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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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194/692

自分のケツは自分で拭け

「フードゥル国、カルネ王太子殿下と王女殿下達がいらっしゃいました。」

「うむ。入っていただいて。」


ホロウ宰相が、間を取り持つように来訪を告げる。ドアを開けて、どうぞと促す。

「失礼致します。」


すっ、と入ってきたカルネ王太子は、ピシッと背筋を伸ばし、髪は蜂蜜で瞳は黒、胸板も張った、堂々とした美丈夫だ。それが、座っているハルサ王様と竜樹を見て、申し訳なさそうに目線を落とし、ーーー王子達と、ニリヤの頭でふくっとなっているオーブを目に入れると、!?とはたはた目を瞬かせた。


ハルサ王様は、立ち上がり威厳たっぷりにカルネ王太子殿下を迎える。

「カルネ王太子殿下、良くいらっしゃった。こちらがギフトの御方様、竜樹殿だ。それから、子供達の代表として、うちの王子達、オランネージュ、ネクター、ニリヤである。めんどりのオーブ殿は、子供達の守護をしておる神鳥である。お話を一緒に聞いても、構わないか?」

「•••はい。フードゥル国王太子、カルネと申します。本日は、我が国の代表として参った妹王女達のしでかした悪行を、謝罪しに参りました。ご厚情いただき、本日お話を聞いていただける事、深謝致します。」

胸に手を当て、頭をすっ、と下げて。


「ハルサ王様、ギフトの御方様、ご神鳥のオーブ殿、それから王子殿下。この度は、私共の国の王女達が、思い上がり賢しらがって、お国の子供達を辛い目に遭わせてしまった事、本当に、すみませんでした。悲しませた子供達に、直接お詫びをしたい所ですが、私や王女達が会いに行っては、怖がらせましょうから、どうかこちらでの謝罪で、ご寛恕下さい。」


うむ、まずはよろしい。といった風に、オーブが、「ココ、コッココ。」と頷きながら鳴いたので、ハルサ王様が、歩み寄りカルネ王太子の背中をポンポンと叩いて。


「まあ、まあ。まずは座って、落ち着いて話を聞こうではないか?竜樹殿、よろしいか?」

「ええ、お話しましょう。カルネ王太子殿下。」


厳しく追求されるもやむを得ない、と覚悟していたカルネ王太子は、話を聞いてくれそうな穏やかな雰囲気に、まずはホッと息を吐いた。ソファに促され、失礼致します、とカルネ王太子は座るが。

「お前達はそこで立って聞いていなさい。」

厳しく言いつける兄に、なんで!?と内心憤懣やる方ない姉妹王女達は、しかし喋ったら兄が本気で殺そうとしてくるかもしれないので、黙って従った。

ハルサ王様も竜樹も王子達も、それを放っておいたので、「何で王様達まで、座って良いって言わないのよ!?私たち王女よ!?」と、何のために今日の謝罪が行われているか、未だ王女達は考え至らなかった。


「まずは、遠方より、良くパシフィストの国まで参られた。お疲れではなかろうかな?」

王様が雑談から始めようと、切先を切る。

「いえ、こちらに着いてから、充分に休ませていただきました。突然の訪問を、快く許してくださり、感謝しております。」

「いやいや。休まれたなら、良かった。」

ふくっ、とハルサ王様が微笑む。

ハンドベルを鳴らして、侍女を呼ぶと、お茶の用意を頼んだ。

しばらくは、支度をゆったりと待ち、各人の前に茶器とお茶菓子が配られて、お茶しながらの話し合いとなる。


こりゃ、カルネ王太子は、まともな人だな。

竜樹も、うんうん、と話を聞きながら、ゆるっとした感じになったので。聞いてみた。


「カルネ王太子殿下。私は、王女殿下達にも言ったんですけれど、何故王女殿下達は、普通に、真っ当に、困ってる事や知りたい事を、お国を通して聞いてこないで、わざわざ人を貶めて策を弄するような事をなさったんですかね?普通に聞いてくれれば、モノによりますけど、応えたんですよ?」

