ファヴール教皇と
「ファヴール教皇、今日はよろしくお願いします。」
竜樹は挨拶回りを終えて、そろそろ皆に今日の意見交換会の細かい予定を発表しようか。とその前に、王宮の会場の、前の方、足の短い椅子に、高い背をぴしりと伸ばしたファヴール教皇に、声をかけた。
「今日は、多分、貴族の皆さん紛糾すると思うんですよね。そんな時に必要なのは、やっぱり神の使徒である教皇のお言葉。頼りにしてます。」
フフン!とうっすら笑うファヴール教皇は、いつもの黒く長い上着に、今日は襟に小さく刺繍が入ったものを着ていた。焦茶の白髪まじりの短髪をかきあげようとして、躊躇い、ピシッと整った髪に、つい、と指先で触り、手を落として前で組んだ。
「神の独り言、か。私も驚いたな。発表すれば、貴族達はさぞ騒ごうよ。相変わらず地味な顔の割に、とんでもないお方だな、竜樹殿。」
まあ、足にも手にもなると言ったのだから、このくらい何でもないが。
ふっふふ、と好戦的である。
「教育番組も、どんなものか、ゆっくり見ていって下さい。」
「あい分かった。精々私の意見も、挙げさせてもらおう。」
是非ぜひ。
竜樹の言葉に、手を組み直し。
「竜樹殿。私はあなたに、礼を言わねばなるまいな。竜樹殿の教会の運営、収入の案のお陰で、この国の教会は今大変盛り上がっているのだよ。贔屓の神を祀るというのは、それぞれその神のお力を頼む者たちに、教会に来る動機を与えた。•••それに子供達だ。」
「はい、子供達が、何か?」
「子供達がいる事で、大人達も集まり、その地域に必要不可欠な場所となった。多分神々も喜んでいるのだろう、細かい所で、お力が動いている気配がする。私達聖職者も、子供達の為と思えば、やりがいがあるし。」
「それは良かったです。神様、寂しがり屋だと言ってましたものね。賑やかなのが、良かったのかな。聖職者の方達には、お世話になってます。ありがたいです。」
ふっふっふ。
「教科書も作るのだろう?親のいる子供達も、読み書き計算を習いたいと、自主的にやってくる者が増えたのだよ。」
孤児や母子家庭の預かり子、共働きの預かり子、その者達が学習するのに、自分達の子はこれでいいのか、と問題意識を持っているという。
「これで今回、王から全ての子供達へ義務教育を、と発表があれば、教会は開かれた教室になる。」
「その際には、材料持ちよりで、給食をお願いします。ご飯を食べに来る、くらいの軽さでいいから、皆に来て欲しいですね。」
「安くて栄養がある料理のレシピ。」
「もちろん、調べてお送りします。」
にや、と笑い合って。
ざわついている会場に、そっと王様と王妃様が入ってきた。気づいた者から、口を閉じて目礼をする。
王様達も、今日は竜樹主催の意見交換会だから、王様王妃様の、ご入場です、みたいなのはやらない。
すっ、と王様が片手を上げると、しゅわわわ。と炭酸が弾けたように、会場にいる者は静まった。
今回短いですが、お許しを。




