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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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閑話 柊尚とぽん太くん

「こんにちは!小さな幸運を支払いにやってきた、ぽん太と申します。」


「はぁ•••。間に合ってます。」


違うんです違うんですよ!怪しいものではありません!

と、たた、た、と、たた!


道端でいきなり言われた。しかも周りをぐるぐると回られる。片足が悪いのか、不恰好にひいている。

立ち尽くす柊尚ひいらぎ なおが、その奇妙な少年と会ったのは、何となく惰性で続けていたバイトから、家へ帰る途中であった。


獣耳と尻尾をつけた、コスプレの少年•••しかし良くできている•••生きているかのように、ひくひく動いたりして、リアルな耳尻尾だ。ぽん太、と言うからには、タヌキなのだろうか?タレ目のまつ毛バシバシ、愛嬌のある美少年である。


『地域の皆さま、私たち小学生が帰る時間です。見守りよろしくお願いします。』

放送がエコーを引きながら鳴り渡る。

あー、そんな時間か。


「小学生は、寄り道せずに、お家にお帰り。」

森にお帰り、の方がウケたろうか。柊はあまりユーモアのセンスがない。


「小学生じゃありません。とう!」


ひょろりと長身な柊の、すっ、と長い指を、ぽん太は手に取り頭の方へ引っ張り。その、丸っこい耳を触らせた。

あ、あったかい?ビビビ、と震えるのが、生きてるようで•••て、「生きてる!?」

「はい、ぽん太は生きております。こことは違う世界の、ランセ神様から派遣されました!著作物を使ったお代を払いにきた、可愛い神の使い、ぽん太をよろしくお願いします!」

「は、はあ。」

ニコッ、とタレ目美少年ぽん太は、柊の手を両手で掴み、ギュッとしながら上機嫌だ。


「柊尚さん!まあ立ち話も何ですから、ぽん太行きつけの、素敵なお店に行きませんか?」

「悪い予感しかしない。」

最近の悪い人は子供を使ったり•••でも耳が本物だしな。


「幸運の予感ですよ!」

さぁ、さぁ!と手を引っ張られて、トコ、トコ、やってきたのは、いい感じに古びた喫茶店。

ドアについたベルが、カランコロンと鳴って、ちょっと可愛いポニーテールのウェイトレスさんが、いらっしゃいませ、と丁寧にお迎えしてくれた。


「サチさん、僕はホットケーキ。バターとメイプル、ホイップクリームたっぷりでお願いします。あとホットミルク。」

「はい、承りました。」

柊さんは、何にします?とぽん太に聞かれて、そういやお昼を食べてなかったな、と思い出し。

「サンドイッチセット、アメリカンで。」

「はい。少々お待ちください。」


ちんまりとしているが、背中がぴっしり立って姿勢の良い、おじいちゃんになろうかという年頃の喫茶店のマスターが、調理を始めるのを横目に。

ぽん太はウキウキ、ホットケーキを待っているが、話を聞いて早く帰りたい柊は、ぽん太を促した。


「で?著作物を使ったお代を払いにきた、って、どういうこと?」


「柊尚さんのお父様、柊達さんは、生前、クジラのお歌を作りましたよね。その歌の映像を使わせていただいたので、事後承諾になりますが、息子の柊尚さんに、ご挨拶と、使用料として、幸運を少々支払いに来ました。」

「確かに俺の父親は、クジラの歌を作ったけど、そういうの、どう使うか、とか、事前に許可とるもんじゃないの?それに、その映像は、昔その歌が流れた子供番組の、テレビ会社が権利持ってるんじゃね?」

俺に聞いても、権利持ってなくない?


柊の疑問に応えず、ぽん太は、届いた熱々のホットケーキに、ふわぁぁぁ!と歓声を上げ、まずは一口!と柊を待たせた。

誠に美味しそうに、ニコニコと舌鼓を打つぽん太だったが、その内に柊のサンドイッチセットも来た。サンドイッチには、何故か一山、ポテトチップも付いている。

うん、美味い。


モグモグと食べ、ぽん太が名残惜しそうに最後の一口を食べ切る。

柊は食事が速くも遅くもないタチなので、ぽん太とほぼ一緒に食べ終わった。


ふー。満足のため息ついて、両手でカップを持ち、ホットミルクをすすり。


「使用前に許可が取れなかったのは、申し訳なかったです。異世界で事前にこれを使うよ、と分からなかったからなのです。竜樹さんがフリーマーケットで、突発的に、披露したようですので。本来、こちらの世界では許されないとは思うので、竜樹様には、公に使う場合、なるべく事前に使う映像を教えて下さい、と頼みました。」