心底わからない、といった様子の竜樹に、むぐぐ、とカルネ王太子は、言い難く口をむぐむぐさせた。


「•••その、妹達は、竜樹様を虜にして、我が国に連れ帰り、•••褒められたかったのだと思います。チヤホヤされたかったんです。我が国では、甘やかされて、皆が折れて言う事を聞くものですから、出来ない事はないように錯覚しており。申し訳ありません!!」

地味な竜樹に頭下げたくない、とは流石に、カルネ王太子も口に出来なかった。

そうなのだ。姉妹は、ギフトを連れ帰り、国の皆にやんやと褒めちぎられる未来を想像していた。自分達にはできる。我が国も発展し、ギフトを働かせて、この大陸で一番優れた国として、周りの国を、従えて。

昨夜それを話したら、兄のカルネ王太子に、はぁぁぁぁ!と深く、深くため息を吐かれた。


「何か•••考えが幼い感じなんですね。聞いてなかったですけど、王女殿下達、おいくつなんですか?」

「17と、18です。そろそろ嫁にも行って、家政を取り仕切るような歳です。言い訳はききませんから、即刻国に連れ帰り、影響力の少ない貴族に降嫁させるつもりです。子供達のお詫びに、我が国から、その、金で解決ではないですが、生活の足しになるよう、寄付をさせていただきたいとも、考えております!」

うんうん。金で解決、って言うけど、まあお金はあって困らないよね。


「17と18かぁ!ああ〜思春期ですね。そりゃ、こんな地味なおじさんに、頭下げたくもないか。私も思春期の妹がいるんですけど、甘えてくるけど干渉は嫌がって、難しい年頃ですよ。」


竜樹は妹のサチを思い出す。時々スマホのメッセージで悩みを相談してきたりするが、解決策を話すと何だかんだ文句つけて聞かない。話を聞いてほしいだけみたいなのだ。自分で頑張りたいらしい。サチは素直な良い子なのだが、今、巣立ちを迎えて、試行錯誤している所だ。誰にでもある時期。


大人になれば、自分で頑張りつつも、いかに周りの人に頼り頼られ、お互い様でやっていけるか、って所も大人力の見せ所となってくる。

こちらの世界の人たちは、身体の発育がいいから、王女殿下達は大人の女性かと思っていたけれど。この勘違い感は、甘やかしと王女の地位と思春期からきていたのか。まあ、あとは性格か。


「本気で叱ってくれるお兄さんがいて、良かったですね、王女殿下達。まだまだ、成長途中だったんだなぁ。責任も自分でとれないしねぇ。世の中を自分の手で思い通りに動かせる、なんて、錯覚だって、早いうちに知れて良かったです。そんなの神様だって出来ないですからね。」


何故。侍女長みたいにズバズバ痛い事を言ってくるのか。引き攣りながら王女達は、黙って俯いた。


「面目ありません。」

ショボ、とカルネ王太子がしょげる。

「いやいや、責任とるお兄さんは、辛いですよね。」

うんうん、と竜樹は頷く。

「だけど、私の世界の言葉で、ざっくばらんに言わせてもらえばですね。」

「はい。」


「自分のケツは自分で拭け、ってやつですよ。」


ニコリ、と竜樹は笑う。

「ほうほう。竜樹殿は考えがあるらしい。聞いてみましょうかな。」

ハルサ王様がお茶をすすりつつ、ニコ!と笑顔返し。


「と、言いますと•••?」

カルネ王太子も、向き直り。


「王女殿下達のやった事で、お詫びの子供達への寄付を、そちらのお国の民から集めた税金から払うのは、なんか違いますよね。フードゥルのお国も、援助を欲する子達は、沢山いましょうから、そちらへ当ててもらって。王女殿下達の、個人資産はありますか?」


