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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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206/692

世界を知ってしまえば

『さて、そろそろ後半戦が始まります。フードゥル騎士チーム、1点、頑張って取ってほしい!どれだけ音と気配を感じて動けるか、カルネ王太子殿下を信頼できるか。魅せて欲しいです!』


『休憩時間におやつ食べたりはしないんだねぇ。俺だったら、疲れて何か食べたくなっちゃう。ステューはどう?』


『腹が重くなっちゃうだろ、ルムトン。ブラインドサッカーは、沢山走る競技だから。でも、少し甘くてしょっぱい飲み物飲んでるんだって。後半戦に向けて、水分と甘さ、汗かくからね、お塩も必要。酸っぱい果汁とかも入って、疲れた身体に、なかなか美味しいらしい。』


『なるほどねぇ。飲んでみたい!観客席でも、今日は選手達が飲んでいる飲み物と、同じ物が買って飲めるという事で、皆さんこぞって飲んでるようです。暑いもんね。何とここにも、用意されてますよ!飲んでみよう!』


『コクリ。む、うん、おお。こんな感じなんだ。確かに喉渇いてる時に、丁度良いかも。染み渡る感じします。さて、そんな事している内に、始まりますよ!』


『美味しいね。』


『まだ飲んでるのかよルムトン。ほどほどにね。』


商店街では、ラジオを聞く、立ち止まった人達が所々で団子に固まっている。何か食べたり飲んだりしながら、ワイワイと、そして、フードゥル出身の者などは、せめて1点!と願いをかけながら。そうだ、世界中全てが敵の訳がない。


「気合いを入れていけ!恐怖を克服し、音に身を委ねろ!耳を澄ませ、気配を感じろ!大丈夫だ!大胆に行け!お前たちは、ちゃんと慣れてきている!勇気を出して走れ!」

「「「はい!!!」」」


カルネ王太子の喝に、そうだ、そうだ、できる、俺たちだって!とフードゥルの騎士達は自分を鼓舞する。情けないままで終われるものか!



「じゃあ、後半戦も頑張って行こう!向こうも大分、気合い入れてきてる。油断なく、でも積極的にいこう!勝ってるからって、守りに入ったらダメだよ!まだまだ点とれる!全力で叩き潰す、それが試合の礼儀だ!」

「「「はーい!」」」

キリリと顔を。竜樹チームもオランネージュが締める。


ピィーッ!


後半戦、再開です!



フードゥル騎士達側からの攻撃。

チリリン、とボールが転がって、ドリブル。

あちこち力が入って、ぎこちないけれど、でも前半戦とは全く違って、間違ったっていい、とばかりに、大胆に。おどおどを捨てたフードゥルの騎士達。戦う事の訓練をしてきたのだから、俺たちにはできる。恐怖と戦いながら、果敢に攻める。


ニリヤが、「ボイ!」と、ボールを持ったイブリッドに戦いを挑む。

タタタタ。

軽い足音と声で。落ち着け。研ぎ澄ませれば、どちらから来るのか分かる。その時、リーニュが、こっち!と叫ぶ。ここでパスだ!


『おおお、おお!フードゥルの騎士達、連携取れてきた!出来たよ、パス!その調子!ああっ、ニリヤ殿下に取られた!』


タタタ!


ニリヤがボールを奪って、攻める。

「守れ!リーニュ、追え!速くない、追いつける!」

カルネ王太子の声に、弾かれたようにリーニュがボールの音を追う。

しかしニリヤも、すんでのところで、サイドボードにボールを当て、弾かせてアミューズにパス!

アミューズは、スラリスラリと騎士達を抜いて。

でも、やられてばかりじゃない、追いすがり、立ち塞がって。ゴールを阻止!できた!


「よし!攻撃だ!イディル、敵なし、右前に走れ!スティル、そのまま上がれ、走れ、走れ、走れ!」


ああっ!


『フードゥル側の初めての攻撃です!ゴールに近づく!ああ、もうちょっと、あああーゴールキーパーのロシェ選手、危なげもなくボールをキャッチしました。安心感ありますね。いやでも、凄いね。初めてやったんでしょ。フードゥルの騎士達。まだぎこちないけど、後半戦は前半戦と、ちょっと違うよ!』


攻めて。

守って。

接触して転んで、でも起き上がって。

汗でドロドロになりながら、不恰好でも、笑われても、何でも。


走れ!


1点、1点を!


ハルサ王様も王妃様も、タオル振り回して叫ぶ!


