表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/692

わたしもおしゃべりしたいです


シュークリームを食べている皆を、竜樹がニコニコ見ていると、こちらを真っ直ぐに見て、すっ、と手が上がった。

聴覚に障がいのある、最初のお試し発言に参加してくれた、ルジュ侯爵家クラシャン嬢である。


「はい、ルジュ侯爵家クラシャン嬢、何でしょうか?」


『わたしたちも おしゃべり したいです。でも 周りの人の 声が きこえない。』


クラシャン嬢が眉を下げて、魔道具から書いた文字が声になる。

声も、男性には男性の声のもの、女性には女性の声のものを渡してある。

男性の声のモデルは、朗々と響く、甘い声の持ち主、バラン王兄。

女性の声のモデルは、バラン王兄の婚約者、パージュさんのちょっと低く落ち着いた、それでいて響く、尖った所のない、まあるい声。


『近くで しゃべってる声の 文字を出す 魔道具 ないですか?』


『今は ギフトの御方様とは 話せるけど 近くの お父様や お母様 お兄様とも くわしく 話してみたいのです。』


あちこちにいる、聴覚に障がいのある者達が、うんうん、うん、と大きく頷いている。おおお。こちらから言わなくても、気づいてくれたよ。


竜樹が、うん、と頷きを返す。

「発言ありがとうございます。後で時間をとって、視覚障がいの方と、聴覚障がいの方が使うことのできる、サポート魔道具の紹介をしようと思っていました。でも、できたら今、使ってみたいですよね。」


クラシャン嬢が、ぱあっ、と嬉しそうな期待に溢れた顔をする。期待してもらえて、竜樹も嬉しい。


「魔道具の開発と販売は、サテリット商会が受け持ってくれることになりました。クレール・サテリット会長、ちょっと出番が早いですが、大丈夫ですか?」


ニリヤのじいちゃま、クレールじいちゃんが、いつの間にか会場のスクリーンの後ろに。魔道具の入ったカゴを持ってスタンバイしている。

コックリと深く頷き、竜樹の元へやってきた。ニリヤのばぁちゃま、ミゼリコルドばあちゃんも、それを後ろで、そっと見守る。


「じいちゃま、がんばってぇ!」

ニリヤが声をかけて、ふわ、と会場に笑いが起こる。クレールじいちゃんも、ふんわり笑った。


「ご紹介に預かりました、私、サテリット商会のクレールと申します。高貴なる方々の御前で、魔道具をご紹介できる機会を賜り、ありがとうございます。」


ゆったりと、礼をした後、クレールじいちゃんは会場を見回す。商売にならなければいけないし、使い勝手のいい魔道具にしていきたい。まだ試作品で、使う人の意見を大募集中なのだ。

魔道具を切実に必要とする、真剣な目に見つめられて、じいちゃんは、金の事もあるが、本当の意味でのいい商売ができそうだ、と胸が熱い。竜樹が言っていた、三方良しとはこれか。売り手よし 買い手よし 世間よし。


「さて、早速、ご説明に参りましょう。」

まずは、話を文字にして表示する魔道具。手のひら2つ分の、画面がほぼ全ての面積を占める、タブレット型魔道具。

画面がどうしてもある程度の大きさが必要で、文字を書いて話す魔道具と両方使う時、邪魔になるかもしれない、と言いつつも。

「試作品という事で、今お持ちの、文字を声にする魔道具と一緒に、1と月無料で貸し出します。その間、どう改良したら使いやすいか、ご意見を伺って、作り直したものを販売させていただきます。」


侍女さんが、該当する人の所に、近くで喋る人の声を拾って文字にする魔道具を配る。

マイクがあって、魔法で収音するから、同じテーブルに座った人、くらいの距離感で声を拾える。

「声が複数重なっても、自動的に判別して変換します。少し変になる時もありますが、今後の課題です。どうぞ使ってみてください。」

「これで、視力に障がいのある人と、聴覚に障がいのある人の組み合わせでも、会話ができますね!」

竜樹がつっこむと、是非是非、会話してみてください、とクレールじいちゃんも乗り気で返す。


それから、視力に障がいがある人向けに。メガネにつけて、視線の先の書いた文字を読み上げる魔道具。

周りに障害物や段差、凹みがあったら、声と振動で教えてくれる、魔道具の白杖。

これらも、視力の見えなさに個人で差があるので、1と月、使ってみてどうか教えてほしい、改良型を販売します、とクレールじいちゃんは締めた。

魔道具を間違いなく配る侍女さんは、今日とっても細やかに働いている。



テレビも、副音声で解説付きの、音声放送が楽しめる、盲導犬と聴導犬も、育てていきたい、と竜樹は説明した。


「ルフレ公爵家プレイヤード君。」


「はい。私ですか?」


「ルフレ公爵家の領地のガーディアンウルフを、盲導ウルフに向くか、お試しを一緒にやってくれないですか?ルフレ公爵家のご当主、アルタイル様も、お願いできますか?」

公の場で、竜樹は頼んでしまった。


「はい!やってみたいです!」

「もちろん、やらせて下さい!」


ルフレ公爵家、プレイヤードの母、トレフル夫人は、はあーっ、と額に手を当てて、ため息を吐いている。これで、トレフル夫人が何を言っても断られまい。

何故なら、視力に障がいのある人がいる家の者が、さっ!と期待に視線を集中させたからだ。


竜樹は、強引だったかな、とは思った。

が、後悔はしていない。


「さあ、お試しの魔道具は、お手元に届きましたか?見本の番組の事もお忘れなく、魔道具も存分に使って、少し皆さんでおしゃべりしてみて下さいね。」


その間に竜樹も、シュークリーム食べよう。と、スクリーン前から下がった。


「竜樹父さん。」

視力の弱いアミューズが、新聞売りのジェム達の所から、とことこ歩いて竜樹の所へ来た。教会の、視力の弱いサングラスの子、エピに、手を引いてもらっている。エピは光が眩しいが、弱いながらも結構見えるのだ。

同じ視力の弱い子同士でも、見え方は色々ある。


「何だい。2人とも、疲れないかい?いっぱい見本の番組もあったけど。」


「大丈夫、面白かった。」

「ウン、たのしかった。」


そりゃ良かった。


「竜樹父さん。えへへ。」

「えへへへ。」


2人とも、竜樹のマントをギュッと握って、ニコニコと笑う。

ぐいぐい、と下に引っ張るので、竜樹は腰を折って、顔を2人に近づけた。

さわさわ、と顔を触る2つの手。

小さい手は、あったかかった。


ぱふ、と2人から抱きしめられて。


「俺、竜樹父さんの子で良かった。」

「俺も!」


いつか2人に、反抗期が来たとしても、この言葉一つで乗り切れる。

竜樹はそう思って、2人をギュッと抱き返した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