ふむ、とカルネ王太子も、腕を組んで考えつつ。

「献上された宝石や、持参金に当てるために、王女達にあてがわれた領地の収入があります。宝石は貴族に売り払って、領地収入も合わせて、その金を使いましょう。」

うむうむ、とカルネ王太子も、頷く。

ええっ!?と王女達は目を剥き、兄王太子を睨んだ。


「•••何か問題でも?」

視線にキロリと厳しく返し、カルネ王太子は妹達を咎める。

話すのを許された、とみた姉妹王女が、口を尖らせて不満を。

「カルネ兄様!あんまりではありませんか!私たちの持参金が減ってしまいます!お支度にだってお金がかかるのだから、充分な嫁入りの準備が出来なくなります!」

「そうよ!たかが子供の1人や2人、泣かせた位で、大袈裟過ぎます!」


フゥッ! 即座に怒りを身に纏わせたカルネ王太子に、竜樹が、まあまあ、と手を振って。

落ち着いた口調で、竜樹は言い聞かせる。

「王女殿下達。あなた方のやった事は、技術や情報を教えてもらいに来て、賓客としてもてなされている他国で、戦争を起こすと言い、その国の子供を脅して泣かせ、また別の一般市民の何の罪もない子を誘拐し、手先に使おうとした、って事なんですよ。特に誘拐は、犯罪として裁かれるに値すると思われますが、率先してあなた方のお兄さんが、国を代表して謝って下さったから、両国間が緊張せずに済んでいます。先に叱ってくれる人がいて、頭も下げてくれるから、こちらが罪を問わずに何とかなってるんであって、それだと俺は納得できないから、せめてお金くらい自分の懐から出したらどうか、ってそれだけですよ。」

そのくらいの責任は、自分でとりなさいよ。


「誘拐なんて•••ちょっとお願い事をしただけです!」

「私たちは、ギフトの方とお近づきになりたくて•••!」

やった事を軽くみているエクレ王女に、媚びを売り始めた妹シエル王女。

むむ〜ん。

この王女達、全然分かってないな。


「あなた方に魅力があれば、持参金や支度が行き届かなくても、貰ってくれる方はいらっしゃるでしょ。お金を稼ぐって、大変なんですよ。それでも、両国が緊張して、もし本当に戦争にでもなれば、損失はお金に換算できません。」


「けんかしない、なかよくする、だいじ。」

「コココ。」

ニリヤがポツンと喋る。

オーブも頷く。


「それに、お金払って、無かった事にして、どこかにお嫁にいって、そこでまた王女だった感覚でチヤホヤを求めて優雅に暮らす、って、罰になるのかなぁ?どうです?カルネ王太子殿下。」

ぐるるる、と唸るようなカルネ王太子の声、そしてがくりと肩を落とす。

「はい。•••はい。確かに甘いです。反省もしていない。この馬鹿者達を、如何様にもして下さい。我が国では、この者達がどうなろうと構いません。」

「お兄様!ひどい!」

「何をするつもり!?この地味男!!」

やいやい言っている姉妹王女に、オーブがピカリン!と目を光らせて。


「コココ!コココッコ!!」

バサバサバッサー!

「きゃあ!!何よこの鳥!」

「やめて!イヤァ!」


ピシャリ!グリグリ。


「•••いったーい!!」


バサっと飛んだオーブの蹴りが、姉エクレ王女の眉間に、バッチリ入った。エクレ王女は、そこを押さえて、蹲る。いたーっ、と手を離し血が出てるかもと掌を見ると、血は出ていなかったが、眉間にはバッチリ、めんどりの足跡が残っていた。

これで姉妹共に、足形眉間レディである。


「ココ、コココ。」

パッサパッサ、と竜樹の方へオーブは飛ぶと、膝の上に着地し、マントのポケット、スマホが入っている所を、ツンツン、と突いた。

「あいあい。通訳ね。」


ポカンとしていたカルネ王太子だが、「神鳥様のお言葉が分かるのですか?」と呟く。

「スマホで分かりますよ。えっと、何だいオーブ?」


コココッコ、ココ。

『竜樹、この姉妹に、罪の印をつけてやったからね。』


コココ、コココッココ。

『ちゃんと反省して、子供達への償いをして、性格も直さないと、足跡は絶対に消えないから。お化粧しても浮かびあがるよ。』


コココ。ココッコ!

