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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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暗い部屋から一歩だけ


「午後はプール行こう。」


食後の休憩中、竜樹のお誘いに、子供達はワーッと沸いた。ちっちゃい子組も、お昼寝の時間をずらして。少し蒸し暑い、こんな日は、パーっと水遊びで発散したい。

皆のお母さん、ラフィネも、水着を持って一緒に行く。

もちろん、プレイヤードとピティエも、プールに併設された水着ショップで水着を買う。選ぶ時に、どんなデザインなのか、王子達が教えてくれる。


『どこにも出掛けないし、見えないのだから、どんな服でも良いでしょう。』


ピティエは、自分の家の侍女が、着替えを手伝う時に言った言葉を、確かに覚えている。そうねーアハハ、と笑う別の侍女もいた。何かを望む事なく、大人しいピティエのお世話は、一部の侍女達にとっては休憩代わりだ。気を抜いて、辛辣な言葉や愚痴が飛び交う。


ピティエはそれでも不満の声をあげない。何故なら、身の回りの事をやってもらわなければ、困ってしまうから。そんな弱気な態度に慣れてしまった家の者達は、兄や両親の前とは違った顔を見せる。舐められているのだ。


「ジェムたちみんな、こんいろにとりさんのがらだよ。ピティエは、どんなみずぎ、きたい?」

「どんな、って言われても•••どうせ見えないし•••。」

色々水着を見てくれるニリヤに、思い出ししょんもり。


竜樹が側に寄って。

「ピティエ様は、お花をくれた時も、手触りのいい花を贈ってくれたから、着心地のいい布地のものなんて、どうですか?パッと人目を引く派手なのと、落ち着いた、でも綺麗な色のもの、どちらが良いですか?」

「え•••。」


どうしてニリヤ殿下や竜樹様は、私に選ばせようとするのだろう?

ピティエが躊躇っていると。


「目が見えにくいからって、おしゃれしちゃいけない事ないですよ。自分で着るものだもの、どういうものか、知りたくない?」


ましてや、ピティエは、面積が多ければ、ぼんやりとだが色の違いは分かるのだから。竜樹は、どんな風に見えてるのか、ピティエに聞いたのを元に、おしゃれのすすめをする。

ピティエは、消極的だが、強く提案に嫌がりはしない。性格もあるが、家にこもってばかりだったから、体験が少ないのだろう、と竜樹は思っている。


「私、これがいい!ウミガメのもよう?のやつ!」

プレイヤードが、ネクターとオランネージュのお見立ての中から、グリーンを基調とした一枚を選んで、嬉しそう。ウミガメって、上手に泳ぐんだよね、と。


プレイヤードが水着を楽しく選んでいるのを耳で聞いて、ピティエも、何となく、選んでみようかな?という気になる。

「触ってみても、いいですか?」

「もちろん、どうぞ。手触りをお確かめ下さい。」

女性の店員さんが、如才なく応対してくれる。


(家の外は、怖いことばっかりだと思ってたけど、何だか雰囲気ちがうな)


触ってみて、そうして、手触りのいい一枚、ぼんやりと見える水色に。

「それ、おそらのみずいろに、はしっこにくもと、おひさまと、にじのえだよ。」

雨上がりの空だろうか。

小さい頃、兄に連れ出されて、虹が出たよ、と空を見た事を思い出す。ピティエには、虹は遠すぎて、色は分からなかったけれど、雨上がりの水と湿った土の匂いがしたっけ。


「これに、します。」

「素敵なワンポイントだね。さあ、いざプールへ!あ、そうだ、これ、サングラス代わりの、色付きゴーグルね。」

竜樹は何でこんなに、良くしてくれるんだろう。

この思いを受け取って、ピティエは、巡り巡る輪に、入れるのだろうか。


脱衣所で着替えて、溺れ警告の腕輪をつけ、準備運動をしているジェム達やアルディ王子、エフォールに合流する。プレイヤードもピティエも、プール見守り指導員たちの声の指示に従って、準備運動。

ピティエは身体的には大人用プール向けだが、水位が低い方が安全だろうと、子供向けで皆と一緒に入る事になった。


「はーい、じゃあ、プールのお水に足をつけて、端っこに座ってね。足を、バタバタバターってしてみよう!」


キャーッ!と歓声。


水は冷たくて気持ちいい。

手を取ってもらって、タプンとプールに浸かったプレイヤードとピティエは、ザブザブと水を掻いて、プールの短い幅に沿って歩く。歩く。ちょっと潜る。


プレイヤードは、頬の傷を治癒魔法で治してもらっておいて、良かったな、と思う。傷はあまり気にしないが、プールに入ってはダメ、と言われたら悲しかった。


ピティエのゴーグル越しに、水は滑らかにキラキラしている。眩しくないのに、光が分かる。


ビート板が渡されて、バタ足で進んでみる。必死で足を動かすと、とん、と壁にビート板が当たって、端に来たのがわかる。

目いっぱい動いて、プールから出る時には、なんて気だるいんだ!水にもっと入っていたい!と後ろ髪ひかれ。


「はーい、じゃあ帰ってアイス食べよ。」


声がニコニコするって、こういう事だ。

そんな朗らかな竜樹の声に、濡れた髪から雫がポタポタ落ちた。


アイスー!

