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御方様のものでございます

「さて、ニリヤ。食事を作る人が大切にしなければいけない事が、一つあります。それは何でしょう?」

「う〜ん•••。」悩んで人差し指を咥える。

「おいしくつくる。」


それもあるね。でも他にもあるね。

「おなじおおきさにきる。」

あっ、本格的だね。火の通りが一緒になるからね。でも他にもあるね。

「てをあらう。」

おっ、近いね!


「答えは、清潔にする、でした!」

汚くしてる人の作ったものって、なんかやだろ。

だから風呂だ!脱げ〜!

わきわき。くすぐりながらとっ捕まえ。

「キャハハ!くすぐったいよう!」

俺も脱ぐ〜!

ポチポチボタンを外して、ぷっくりしたお腹を出させる。ばんざーいで肌着ごと剥ぎ取り、下も脱がして、パンツは捨てる事にする。汚れすぎて洗濯したくない。まあ竜樹が洗濯するのじゃないが。

替えがあるといいな、ミラン頼む。祈って自分もパパっと脱いだ。


竜樹の部屋は風呂付きである。そんなに広くないが、蛇口からお湯が出る。ミランの下、12歳ほどの少年たちが風呂掃除を毎日してくれる。ピッカピカで入れるのだ。

お湯は大理石(ぽい石)の湯船に溜まったが、まだ入らない。布に石けん水を垂らし、泡にしてニリヤの小さくまろい背中にかけた。

シャワシャワ。モシャモシャ。

一遍に取りきらない方がいいんだろうな、皮脂。背中からお腹、腕の関節、肘の所と痛くない程度に布で擦り、垢を落とす。

「本当の大理石と同じく、化石があるな。」

かせき?

泡泡を着たニリヤが、立ったまま竜樹の方を向いた。

「ほらここ。グルグル巻きの貝。虹色だな。」

似ている。写真で見たことある形に。同じ人の形をとるよう進化してきたコチラの世界とあちらの世界の昔も、もしかしたら共通する点があるのかもしれない。どこから魔法が出てきたんだろう。

ほわ〜。

しゃがんで短い指で突っつくニリヤの髪を、今だと濡らして、泡立てようとするがなめっていけない。

2回洗って、ようやく泡が出た。

髪を洗う間、ニリヤはずっと、ギューと目を瞑っていた。


湯船に入ってしばらくすると、ニリヤは痒いと言い出した。ポリポリ掻いた所から、ふやけた垢が浮いてくる。

もう一度さらっと泡で擦ってやり、お湯かけて一度出る事にした。

ミランはまだか。柔らかくクタクタな布で拭いた後、乾いた新しい布でグルグル巻きにしてやる。髪も。

髪質は子供らしく細くて、ぺっしゃり張り付いていたが、しばらくするとピンと頸の毛がはねて巻いてきた。分かりづらいが、癖っ毛だったらしい。


「失礼いたします。」

ひっつめ髪の侍女さんが、そそと入ってくる。脱衣スペースから出てきた竜樹とニリヤに礼をした。

竜樹の裸足に布靴が、絨毯に埋もれ、ふかふかとした感触を返してきた。ニリヤは裸足なので抱っこである。


「ニリヤ様とご入浴されたと聞きまして。」

説明しながら、手にしたものを差し出してくる。

「クリームとパウダーでございます。お手やお身体の節々が荒れてらっしゃるかと。」

あの、御方様が。

伏し目がちに、そして恥ずかしそうに。

「俺が?」


「はい。御方様がご入用かと思いまして。ああ、決してニリヤ様にお持ちしたのではございません。お着替えもミランが幾つか見分中ですが、間に合わせに一着お持ちしました。ええ、ニリヤ様のものではございませんとも。ただ、御方様が何故か子供用の着替えをご入用と聞きまして。」

「そうだね、ちょっと使うんだよね。」

そうですよね!ウフフ。

口元に指先を当てて、侍女さんは一歩下がる。すると、コンコン、ノックがあって、また他の侍女さんが入ってきた。

「髪の香油をお持ちしました。御方様が肌に敏感と聞きまして、子供でも大丈夫な匂いの少ないものでございます。」

「お靴をお持ちしました。何故か分かりませんが、御方様が子供靴をご入用と聞きまして。」

「お飲み物をお持ちしました。ご入浴後にはお喉が渇きますでしょう。子供でも大丈夫な果実水でございます!さっぱりするので、コチラにしたまでの事でございます。」


「ありがとう、みんな。俺は何故か子供用の物が必要になるかもしれないので、これからもよろしくです。」


はい、もちろんでございます。


次々に入ってきてどっさり揃った数々のものに、侍女さん達は満足げに礼をして、ゾロゾロ出ていった。


「ぼくのじゃないの?」

「ニリヤのだよ。」


大人って、めんどくさいよねー。


節々にクリームを塗って、パウダーをはたき、肌着を着せてやり、髪に香油を一滴馴染ませてやって(椿油みたいなもんかと思って一滴だけにした)、服はどうするかな、という所で。


ふわぁ。あくびした。


お風呂って意外と疲れるよね。

果実水をコクンと飲んでは目を擦っているニリヤに、長袖に身頃が長い生成りの寝巻きを着せてやる。揃いのズボンも穿かせ、お腹冷えないように、肌着をズボンの腹にぎゅうぎゅう詰めて紐を結んだ。

「少し寝るか?夕飯には起こしてやるから。」

「うん。おてて、にぎってくれる?」


いいよ。ベッドまで連れていき、途中小さい布靴がポロリと片方落ちたのを拾い、揃えて置いてやる。

「お休み。」

「おやすみなさい、ししょう。」


パチパチ目を瞬いていたが、ふぅ、と深い息を吐いて、ぎゅと手を握りなおしたらふんわり力が抜けた。



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