『子供達が、どんなに大切な宝か、責任を取るってどういうことか、実感できないうちは、竜樹、寮で無料奉仕。働かせる。お付きの者は皆、帰しちゃって。』


「ええっ!?降嫁はどうなるの!?」

「そうよ!私たち、王女よ!?」


ココーッ!コココ、コケーッ!

『そんなの却下に決まってる!王女が何だ!今のままでは、犠牲者が増える!神の鳥、オーブは、そんな事、許さない!』


「了解ですオーブ。という事で、平民と同じ扱いで、寮で眉間の足跡が消えるまで、無期限で奉仕ね。寮に度々来たかったんだろうから、王女殿下達もいいでしょ?」

うんうん、と竜樹も頷き、ハルサ王様が、むふ、と笑い、オランネージュとネクターとニリヤは、ほうし。と顔を見合わせた。


カルネ王太子が、呆然と。

「•••そんな。」


「そうよお兄様、言ってやってよ!」

「私たちが平民扱いだなんて!」



「そんな、こちらにとって有難いお話で、いいのですか!?」


えっ。


姉妹は、目を見開き問いかける兄に、愕然とした。


ブン! と音がしそうな勢いで、兄は王女達に顔を向ける。

「お前達、分かっていないだろう!その性格を矯正する事は叶わぬと、諦めて突き放し、目に余るようになったら処分する、と決めていた、この兄の決定よりも、これは大分温情のあるやり方なんだぞ!」

使えないやつを、使えるように教えるのにも、金や人手や気持ちが、沢山いるんだぞ!


キロリ、と睨まれ。

ヒッ、と姉妹が竦む。


「いや、必要経費はこちらで当然払うが、未熟で馬鹿者のお前たちを、パシフィストのお国で受け入れてくれると言うのだ!ハルサ王様、ギフトの御方様、本当にそれで、よろしいのですか!?」


ハルサ王は、

「うむ、うむ。何分、神様の鳥がおっしゃる事。よろしいですぞ。」

とニコニコし。竜樹に視線を投げる。

「めんどくさいけど、いいですよ。だって女子高生の歳じゃあねえ。今、このきっかけで軌道修正しないと、どうにもならない人が増えるでしょ。フードゥルのお国も平和でいて欲しいし。平和な国が増えれば、この国にも良い事あるし。」


大人なパシフィスト組に、ガバリと頭を下げて。

「ありがとうございます!!!感謝します!!」


「お兄様!お父様が、黙ってないわよ!私たちが働かされるなんて!!」

「そうよ!お父様なら助けて下さるわ!お金も払ってくれるわよ!」

わあわぁ!と、もう黙っている事などできない。後が怖いのだが、今はそんな事にも思い至らず。


「じゃあ、その、お父様に聞いてみましょうかな。テレビ電話をこちらに。」

ハルサ王がホロウ宰相に頷いてみせると、花瓶の後ろに隠れていたテレビ電話を、ヨイショと持ってきて、テーブルに置いた。


そこには、渋い顔をした、カルネ王太子とそっくりな黒髪のおじさま、フードゥル国王が映っている。

「お父様!聞いていて下さったのね!お兄様も、パシフィストの連中も、酷いのよ!野蛮よ!」

「お父様なら、お金を払って下さるでしょう!?この鳥にも、跡を消すように、こちらに圧力をかけて下さるわね!?」


『•••このような馬鹿者を、本当に預かっていただけましょうか、ハルサ王様。ギフトの御方様。』

「神のお導きです。よろしいですよ。」

「ピヨピヨくらいなんて事ないです。大丈夫ですよ。」


ええーっ!?