子供達がわあっとして、またプレイヤードとピティエの2人は、手をとられて更衣室へ。溺れ警告の腕輪は、ロッカーの鍵にもなっていて、番号の所に腕輪をかざせば、カチリと鍵が開いた。

「プレイヤードさま、自分できがえれる?」

「あんまりやった事ないけど、やってみる!」

「まちがえてたら、俺たちおしえてあげるね。」

「ピティエさまもね!」

「う、うん。」


もたもたしてても、誰も怒ったりしない。

間違えても、こっちだよー、とのんびり教えてくれる。

それに、ちょっとぐらい間違えても、誰も気にしないで、自分の事や、遊びをやっている。


何だ、何だろう。

どうしてここでは、ちょうど良く親切にしてもらえるの?


ピティエは、頭の中がハテナだらけだった。


プレイヤードは、ここではやりたい事を否定されずに、息がしやすいな、と感じている。


気だるい身体は、2人とも何だか気持ちよかった。


濡れた髪を縛っていた紐を解いて、風に乾かしながら帰る。

さっきまでサラッと裸足だったのに、靴がざりざりと、道を歩く。何だか窮屈。


一度自由を知ってしまったら、解放感に2度と靴なんて履きたくない。

早く帰って、靴が脱ぎたいな、と皆が思った。


「ビーチサンダル、作ってもらうかぁ。」

プール帰りの、靴を嫌だな、と思うのは、竜樹も一緒だった。


寮に帰って、靴を脱いで、ホッとして。交流室、竜樹の手作りアイスは梨のシャーベットにバニラの二層仕立て。

1人1本ずつもらって、しゃくりと食べる。

床にペタリと座って食べて、爽やかなお茶に、タカラに魔法で口の中を浄化してもらい。

帰り道に、うと、うと、していたちっちゃい子組達も、手に溶けた果汁をたらしながらアイスをやっとこ食べ終わって、濡れ布巾で手を拭ってもらい、ぽやぽや敷布団を。ズリズリ持ってくる。


ふわぁ〜う。


あくびって、どうしてうつるのかな。


あちこちであくび。

見ているはずもないのに、プレイヤードとピティエも、はふぅ、とあくびをした。


竜樹もうっつらなって、ツバメを面倒みていたシャンテさんから受け取って。ツバメは起きていて、あんよをもぞもぞ、まむまむおててをしゃぶっている。

「プレイヤード君、ピティエ様、赤ちゃん抱っこしてみる?」


ええ!?


「こわくないよ。あかちゃんツバメ、いいこよ。」

「まだ首がすわってないから、頭を支えてあげるの。」


興味津々のプレイヤードに、そっと抱かせて。ミルクの匂いするね、ふにゃふにゃしてる、と、感触を確かめていると、うー、あー、とツバメが声を出す。

「お兄ちゃんに抱っこしてもらって、良かったねーツバメ。」

竜樹に頭を撫でてもらったツバメは、ふにゃにゃ、と笑った。


ピティエに渡すが、ピティエは怖がってガッチガチだ。

ツバメは、咥えていたおててを、ピティエの胸のあたりでギュッと握って、口をちゅむちゅむし出した。


はいはい、お乳だねー。シャンテさんが山羊乳を哺乳瓶で持ってきてくれて、ピティエに飲ませてあげて、と渡す。


ワタワタしつつ、ピティエは促され、ツバメの顔を確かめて、口の辺りに乳首を持っていってやる。

ちゅむ、ちゅむちゅむ。

赤ちゃんは鼻で息をするから、すふー、と息が漏れる。

命がある、とこれ以上にない手触り、暖かさに、ピティエは感じる事で精一杯。

竜樹はニッコリ、ツバメが飲み終わるまで見ていてやり、受け取ってゲップをさせてやり。


プレイヤードもピティエも、子供達に布団を渡されて、しいてね、お昼寝ね、と横たわらされて、お腹に掛け布団をかけられて、パタリと倒れたら、もう、くったりと身体が弛緩した。

サングラスは丈夫なケースを渡されて、踏まれないよう、枕の下に入れた。


「ピティエ様•••。」

プレイヤードが、ピティエを呼ぶ。

「な、何だい?」


「私たち、ラジオ番組のお試し、やってみようよね。」

約束だよ。


「えっ。で、できるかなぁ。」

ピティエは不安になる。

でも、何だか良く分からない内に、今日一日で、新しい事がたくさん起こるから。

そうして、1人じゃないから。

ドキドキと。


「俺たちも、手伝うよー。」

アミューズが、満足した声で、目を閉じながら応援する。

「うんうん、手伝うよ。」

ジェムがコロリと寝転がって。


「ラジオ番組ができたら、私、部屋でじっとしてるしかなくても、楽しいかも、だから、頑張って、みる、かも•••。」


「ぼくたちは、みんなのしゅざいするね!」

ニリヤも、うとうとしつつ、枕をポンポンと叩いた。


小さく丸まって、部屋でうずくまっていたピティエが、ほんの少しだけ、一足だけ、踏み出す勇気を出したから。

外に出たいとエネルギーを放出させていたプレイヤードが、やってみられる事を見つけたから。


竜樹がふんわりと笑顔になり、すや〜、と寝入った2人を、皆を、感じながら、ツバメと遊んでいた。


「暗闇カフェを、クレールじいちゃんと作るか•••。」


自分の体験として受け止めてくれたら、少しずつでも理解が進むかも。

ジェムの聞き込みを、竜樹も報告を受けて知っていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 竜樹もうっつらなって、ツバメを面倒みていたシャンテさんから受け取って。 うっつらなる という言葉に初めて出会いました。 ちょっと意味がよく理解できなくて、申し訳ないなと思いました。 もし出…
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