『後半戦も、終わりに近づいてきています!前半戦、フードゥル騎士達は10点取られたけど、後半戦はまだ3点。ちゃんと阻止できてる!明らかに上手くなってきています!』


1点を!


『時間的に最後の攻撃、フードゥル騎士達、走る!逆に竜樹チームは、体力が切れてきたかも!動きが鈍ってきました!流石に騎士達は体力があります!チャンス、あるかも!?アミューズ選手、ボールに向かいます!それを避けるイディル選手、パス、そう、そこ、ああっ、シュート!!!』


ぽーん。


大きく弧を描いて、ぽすっ、と。


ゴールキーパー、ロシェが、ゴールに蹴られたボールをキャッチした。


ピィーッ!


『試合、終了ーーーー!!!』


あああ、ああ。


1点さえも、取れなかった•••。


ガクリ、と膝をつく選手達。


悔しい。

悔しい。

もっと走っていたかった。

やればやるほど、分かってきたのに。

喉に血の味がする。走って、走って、何にもならなかった。


センターサークル付近に、ノロノロと集まって、竜樹チームと騎士達チームは握手して、平和的に勝負がついた。



「ぬははははは!」


悪そうな笑い声が、会場に響き渡る。

え!?とアイマスクを外したフードゥルの騎士達と、カルネ王太子と、そして観客席が驚く。

フィールドサイドに、竜樹が、そんなに大きな背でもないが、精一杯ぬぬんと立って、マイクを持っていた。


スーリールと撮影隊が、フードゥル騎士達の元へ、すすす、とマイクを持ち、近づいていく。収音マイクのふさふさも一緒に。


「敗れたな、騎士達よ。悔しいか。悔しいだろう!」


うっ、くっ。

奥歯を噛んで、ぐっと黙る。


「もっと時間があれば。そう思っただろう。段々成長してきてたものな。」

ぬふぬふ、と竜樹が笑う。


そうだ、もう少し時間が、あれば!


ニカッ、と更に竜樹が笑う。


「どうだ、成長したい、って気持ち、分かっただろ?」



あっ。



そうか。そうか。

もっと出来る。伸びたい。

そんな気持ち。

まだやれる。このままではいられない。狭苦しい籠の中にはいられない。


アイマスクを外したフィールドは、広くて、眩しくて、この中をちまちま中心で彷徨いていたのが、馬鹿みたいに。


「ギフトの御方様。竜樹様。•••私達が愚かでした。世界を知ってしまえば、このままではいられない。私達も、成長、したいです!」

「成長したいです!」

「すみませんでした!」

「自分の都合で、王女様達を閉じ込めてました!」

「うう、ううう•••。」


男泣きに濡れるフードゥルの騎士達に、竜樹は頷く。


「うん、うん。約束通り、王女様達は返せないよ。そして、成長したいって言うなら、どうしてもって言うなら、また来年、今度はもっと鍛えて、このパシフィストに、ブラインドサッカーで、平和的に戦いにくるのだな!次も我が精鋭達は、負けないぞ!!!」


「「「•••はいっ!!!」」」


竜樹様が一番、甘いよ。

カルネ王太子は、タハっと笑った。

そうして、ハグしようと、手を広げて近づいてくる竜樹を、笑顔でしっかり抱いて、お互いに背中をポンポンし合った。


観客席、弾けるような拍手である。


何とか、なった〜〜〜!



しかし竜樹も、甘いばかりでは、ないのである。

後日、オーブに頼んで、騎士達に夢を見せてやったのだ。

誘拐されたリーヴの、脅迫され父親と引き剥がされた恐怖。サン、セリュー、ロンの、絶対的安心感を奪われる悲壮。

フードゥルの騎士達は、ごめんなさい、ごめんなさい、と身体を小さく伏して謝った。


そしてカルネ王太子は、騎士達を免職にした。来年ブラインドサッカーで試合したければ、騎士職への再就職試験に受かれ!そして家で練習しろ!という、これまた甘いのか辛いのか分からない処分だった。


ハルサ王様に頭を下げたカルネ王太子は、「面白かったからいいですよ。でも今後はちょっと締めてね。」とニコニコ言われて、タハっと笑った。


大人が本気で丸く収めようとすれば、案外、何でもなんとかなるの、かもしれない。


「たのしかったねぇ。ブラインドサッカーのしあい。」

ニリヤがニコニコ、果汁の入った飲み物を飲みながら言う。


プレイヤードも、ピティエも、アミューズも。

「面白かった!いっぱい、自由に動けて、特に後半戦、すっごく楽しかった!!」

とニッコリした。








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