苦しい顔のフードゥル国王は、ギュッと両手を組んで。

『私達の甘やかしのツケを、そちらに払ってもらう•••実に申し訳ない。しかし、我が国では、どうあっても厳しさが足りますまい。兄の、手に余ったら処分、の方向で仕方ないと、報告を受けた私も思っておりましたが。馬鹿者でも可愛い娘、温情に縋らせていただけたら、本当にありがたく。こちらでは、死んだ者として、そちらに一切お任せします。』

「いやいや、王とて人の子。情はなかなか消せませんよ。」

「大切な娘さんを、責任もってお預かりしますね。」


「「お父様!!」」

『黙れ!!痴れ者が!金輪際、父と呼ぶな!そちらの国の子供に、言う事を聞かねば子供の父を殺すと言ったそうではないか!ならば、お前達の父も、これで死んだのだ!同じ目に遭ってみろ!どれだけ酷い事を言ったのか、我が身で知れ!』


「お、お父様•••!」

「そんな•••。」


ガクリ。

膝から落ちて床に座り込む姉妹王女に、この部屋の人間は、厳しくも、本人達には伝わっていないが温かい視線を投げていた。本当に、大変なのは、見捨てず受け入れる側なのだ。


ぷるらるる。


「あ、すいません。あ、妹からです。」

竜樹が、スマホを見て。ポチッと出て。

「サチ、今打ち合わせ中だか•••」「おお、サチ殿か。良い良い、良かったら同じ年頃の、サチ殿ともお話してみようではないか?此度の件について。どう思われるかな?」

ハルサ王様の、茶目っ気のあるニコリ顔に、竜樹も、そうかな?と見回すと、カルネ王太子も、フードゥル国王も、お任せです、とばかり、うんうん、頷いている。


『え〜ハルサ王様〜!サチです!お久しぶりで〜す!』


テレビ電話にして、サチの映像を出す。ポニーテールにした、制服姿の溌剌としたサチが、画面の向こうから、賑やかに手を振って。

「サチ殿〜!久しぶりだねえ。」

「サチお姉様!」

「サチ様〜!」

「サチねえさま!」

3王子も、わっ、と乗り出してスマホに手を振る。竜樹に話させてもらって、お互い顔見知りなのである。


『王子様達も、相変わらず、かわいいねぇ!サチだよ〜元気〜?』

「みんな元気だよ。今はさ、サチ。この間話した、子供に意地悪した王女達の話をしてたんだ。そのお兄さんが、わざわざ謝りに来てくれてさ。王女達は、こっちで働かせて面倒みて、罪を償う事になったんだけどさ。」

『あ〜その話?そこに王女様達もいるの?私、言ってやりたい事があったんだ〜!』

「17歳と18歳なんだってよ。言いたい事あるなら、喋ってみる?」

『同じくらいの歳じゃん!喋る喋る〜!』


竜樹は、くりん、とスマホを王女達に向けてやった。


『わ〜本当に王女様だぁ。外見は良くても、中身がダメダメだよなぁ。あのね〜、子供脅すって人として最低だよ〜!』

「な、何よ偉そうに!」

「そうよ!平民のくせに!」

与し易しとみて、サチに食ってかかるが。


『そっちだって、王女様のくせに、役にも立たず国に迷惑かけてるじゃん。何で普通に竜樹兄に頼まないのよ。訳わかんない。』

「こんな地味男に頭下げられないわよ!」

「美しくて賢い私たちに仕えさせてやろうと思って何が悪いのよ!私たちの国に来て働けば、光栄じゃないの!それで私たちの国がこの大陸を、統べるの!」

カルネ王太子が、瞼を手で覆って、肩を落とし。フードゥル国王が、はわわ、と口を戦慄かせた。

ギャン!と驚く仕草をして、サチは広げた手を、にぎ、にぎ、した。


『バカなのかな?バカなんだね?大体、国って、まとめるのに丁度いい大きさがそれぞれあるじゃん。文化も違えば、地理的に山あったり海あったりさぁ。大き過ぎても、結局、県だ市だって、細かく分かれるし、まとめたら権利がある代わりに、ちゃんと治める義務もあるじゃん?そんなに大きくして、面倒みられるの?下手したら、不満が溜まって、反乱されちゃうよ。軍に力入れたとしても、やり過ぎればお金かかり過ぎるしさぁ。軍て必要かもだけど、何も生まないし、生産職も必要じゃん?国が別々に丁度良く分かれて、平和に仲良くした方が、綺麗な物が出来たり素敵なサービスがやり易くて、潤うじゃん。何のために国大きくするのか、っての。』


