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王子様を放送します  作者: 竹 美津
本編

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この指とまれ

「アミューズ、この指、何本だ?」


黄土色の髪に、灰褐色なくりくりした瞳の、アミューズの目の前に指を2本立てる。


竜樹が、新聞売りの子供達の中で、アミューズの行動がヘンだな、と思ったのは。子供達が寮に住むようになって、竜樹が皆のお父さんになった頃だった。俺達の目は節穴か!と、大人達全員で自嘲した。


トランプ遊びやボードゲームがとにかく下手で、お菓子作りも丁寧だがゆっくり、サッカーをやっても皆の後をくっついて走るだけ。卓球も下手くそ。でも喋ってみると、記憶力がすごくて、新聞売りのお代の計算もしっかりできる。ミルクを注いだり、アンパンやお惣菜サンドをトングでつかむのは、すごくゆっくり。

あ、目が悪いのでは?と思ったのは。どこかに行こうとする度に、何かと子供達が、手を握って連れてやっているのを見てだった。仲良しだからじゃないんだ、と、確信したのは、顔を洗った後、目を開いているのに手探りでタオルを見つける、その仕草で。


ギュッと目の前の竜樹の指を握って。

「2本。」

「うーん。触らないで、分かるかな?」


竜樹が聞いたら、ぎゅむ、と掴んだ指を離さずに、俯いて押し黙った。


「アミューズ?別に分からなくても、大丈夫なんだよ。怒ったりしないよ。正直に言ってごらん。」


子供達が、アミューズの視力の弱さを隠していたのは。


「俺、俺、がんばって働くから。ちょっと、ちょっとだけ、できない事もあるけど、大丈夫だから。新聞売りも、できるし!」

焦って言い募る。


「うんうん。アミューズは、仕事できてるよ。大丈夫だよ。ただ、アミューズがどれくらい見えてるか、知りたいだけなんだよ。それによって、どうやったら暮らしていきやすいか、考えたいから。」


「竜樹父さん。アミューズが目が悪くても、放り出さないよな?」

アミューズとやりとりしていたら、子供達がさわさわと集まってきて、周りを囲んで、ジェムが一言。

アミューズが、「ジェム!」とネタバラシを咎める。


「竜樹父さんにバレちまったら、しかたねぇだろ。アミューズ、俺たち、いっしょだ。助けてやるから。」

ジェムは、本当に頼り甲斐のあるリーダーだ。

子供達が全員で、竜樹を見上げて、何にも言わずに、でも瞳が問うている。

アミューズを切り捨てないよね?と。


「アミューズの目が悪くても、大丈夫だよ。ここにいて良いんだよ。俺は皆のお父さんだろ。捨てられちゃうと思った?」

ウン、とアミューズが口をとんがらせて、竜樹の指を自分の胸に引き寄せて抱く。

「お、俺、生まれつき目が悪くて、それで、でも、一生懸命うちの手伝いしたんだけど•••弟が生まれたら、父ちゃんや母ちゃんが、貧乏な上に厄介な子は、育てられない、いらないって、す、す、捨てられた。」

「それで、ジェム達といたんだ?」

ウン。


アミューズを引き寄せて、抱きしめてやる。背中をぽん、ぽん、すると、腕の中のあったかい子供の体温が、くて、と力を抜いて、ふーっ、と息を吐いたのが分かった。


「捨てないよ。アミューズは俺の、大事な子供だ。」

「ウン。」


子供達もホッとして、ワワワとしゃがむ竜樹の周りにくっついてきた。3王子にアルディ王子、まだ車椅子のエフォールも、しん、と成り行きを見守っていたから、嬉しげに、ニコニコと笑う。

「アミューズも、みんなと、ずっといっしょ!」

ニリヤが子供達の円の外側にキャキャと抱きついたら、皆がきゃっきゃ、と笑った。アミューズだけがくたりと竜樹に寄りかかっていた。




「視力って魔法じゃ治らないのかなあ?」

竜樹が、ちっちゃい子組を昼寝させて、側では侍女のシャンテさんが、ツバメにちゅむちゅむと哺乳瓶のお乳を飲ませている。

侍従兼カメラマンのミランは、珍しくカメラを置いて、竜樹の話し相手になっている。


「確か、生まれつきのもの以上には、良くならないと思いましたよ。お金も結構かかるので、後天的な視力の悪化は、メガネで調節して、お金を貯めてから治す、というのが一般的ですね。それをやっても、年月が経つとまた悪くなる事もあるから、懐に余裕がないと出来ないですが。」

「だからメガネの人がいる訳か。」

そうですね、とミラン。


「アミューズが、ずっと目が悪いのを隠してたの、少しショックだったな。」

「もう少し、信頼されてるかと思いました?」

ミランの突っ込みに。

「それもあるけど、それより、ずっと隠さなきゃいけないほど、アミューズが捨てられるって怖がっていたのを、気づかなかったのが。俺、お気楽なんだなー、って。それに、これ、アミューズだけの問題じゃないんじゃないかな。」

「ええ。全ての、ではありませんが、どこか身体や精神に問題がある者は、裕福ではない家庭なら、弾かれてしまう事も多いでしょうね。力の弱い子供なら、尚更。」


「そもそも普通の人間も、完璧ではないけどさ。神様は、なんで人間を不完全におつくりになったんだろうねえ。」

はふ、と竜樹がため息をつくと。



ぶるるらる。


スマホに、メッセージが。





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