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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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閑話 アルトの幸せな時代

閑話ですが、1話で書ききれなかったので、ちょい続きます。

すみませぬ。


アルトは幸せな子供時代を過ごした。



「何よ〜!明日はお天気に決まってるわよ!だからこっちの布が薄いスカートがいい!」

「いや、俺は!そっちの、水色のスカートが、可愛くていいと、思う!」


何よ〜!

何だぁ〜!

むむむむむ!

じゃあ。


「「勝負だ!!!」」


父デフィ

母シェール


2人はとても仲が良く。

そして、何かと細かい事で喧嘩して。

やたらと細かい勝負をするのが、アルトの家のコミュニケーションだった。


「じゃあ、おれが、このボタンをどっちの手にもってるか、あててね!」


長じて線の細い美青年となるアルトは、子供の、母の半分ほどの身長だった頃も儚げな美少年で。でも中身はイタズラ好きな、常にどこかに擦り傷切り傷のある、やんちゃ坊主だった。


「私は右手の方!」

「じゃあ、俺は、左だ!」

「りょうしゃ、待ったなし、これでけっちゃく!いろんはないな!?」


うむ。うむ。

父も母も、真面目に真剣な顔で、アルトの前にギュッと両方の拳を握って力を込めて。一つずつ、頷いてみせる。

アルトは精一杯神妙に、コクリ、と頷いて。

両手をパッ、と開く。


「じゃ〜ん!!左!父ちゃんの勝ちぃ〜!!」

「くぬぅぅう!やられた!」

「うほほほ。やった!」


いつも父と母、2人の間に入って、勝負を取りもち、実況をし、決着をつけさせ、場を盛り上げていた。

父も母も、勝負が終われば、少しだけ悔しがった後さっぱりとして、勝者に従った。だからアルトも、近所の子供と喧嘩しても、勝敗が決すればさっぱりとしていたし、どちらかといえば喧嘩する側より、家でしているのと同じく、取りもつ側に立った。

ご近所のおばさん達は、アルト坊がいれば、喧嘩が大事にならないわ、とアルトを重宝して可愛がったし、子供達もアルトが言うなら、と、何だかんだ揉めたりくっついたりしながら、仲良く過ごした。


それが自然で、何の疑問も持ってなかった。


アルトが少し成長し、昼間は商店街の青果店で下働きをするようになって、ちょっとだけ変化があった。

青果店では、旦那さんと奥さんしか読めなかった注文書を、アルトが仕事のついでに、すらすら読んで見せたのだ。


「ア、アルト、これ読めるのか!?」

「?うん。旦那さん、読めるよ。」


何で読めるんだ!そういえば、値札なんかも、聞かれてすらすらと応えていたよな? 大人達に、詰め寄られて、不思議そうにアルトは。


「一回、レグ坊に、旦那さんが絵本読んでるの、見て聞いたことあるし。旦那さんが注文書、読み上げたりもするから。値札は、朝、旦那さんが言いながら書いてるから、すぐ覚えたよ。」