うん、うん。

カルネ王太子が深く頷く。フードゥル国王も。

デカきゃいいってもんじゃないんだ、国は。サチ殿は賢い、と。


「え•••。」

うろろ、と目を泳がせ。

「そ、それは、お父様が何とかするわよ!」


タハっ、とサチは笑って。

『ザ・人任せ!王女様はこれだから!キャハハ!』

笑われて、グッと拳を握って憤然とするも反論できず。


『結局自分の力じゃ何もできない、って分かってるから、下手に策を練るんじゃない?普通にやって上手くいく自信、ないんでしょ?ちゃんと真っ当に、人や物事に当たる経験が一度はないと、嫌味や悪口ばっかり言ってる、やなおじさんおばさんになるかもね、って学校の先生が言ってたよ。』

「まっ•••な、何よ!!」

「失礼ね!!」


『だって誘拐って犯罪だから。ごめんで済んだら警察はいらないっての。まあ、そんな訳で、私も真っ直ぐに、竜樹兄に、話したい事があってさ〜。』

もじ、と少し恥ずかしそうに、サチは王女達を気にせず、竜樹に話を戻した。


「話?何だい?」

竜樹がスマホを自分に戻す。


『進路の事なんだけど。竜樹兄の話を聞いたり、学校主催の仕事体験とかで、幼稚園に行ってみたりしてね、私、幼稚園や保育園の先生も良いなぁ、って思ってて。お給料少なくて、責任あるキツイ仕事だけど、ずっと続かなかったとしても、結婚して子供育てるのにも、勉強になるかな、って。』

「うん、うん。」


『保育が学べる学校に行ってみたいんだ。マリコ母に言う前に、竜樹兄に、言ってみたかったの。』

「うん。やりたい事、やってみな。突然異世界に行っちゃう事すらあるんだから、その時にやりたい事を、後悔しないように、やってみればいいよ。」

竜樹が応援すると、えへへ、とサチは嬉しそうにした。


『幼稚園に行った時、そこの子がね。まだオムツしてて、自分でバスタオルと紙オムツ持ってきて、タオル広げて寝転んで、オムツ替えて、ってしてきたの。教えてもらいながら、替えてあげたんだけど、すごく可愛くてね!可愛いだけじゃない、って、皆に言われるんだけど、頑張ってみたいんだ。』


「うんうん、頑張りな。」


『ありがとう!頑張るね!また電話する!王女達は、ビシバシしごいてやって!本当、誘拐しといて、働くだけで許されるなんて、超甘い〜!日本だったら刑務所だよ!ハルサ王様も、また〜!オランネージュくん、ネクターくん、ニリヤくん、またまたね!サチとお話しようね!』

「「「はーい!」」」


『じゃあね〜!』


ふつん と映像と音声が切れて、部屋が急に静かになった。若者の存在のエネルギーは、パァッと輝くようで、凄いのだ。


「ま、そういう事でね。」

「サチ殿も怒っておったなぁ。」

「サチ殿くらい、妹達も素直であれば。」

『うむ。ギフトの御方様は、平民出とは聞いていたが、あちらの世界の方は、皆あのように賢いのかなぁ。』

ふー、と皆して、ため息をつくのだった。


「私、働きたくない•••。」

「わ、私もよ。何させられるのよ•••。」

王女達も悄然として、床に座り込み、手を揉んでいる。


コココッコ、コケーッ!コケコ!

『働かないと生きていけないよ〜。竜樹達が大変だとかわいそうだから、オマケで、お前達に脅された子供達の悲しみと絶望感を、現実のように夢で味合わせてあげる。多分これで、跡が消えるのは早くなるかもね。』


コケコ!

ピカッ!


