の開くほど羊皮紙のレシピを眺めてみるが、翻訳はされなかった。
因みにその歴代のギフトの御方は、元の世界で物語を書く職業に就いていたそうである。つまり、何らかの必要性がそこにはあるのだ。




