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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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諍いと対話


竜樹がマルサと一緒に、ツバメのおててを握って振って、ツバメの背中に、蟹がはいりこんだ歌をうたっていると。

(なんだこの歌、とマルサには不評)


ふるるらる。


スマホが震える。

メッセージグループ神々の庭に。


クレル

『ふふ、ふふふ。カニ。

私は、諍いの神、クレル。

意見交換会の一石で、夫婦や婚約者達、家族に、たくさん諍いが起きたよ。

竜樹は、私など嫌だろうが、必要な諍いだ。怒って、感情を表して、話し合って、決別し、そうして新しく一歩を踏み出す事もある。

私は嫌われ者だから、べ、別に平気だけど、皆が私を嫌がって、私を象った像にコインを投げつけて、帰らせようとするよ。』


竜樹

「初めまして、クレル神様。

確かに、諍いというか、話し合うのは必要な出来事でしたよね。

俺は、クレル神様、嫌じゃないですよ。元いた世界にも、雨降って地固まる、という言葉もあります。」


クレル

『ほ、本当に!?嫌いじゃない!?

あ、あのだね、あの、諍いを終えた貴族たちは、確かに別れたり、違う者と縁を結んだりもしたのだが、竜樹のお陰で、半分くらいは元の鞘に戻りそうだよ。』


竜樹

「俺のおかげ?何でしょう?」


クレル

『ほ、ほら、魔道具をお試しで配ったろう?あれで、貴族達は、お試しっていいな、と思ったんだ。だって、諍いがあったとはいえ、今まで関係を結んで一緒にやってきた家族、相手を捨てて、新しく結んで、それでまた失敗したらどうする?貴族達のほとんどは、実際にはまだ籍をいじらず、お試し別れに、お試し再婚してるのだよ。』


竜樹

「ああ!そういう事だったんですね!うんうん、お試し、良いですよね。会社を転職してみると、元いた会社を外から見られて、良いところや悪いところが良く分かったりしますもん。そういう事ですよね?』


クレル

『そんなとこだな!

それで、プレイヤードの妹、フィーユのことは、どうするのだ?

何をしても、しなくても、諍いは起こるが。』


竜樹

「う〜ん、今、魔道具で、骨伝導の補聴器を作っていまして。

意見交換会には、間に合わなかったんですよ。

まだ幼かったり、お家の人の考え方で、文字を習ってない聴覚障がいの方には、悪い事しちゃったけど。これからも続いていく事だから、できる事からやっていくのを、許して欲しいな、って思ってます。」


クレル

『フィーユの障がいを、明らかにする?』


竜樹

「はい。魔道具ができてから。救いがない状態で、真実だけ明らかにしても、周りが受け止めきれないかもと。」


クレル

『フィーユ自身は、受け止められると?』


竜樹

『音がよく聞こえたら、喜んでくれるんじゃないかな、って思ってます。』


そうなのだ。

プレイヤードの妹、フィーユは、神様のリストによれば、難聴なのだ。そしてそれを、母のトレフル夫人は、知っているが、隠している。守ろうとして、トゲトゲになり、父のアルタイルや、兄のプレイヤードにさえ触れさせないほど。

プレイヤードも自分の子供だが、目が見えにくいのは、周りに隠しておく事ができにくいので、フィーユだけはと抱え込んで。


竜樹

「一度、開き直って、周りに分かってもらったら、ずっと未来がひらけるのにな、と俺は思います。今、とても安心した顔でふくふくしてる、アミューズみたいに。けど、今まで隠してきた、当人や家族にしてみたら、勇気のいることなんでしょうね。障がいを明らかにするのは、良い事ばかりではないから、えいっ!と飛び込むのは、なかなかできないのかも。

でも、いつまでも、隠してはおけないですもんね。」


クレル

『そうなのだ。いつまでも、誰も、崩れた場所を見ないふりして穏やかな生活など、できないのだ。もしそれをやったら、後々に、ためにためたせいで、再起できない程の悪い事態になりかねない。

だから人は、時に諍いを起こし、噴火してぶつかり合って、分かりあう。

決定的な争いをしないために。

私は諍いの神として、す、好かれなくても、今後も、小さく諍いを司っていく。』


竜樹

「ガス抜きして下さってるんですね。

クレル神様は、対話の神様、と言って良いかもですね。」


クレル

『!!!!!』


ぱああっ とスマホの画面が光った!


流れるような麗しい黒髪の、眩しい光輪を背にした神の映像が、3Dでスマホから上半身、立ち上がって現れた。


口を開けば、涼やかな中性的な、美しい声。スマホ画面に喋った文字が、浮かび上がる。


クレル・ディアローグ

『竜樹。ありがとう。

私に、諍いだけでなく、対話の概念を与えてくれて。』


クレル・ディアローグ

『私は諍いと対話の神、クレル・ディアローグとなった。

神に名付けた男、竜樹よ。

見本番組を貴族達に見せるのに、いいねを大分使っただろう。

名前のお礼に、1万いいねを贈ろう。

これからも、よろしく頼む!』


竜樹

「は、はい!クレル・ディアローグ神様!ありがとうございます!」


クレル・ディアローグ

『ふふ。ファヴール教皇に、神託しておこう!これからは、コインを投げつけないで、必要な諍いに、いい対話ができるように祈ってくれって!』


竜樹

「はい!俺も祈りに行きます!」


しゅる、とスマホから、クレル・ディアローグ神の3D姿が消える。


ランセ

『良いね良いね!

新しい名前 とってもいいね!

竜樹。新しい魔道具は どれも

情報をやり取りしやすくするもの。

私からも 5000いいね 送るね!

わくわくする 番組 楽しみにしてる!』


竜樹

「ありがとうございます、ランセ神様!

そういえば、元の世界で、かけ離れた環境にいる夫婦を、取り替えて暮らしてみる、って番組がありましたね。」


ランセ

『なになに?詳しく!』


竜樹

「えーと、大自然の農園に暮らす夫婦と、都会の夜の踊り子と酒場のマスターの夫婦が、片方ずつ入れ替えて生活してみるっていう•••。農園にいる妻に、酒場のマスターとそこの家の娘が行って、まあ最初から、寝る時間起きる時間が違って。夜組は、朝早く起こされて、爽やかな農園妻に対して、眠くて最低で自然の良さはわからなかったり。」


ランセ

『面白そう!やって!やって!』


竜樹

「お試しお別れ、お試し再婚で、やれるかもですね。検討しておきます!」


ランセ

『楽しみにしてる!

では、またね!』


クレル・ディアローグ

『またね!カニの歌も面白かったよ!』


竜樹

「はい!また!ありがとうございます。」


10000いいね、追加されました

5000いいね、追加されました




「なんてこった!神様に名付けまでしちまったのかよ!」

マルサが、どわっ、と片手で目を覆いながらのけぞって。

「何が起きても驚かねえと思ってたのに、驚いちまった!悔しい!」

「あは、ははは。」

竜樹が笑うと、ツバメも。

あー、あうー、と、おしゃべりした。





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