オーブの目が光り、ふ と王女達の目が灰色にくすんだ。

ピクリともせず、そのまま、夢をみている。

残された者達は、ふっ、と緩んだ雰囲気のまま、お茶のお代わりをしたり、お茶菓子食べたりした。

オーブは、ニリヤの頭の上に戻って、クッキーをもらってつついた。


「あー。カルネ王太子殿下も、大変でしたね。」

竜樹が労う。

「は、はい。いや、慰めて下さるか。あれでも妹なれば、仕方ありますまい。」

お茶を啜って、この時間で3歳くらい歳をとった感のある、疲れを見せたカルネ王太子である。


「あー、でも、王女殿下達のお陰で、健康診断する事になったんですよ。俺は父親だから、元気でいなくちゃで、今、思いついて良かったな、って。カルネ王太子殿下も、健康診断受けてみます?どのくらいこちらにいられます?」

「けんこうしんだん?私も、妻が妊娠しておりまして、もうすぐ父になるので、元気では、いたいですが。」


ほう、ほう。

ハルサ王様が、それはおめでとうございます、と祝いを言う。

「そうしたら、健康診断と、あと、体育館ができて初の、球技大会がありますから、そちらにご参加なさっては?10日もあれば、どちらも参加できます。本当は、もっとゆっくりこの国を見て行っていただきたいですけど。」

「いやいや、これ以上、ご迷惑をお掛けしては。」

手を振って、とんでもないと、辞退するのに。



「いや〜、フードゥルのお国の王女殿下達は、身分を捨てて、子供達の生活を知りたいと平民扱いまでを、ご自分で、望まれて。寮で働いて下さるなんて、光栄だなぁ!」

竜樹が、目をちょっと上に向けて、話が繋がらないまま、突然言う。


ピン!と来たハルサ王様が、ニヤリと続けて。

「おまけに、個人資産から、寄付までして下さって!なかなか出来ない事ですぞ。さぞフードゥルのお国の民達も、学ばれて帰る王女殿下達を、誇りに思うでしょうな!」

「伴侶に得たいという方も、沢山いらっしゃいましょうね!」

「であるな!」


という事に、しておきましょう。

ニコニコ笑う大人2人に。


「ハルサ王様•••ギフトの御方様•••。」

ホロ、とカルネ王太子の目に、涙が湧いた。


しんみりと、フードゥル国王も。

『ご厚情、誠に、誠にかたじけなく。』


「そんな真摯なフードゥルのお国の、カルネ王太子殿下を、是非、健康診断させてあげたい!こういうのって、あの時、受けておけば良かった、てなるより、キッカケを逃さない方が良いですよ。」

「そうそう。健康診断を学んで帰れば、妊娠している王太子妃様の、お腹の子供の様子も、からだスキャナーを持ち帰ってみられて、役立てる事もできましょうし。」


「どうして、そんなにも私共に、優しくして下さるのですか•••?」

カルネ王太子は、分からなかった。

分からなかったが、温かい気持ちは、重々に感じた。


「世の中のお父さんやお母さんが、子供を置いて、病気になるのを防ぎたいからです。フードゥルのお国でも、普及すれば、こちらも良い宣伝になりますよ。新聞とテレビに、一緒に出て下さいませんか?病気は、自分だけは大丈夫、なんて、あり得ないんですから。」

「お助け下さい、カルネ王太子殿下。」


すっ、と出されたハルサ王の手を、カルネ王太子は、ギュッと握った。

ユーモアを持って、手を握り合い、だ。

「私で、出来ることがありましたら。」


『うむ。10日と言わず、1つ月、ゆっくり教えてもらい、何でも力になる事をやっておいで、カルネ。仕事は、如何様にも、こちらで都合をつけよう。』

うむ、うむ。

フードゥル国王も、満足そう。


「パシフィストの国と、フードゥルの国。これからも、仲良くしましょう。雨降って、地固まるですね!」

お兄ちゃん同士だしね!

今6つ月という、妊婦の王太子妃殿下には、テレビ電話で、良くお話を、聞いてあげてね!


ココ!


オーブが鳴いたら、王女達の瞳が、力を取り戻し。


「ふ、ふぇ、ふええええ!ご、ごめなさ、ごめんなさい!竜樹父さ、死んだら嫌だよ!いや〜!!」

「お父さん、殺さないで〜!うええええん!!!」


子供達の不安、絶望感を、しっかり味わった2人は、大号泣して蹲り、みっともなく、身も世もなく、泣き叫んだ。

今日は長過ぎたかな。

そんな日もあります。

読み辛かったら、ごめんなさい!

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