おれ、一回見たら、覚えてるよ。


レグ坊は旦那さんと奥さんの息子である。将来は、青果店を継ぐので、お高い絵本なども、古本だが買って読んでやっていた。店番しながら、皆でお守りをしながら。

旦那さんと奥さんは、顔を見合わせて。

「アルトは、もしかしたら、頭が良いんじゃない?」

「?」

そういえば、仕事も。一度見本を見せたり、大人がついていて、させたりすれば、その後、失敗がほとんどない。


青果店の旦那は、誠実で世話好きな人だったので。こんな風に頭が良い子が、青果店で見習いをやり、店員になり、そこで終わっていいのか、と疑問を持った。

「アルト、お前の父ちゃんと母ちゃんに、話をしなければ。」

「??なにかおれ、失敗しましたか?」

「失敗じゃないよ。良いことだ。」


その日の夜、アルトの家に旦那さんが来たが、話は出来なかった。母が帰ってこなかったからだ。


探しに出た父、デフィが、しおしおとした様子で帰ってきた。近所の男達が抱えた、母シェールの棺と一緒に。


立ちすくんで、家に入ってきた大人達を迎えたアルトに、父は、ぐぐぐ、と言おうとして言えない口の形をし。


「母ちゃん、馬車と喧嘩して、負けちまったよ•••。」


と、絞り出した。


アルトは、目を見張り、ゆら、ゆらら、と揺らすと。


「•••死んじゃう勝負は、しちゃダメだな。そうだよな、父ちゃん。」


「そうだ。しちゃダメだ。」


何度も何度も、アルトの頭を撫でて、男達が置いていった棺の側を離れない父だった。

青果店の旦那さんは、親切に、仕事をしながらも葬儀の支度を手伝ってくれた。

萎れている父デフィと。

何一つ見逃すまい、とばかりに目を見開いて、母シェールの遺骸の顔を、小さな手で撫でる、アルト。


見ちゃいられなかった、と家に帰った旦那さんは、奥さんに言った。


それでもやっぱり、アルトの子供時代は幸せだった。


父デフィは、しばらく落ち込んだが、アルトがいるから頑張れる、と毎日、大工として働き。

近所のおばさん達は、少し材料費より多めに払ったお金で、父子の弁当や夕飯を作ってくれ。

アルトは青果店の下働きを半日にして、家の事をやった。家事を覚えるのに、勿論、近所のおばさん達は協力的だ。


青果店の旦那さんは、言おうか言うまいか、考えあぐねて、アルト本人に聞いてしまった。


「アルト、お前は賢い。青果店で働くのが、勿体無いくらいだ。だから、俺の出入りのお貴族様にお話をして、もっと勉強ができるように、させてもらっちゃ、どうかと俺は、思ったんだが。」

思ったんだが、なあ。


金を出して、本を読ませてくれたり、だったら良いけれど。

「そこのお家はな、子供がいないんだ。常々、優秀な子がいたら、教えてくれ、と言っていて。養子に欲しい、と言われるかもしれん。だから、話をしてもいいか、どうか、お前の気持ちを聞いてからと、思ってな。」


ようやく2人で、生活を回し始めた父子に、酷だろうか。

それとも、父デフィも、アルトも、却って身軽になるだろうか。


アルトは、一瞬も間をおかず、答える事ができた。

「おれ、父ちゃんといるよ。勉強は、自分でやる。図書館に、通えば、勉強はできる。旦那さん、気にしてくれて、ありがとう。おきぞく様には、言わなくていいです。」


そうか。

ホッとした顔の旦那さんに、アルトは、にっこり笑った。


青果店の下働きで貯めたお金で、休みの日に、図書館へ行きカードを作って、興味のある事だけ勉強した。

楽しかったし、また家でも。


「だから俺は言ってやったのよ。今日の弁当は、きっと芋が入ってるに、違いない!なぜなら昨日、仕入れている所を見たから!とな!」

「おお!それで、どうなったの?」

「それがなぁ。入ってなかったんだ!芋は、夕飯用だった。」

「残念!父ちゃんの、負け〜!」

「ハハハ、負けた!」


父デフィは、母シェールとしていたような、些細な勝負を、周りの仕事仲間や、近所のおばさん達と、ちょいちょいするようになった。

微笑ましい勝負なので、温かい目で受け入れられていたし、アルトも嬉しかった。

「母ちゃんがいないからって、楽しくしちゃいけない、って事はない。」

と、思っていたからだ。


そんな風に2人に調子が出てきた頃、突然、父デフィが、女性を連れてきた。

母シェールに似ても似つかない、オドオドとした大人しい、青銀色の髪に目の。


「ラシーヌと言います。よ、よろしくね。アルト君。」

返事はせずに、アルトは。

いや、良いけど。別に新しい母ちゃんができても、文句はない。突然なのが、少し腹立たしいけど。

「父ちゃん、新しい母ちゃん連れてきたのか?」


今日はアルトが作った、スープと青菜の炒め物で夕飯だ。それを配膳する間に、父に聞いた。


「それが、男に殴られていたからさぁ。女を殴るなんて!と、ついカッとなって、そいつと喧嘩しちまったのよ。勝ったんだけど、そうしたら、じゃあお前がこの女の面倒をみるんだな!なんて捨て台詞で。」

勝負したら、ラシーヌが付いてきちまった。


天涯孤独な身の上だそうだ。

花街で働かされそうになったが、生まれつき心臓が弱いので、働けなさそうだ、歳もくってるし、と突き返されてきた帰り道だった。

男はラシーヌの父母が借金をした相手で、借金は返せたが利息分が払えず、なら娘を如何様にもしてください、と。


ふむ。

アルトは。

「勝負で勝って、それでついて来ちまったら、仕方ねぇな。」

「うん。仕方ねぇ。」

父子の意見は、全く単純である。


ラシーヌは、オドオドが治るまで、随分時間をかけたが。アルトが青年になる頃には、アハハ!と朗らかに笑い、父デフィと細かい勝負をし、アルトがそれを取りもって、盛り上げて、決着をつける。と、いつかのような関係性が築けた。

ちなみに、家事はできるが、アルトの方が上手い。





アルトをアランて書き間違えていました。

修正しました!すみません


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