お尻かまれた
竜樹はツバメをよいよいしたまま、静かに歩き続ける。泣き声が途切れ途切れになり、ほあ、ほあ、ふにゃ、ふ、ふ•••。と寝入ったかな、と思ったので、シエルは、腹立ちながらもヒソヒソ声で「もう寝たのじゃない?赤ん坊降ろせば?」と声をかけた。
竜樹は無言で、ふるふる、と顔を振り、とん、とん、とツバメの背中を優しく摩り続け、歩き続ける。
赤ちゃんには背中にスイッチが付いていて、寝たと思ってすぐ下ろすと、オンになり、また泣き出すのだ。良く眠らせるには、寝入ったと思ってからも、しばらく抱っこしていてやらねばならない。
シエルは知らないので、思い通りに動かない竜樹にイライラした。
「ねえちょっと、聞いてるの?!」
シィーッ。
竜樹はシエルに、敏感なツバメを起こさないよう、説明もできず、ただ黙るように促した。
何よ!何よ!
しどけない姿のシエルを、一顧だにしない竜樹が、シエルは憎い。
子供達が起きるので、足をだじだじ踏むわけにもいかない。竜樹が、夜泣きの赤ちゃんを寝かせる者、特有の真剣さで、自然と出る圧力をシエルにかけているからだ。
ラフィネも姉エクレも、寝巻きだ。
しどけないのは妹シエルだけではない。
それも思惑の外で、しかも3人の女性の寝巻き姿に、竜樹はつゆほども反応していなかった。
それよりも大事な事があるんだよ。と、今にも言いそうだ。
赤ん坊ツバメを抱っこからおろしたら、隣に寝てやる!と妹シエルがジリジリしていると。
寝ているジェムが、回らない口で。
「ふ、ふ、ふぅわぁ、おえ、はららくか、いえがいーお!うあ!」
ラフィネと竜樹が、すすす、とジェムの元へ近寄る。
背中、ぽん、ぽん。
頭を、なで、なで。
ふ。 パチリと、目を開ける微かな、音にもならない気配がして、むくっ、とジェムが身体を起こした。
「た、たつき、とうさ。らふぃね、かあさ。」
速い鼓動、ドキドキしながら、必死で手を伸ばして、2人を探して。
「なんだい?」
「なあに?」
ツバメを抱いたまま、胡座をかいて座り込んだ竜樹の膝に、ジェムはポテンと頭を乗せた。ラフィネの手も握った。
ふー。
「ゆ、ゆめだった。よかった。いえが、なくて、まちに、いるときの。変なけものに、追いかけられて、お尻かまれた。」
「お尻、噛まれたのか。どれどれ。」
竜樹がジェムのお尻を、とんとん、と軽く叩いてやる。
「大丈夫だ。お尻あるよ。大丈夫だ。皆の寮だよ。」
「•••ウン。」
とん、とん、とん。
背中を、頭を、撫でて。
ジェムは、瞼を半分瞑って、ぱち、ぱちしていたが、ふー、すー、と深呼吸すると、パチリと目を瞑って、竜樹の腹を抱えて、頭をグリグリ押し付けた。
「竜樹とうさ、あし、かたいな。お腹は、やわこい。」
「はは、そっか。」
とん、とん、するのに合わせて、ジェムも自分で指をはた、はた、して。
気が済んだのか、布団と枕に頭を戻すと、ふすー、と息を吐いて、寝た。
妹シエルは、普段子供達の間で、偉そうにしてるジェムの、夢にうなされて不安な様子を見て、ニヤッとした。
何よ、まだまだ子供じゃない。明日になったら、からかってやろう、と。
姉エクレは、少し驚いた。家が無いって、どういう事?
竜樹は胡座をかいたまま、ツバメに充分トントンしてやり、そう〜っと、ジェムの横、布団に下ろして、自分も寝転び、ツバメの肩をとん、とん、叩きつつ、ゆっくりと、微睡はじめ•••ーーー。
「ちょっと!何であんたまで、そこで寝るのよ!」
「シィーッーーー。」
ラフィネも、ジェムの隣に寝転んで、手を握ったところで。
妹シエルが、物言いをつけた。
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