「異世界。」


はい、こちらの世界から見たら、異世界です。

す、す、すす。ミルクが熱くて飲めないらしい。


「私どもの世界、にこちらの世界の狭間から溢れて渡った人がおりまして。お人柄も良く、あちらの世界で、ギフトの御方様と呼ばれて、持っていたスマホを使い、知識と概念をプレゼントしてくれています。」

「それってちょっと著作権違反もある気配。」


そうなんですよね。

す、と一口啜っては話す。

「竜樹様は、怖い事や、元の情報を侮辱するような使い方はなさりませんけど、許可は得たいですよね。あちらの世界に行ってしまったとしても、こちらの著作権を守りたい、と情報の神、ランセ神様は思われました。なので、異世界で見せますよ、という事を説明して、私どもに出来る事で、ですけど、著作権を持っている方、どなたにも喜んで頂けるような、少しの幸運を支払いする事にしたのです。」


ふーん。


「ぽん太は有能ですので、今までのところ、幸運払いは、拒絶された事はございません。それと、ランセ神様は、作ったモノの権利を持っている会社だけでなく、ちゃんと作った人にも幸運払いするべき、と思われました。なので、柊達さんの分を、息子さんの柊尚さんに支払いたいのです。」

「•••どうやって、俺に辿り着いたのか、とかは•••。」


柊の母は物心ついた頃からおらず、子供の頃はふらりふらりと旅を繰り返す父親に連れられて、世界中を旅していた。学校は行ったり行かなかったりで、その内、父親が事故で亡くなった。

父親の弟、とされる叔父は、葬式を出してくれ、柊を引き取ってはくれたが、ハッキリと「愛情は求めてくれるな」と言った。仲の悪い兄弟だったらしい。叔父は良く、兄さんは俺に家を押し付けて自分は自由に生きた、と愚痴を言っていた。

父と叔父は、家を押し付けたりできるような、いい所の出だったらしい。金は潤沢にもらえた。


20歳になった今は、一人で住んで、手慰みにバイトなどしている。金はあるのだ。今でも叔父から金が渡されるし、父の残した保険金がある。しかし働いてないと、碌でもない者になりそうな気がして。でも、それでいて、大学などに進んで、という気力も無くて。

友達も、おらず。

叔父くらいしか柊の住所を知らないのに。


「そこは、神様ですもの。」

ニコッ。ぽん太は胸を張る。


「はぁ。分かったよ。で、幸運払いを貰いさえすれば、帰っていいんだね?壺買えとかじゃないよな?」


途方もない話だが、あの、血が流れているとはっきり分かる獣耳で、信じられないものも、信じるしかない。


「はい。それで、幸運もご要望を一応聞いています。神様の幸運は、ご本人が思っている幸運と違う場合もありますので、絶対ではないです。ですが、一応、一応、聞いております。」


どのような幸運を、お望みですか?

首を可愛く傾げて、聞いてくるタヌキ•••ぽん太に。


言われて、柊は、ふと考えた。

何が幸運なんだろう。

自分にとって、何が。



普通の家庭が欲しい。


それは渇望だった。

出かける時に、ほっとする家から見送って欲しい。

誰かに、自分を見て欲しい。

そして、そこに帰りたい。

自分も、その誰かを、見ていたい。



「さみしい•••。」


ぽつ、と口から出てしまった言葉に、ああ、いや、何言ってんだ。と恥ずかしく口を押さえるが。


ピカリン!

ぽん太は嬉しそうに、顔を輝かせてピョコ!と椅子から飛び上がる。


「いいです!いいですね!幸運のうちでも、なかなか良い幸運を選びましたね!では、では、早速!」


サチさ〜ん!!


何故かウェイトレスさんを呼んで。


「ぽん太君、おやつのお代わりは、ナシだよ。食べすぎです!」

サチと呼ばれた少女は、むん、と腰に手を当てて、ぽん太にめっ、とする。

「違いますよ〜。お仕事です。ねえねえ、サチさん。この方、竜樹さんの著作権幸運支払いの対象の方なんですけど、さみしいんですって。」


あわわわわ。

こんな少女に、いい大人が、さみしいだとか!

柊は顔の前、ワタタと手を振って、いや、いや、そんな!と恥ずかしがった。


「お客様、さみしいの?」

サチが言えば。


「柊さんです。」

ぽん太は、うんうん、と頷き、ドヤァ、な顔をしている。

柊は顔が赤くなるのを感じ、目を伏せる。この時間、速く過ぎろ!晒し者は辛い。


「柊さん。じゃあ、今夜ウチにご飯食べに来なよ。ぽん太君の紹介なら、悪い人じゃないから、信用してるよ。母と父と兄もいるけど、賑やかな方がいいよね。」

「えっ!?え•••?」


ぽん太も食べます!

今日のご飯は何かなぁ、なんてウキウキするぽん太に、柊は、めっ!としてやりたかった。




「いらっしゃい!柊さん!ぽん太君!」

サチの母、マリコが出迎える。スマホで先に連絡がしてあって、突然の見知らぬ人の訪問にも、ニコニコ顔の家族達である。

サチの兄、コウキは、エプロンをしてお玉を握ったまま、玄関まで来て出迎えてくれた。マンガか!とツッコミ入れたかった。サチの父は、くつろぎ着で、ようこそようこそ、なんて言っている。


「ヘェ〜、柊さんは、小さい頃、世界中を回ってたんだ。」

マリコがご飯をよそいながら。

この家では、自分で食べたい量を自分で盛るのが決まりなので、炊飯器の前に軽く列が出来る。

柊もこの家に来る事になったのは、何故、何故か、と疑問に思いながらも、しゃもじを渡されて、控えめにご飯をよそった。

「はい、父が、一つの所にいると、飽きちゃう人だったので。大人になってからは、旅はしていません。」

益々、さみしくなるようだから。

帰る場所が、わからなくなりそうだから。

とは、口にしない。


「「「いただきま〜す!」」」

いただき、ます。と柊も。

肉入り野菜炒め、油揚げの焼いてチーズ挟んでカイワレ入れたのを醤油で。サラダに、味噌汁。

お客さんが来るから奢ったものを、ではなくて、本当に普通の、家庭のご飯だ。


ぱくり。

野菜炒めを取って、ご飯茶碗の上に乗せて、ご飯と、もりっと食べる。


あ。美味しい。

普通に美味しい。

家庭の味だ。こういうの。

こういうのが、欲しかったんだ。


「柊さん。いっぱいあるから、ゆっくり食べなよ。」

シュシュ、と、そこら辺にあるボックスティッシュから何枚か抜いて、サチが渡してくる。


「ひゃ、ひゃい。」

ずび。鼻を拭いて、何故か流れた涙を拭いて。

父母コウキ、サチ、ぽん太の5人は、柊をそっとしておき日常の会話などしている。バイトどうよ、とか母が、俺はバイトで中華を極めたる!とかコウキが、サチは疲れるけどやり甲斐ある、とか、父は、コウキ美味しくなったよ、とか。ぽん太は、美味しいしか言わない。わっせわっせと食べている。

ほっといてくれるが、柊の取り皿に、油揚げをよけといてくれたりする。

ゆっくりと食事が終わって、デザートに皮ごと食べられるブドウが出て。お茶を飲み。


その頃には、柊は、大分落ち着いていた。


母マリコが、ムフフ、と企んだ笑顔をする。

「柊さん、サチ、喫茶店でバイトしてるじゃない?高校生だから、夜は8時までにさせてもらってるけど、帰り道、もう暗いじゃない?」


「え、ええ。女の子だから、心配ですよね。」


得たり!と。

「そう、そう!防犯ブザー持たせてるけど、ちょっと心配。暗い所もあるしね。そこで柊さん。」

「はい?」


「サチのバイト帰り、送ってあげてくれない?」

報酬は、コウキの夕飯で。


柊は、何故、知り合ったばかりの俺を。

と、思ったけれど。


このご飯。

この家族と。


また、食べられるんだ!


「はい。俺で良ければ、送らせていただきます。」

その応えに、ぽん太が、ニハー!と笑った。


柊が、サチを気にかけるようになり。そして自分を振り返り、大学に入学し、就職し、そしてサチの恋人になり。畠中家にどっぷり浸かり。


といった未来を得るようになるとは、まだ、誰も知らないのだ。

ぽん太はニコニコしてるけど。



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